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参照用 記事

二重圏の縦横 補遺

二重圏、縦横をもう一度」において言い忘れたことがあります。ペースティング図/ストリング図の射の並びや結合をテキストに書き出すときの順番のことです。これも人により場合によりバラバラです。$`\newcommand{\mrm}[1]{ \mathrm{#1} }
\newcommand{\In}{\text{ in }}
\newcommand{\dcat}[1]{\mathbb{#1}}
\newcommand{\hyp}{\text{-} }
\newcommand{\NFProd}[3]{ \mathop{_{#1} \!\underset{#2}{\times}\,\!_{#3} } }
`$

内容:

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二重圏の構造

二重圏、縦横をもう一度」で述べたように、二重圏 $`\dcat{D}`$ は次のように記述できます。

$`\quad \xymatrix@C+1pc{
\dcat{D}_0 \ar[r]^{\mrm{unit}}
& \dcat{D}_1 \ar@/^1pc/[l]^{\mrm{trg}} \ar@/_1pc/[l]_{\mrm{src} }
& \dcat{D}_2 \ar[l]_{\mrm{prod}}
} \In {\bf CAT}\\
\text{Where}\\
\quad \dcat{D}_2 = \dcat{D}_1 \NFProd{\mrm{trg}}{\dcat{D}_0}{\mrm{src}} \dcat{D}_1
`$

二重圏 $`\dcat{D}`$ では、以下の3つの圏の構造が組み合わさっています。

1. $`\quad \dcat{D}_0 = (|\dcat{D}_0|_0, |\dcat{D}_0|_1, \mrm{dom}, \mrm{cod}, \mrm{id}, \mrm{comp} )`$
2. $`\quad \dcat{D}_1 = (|\dcat{D}_1|_0, |\dcat{D}_1|_1, \mrm{Dom}, \mrm{Cod}, \mrm{Id}, \mrm{Comp} )`$
3. $`\quad \dcat{D} = (\dcat{D}_0, \dcat{D}_1, \mrm{src}, \mrm{trg}, \mrm{unit}, \mrm{prod} )`$

一番目の圏は、大きな〈小さいとは限らない〉集合の圏 $`{\bf SET}`$ 内に配備〈deploy〉されます。これは、構成素 $`|\dcat{D}_0|_0, |\dcat{D}_0|_1`$ が $`{\bf SET}`$ の対象(大きな集合)として実現され、構成素 $`\mrm{dom}, \mrm{cod}, \mrm{id}, \mrm{comp}`$ が $`{\bf SET}`$ の射(写像)として実現されることです。ニ番目の圏も同様に、$`{\bf SET}`$ 内に配備・実現されます。

三番目の圏は事情が違います。大きな〈小さいとは限らない〉圏の2-圏 $`{\bf CAT}`$ 内に配備されます。構成素 $`\dcat{D}_0, \dcat{D}_1`$ は $`{\bf CAT}`$ の対象(大きな圏)として実現され、構成素 $`\mrm{src}, \mrm{trg}, \mrm{unit}, \mrm{prod}`$ は $`{\bf CAT}`$ の1-射(関手)として実現されます。

$`\dcat{D}_0`$ の圏構造は0階の圏構造、$`\dcat{D}_1`$ の圏構造は1階の圏構造と言えばいいでしょう。しかし、三番目の圏構造は $`\dcat{D}_2`$ の圏構造ではありません。関手達 $`\mrm{dom}, \mrm{cod}, \mrm{id}, \mrm{comp}`$ は、圏達 $`\dcat{D}_0, \dcat{D}_1, \dcat{D}_2`$ の外側にあるのです。その意味で、三番目の圏構造の構成素には形容詞「外部」を付けます。例えば $`\mrm{prod}`$ は外部結合〈{external | outer} composition〉です。

ややこしいことには、二重圏が $`{\bf CAT}`$ 内の内部圏〈internal category〉と呼ばれます。$`\mrm{prod}`$ は、内部圏の構成素である外部結合ということになります。もし、プロ射が横射だと約束すれば、外部結合はプロ射の横結合〈horizontal composition〉、二重射〈2-射 | 2-セル〉の横結合です。

図式順と反図式順

プロ射を横射にするか縦射にするかは単に約束の問題です。横射と呼んだ射を横方向に図示するかどうかは、それとは一応別な問題です。横射は横方向に描きたいでしょうが、ペースティング図とストリング図では方向が90度変わってしまいます。横射を、ペースティング図では横方向アロー、ストリング図でも横向きワイヤーにしたいなら、どちらかを90度回転する必要があります。

さらにまた別な問題として、テキストで書いたとき、結合の向きを図に合わせるか反対にするか? があります。アーカー/マクダルメットの次の論文の図を引用しながら説明します。

  • [AM23]
  • Title: The formal theory of relative monads
  • Authors: Nathanael Arkor, Dylan McDermott
  • Submitted: 27 Feb 2023 (v1), 17 May 2023 (v2)
  • Pages: 85p
  • URL: https://arxiv.org/abs/2302.14014

アーカー/マクダルメットは、二重圏の一般化である仮想二重圏〈virtual double category〉を扱っています。仮想二重圏では、二重射への“入力側”のプロ射が1つではなくて複数あってもかまいません。次の図が仮想二重射(仮想二重圏の2-射)のペースティング図です。プロ射が横射で、タイト射が縦射です。入力側(上側)のプロ射は複数あります。

この図の奇妙な点に気付きましたか? 横向きの矢印(プロ射)が左から右なのに、プロ射への番号付けが右から左に向かって $`p_1, p_2, \cdots, p_n`$ となっています。なぜかと言うと、横結合〈外部結合〉を反図式順結合記号 $`\odot`$ で書くからです。反図式順結合記号では、図とテキストの向きが反転します。つまり、図で左から右なら、テキストでは右から左に書くことになります。上の図の横射〈プロ射〉を全部結合するなら、次のようです。

$`\quad p_1\odot p_2 \odot \cdots \odot p_n`$

図式順結合記号を $`*`$ とするなら、同じことを次のように書くことになります。

$`\quad p_n * \cdots * p_2 * p_1`$

番号を逆順に付けるなんて奇妙なことをするより、図式順結合記号を使えばいいだろうに、と思うのですが‥‥

さらに奇妙な(だと僕には思える)ことは、ペースティング図に対応するストリング図では、左から右に番号を付けていることです。

縦射〈タイト射〉 $`f_0, f_n`$ は反時計回りに90度回転しています。横射〈プロ射〉を表す縦ワイヤーに矢印が付いてませんが、こっちは時計回りに90度回転です。そうでないと、縦ワイヤーの方向が下から上になってしまいます。そして、縦ワイヤー〈プロ射〉は左から右へと見ていきます。ウーン、なんか理由があるのでしょうが、ちょっと事情が分かりません。

テキスト記法の反図式順に拘っているのかというと、そうでもないようです。次は、仮想二重射の縦方向への結合の図です。

左右両端の縦射〈タイト射〉の結合が $`f';g',\; f;g`$ とセミコロンで書いてあり、これは図式順結合記号です。仮想二重射はオペラッド〈複圏〉と同じように結合しますが、オペラッド結合にも図式順結合記号 $`;`$ を使っています。リスト $`(\phi_1, \cdots, \phi_n)`$ は図を右から左に見ながら書き出すってことでしょう。

ストリング図ではなぜか左から右への番号付けですから、次のようです。

ストリング図なら、オペラッド結合のテキスト記法 $`(\phi_1, \cdots, \phi_n); \psi`$ は自然に見えます。

[追記]

記号「$`\odot`$」をプロ射の外部結合に使うことは多いようですが、いつでも反図式順というわけではありません。パトリック・シュルツの次の論文では「$`\odot`$」を図式順で使っています。

一部を画面コピーで引用します。ペースティング図のラベルとテキスト内の $`P_1\odot\cdots\odot P_n`$ に注目してください。


[/追記]

注意事項

記法・図法は、人によりけり場合によりけりなので、毎回次のことを確認する必要があります。

  1. プロ射が縦射か横射か?
  2. ペースティング図において、プロ射がどの向きのアローで描かれるか?
  3. ストリング図において、プロ射がどの向きのワイヤーで描かれるか?
  4. テキスト記法で、横結合の記号が図式順か反図式順か?
  5. テキスト記法で、縦結合の記号が図式順か反図式順か?
  6. 射の並びに番号を付けるとき、どの方向(左から右、右から左、下から上、上から下)で番号付けをするか?

描画方向とテキスト書字方向の変化や多様性に対応するためにはそれなりのトレーニングが必要です。