「スケマティック〈schematic〉」という形容詞の使い方を説明します。
内容:
代数構造
典型的な代数構造である群を考えてみると、群は単位元、逆元(を対応させる写像)、二項演算〈乗法〉を持ちます。群の台集合〈underlying set〉を $`A`$ として、群の構成素を並べると:
$`\quad e \in A\\
\quad i :A \to A\\
\quad m :A\times A \to A
`$
単位元は、特定された単元集合 $`\mathbf{1}`$ からの写像だとみなせるので、次のようにも書けます。
$`\quad e : \mathbf{1} \to A`$
3つの演算〈写像 | 関数〉をまとめて $`\mathrm{op}`$ と書いて、群の構成素達を次の形にします。
$`\quad \mathrm{op}_0 : A^0 \to A\\
\quad \mathrm{op}_1 :A^1 \to A\\
\quad \mathrm{op}_2 :A^2 \to A
`$
群の構成素である演算達は、インデキシング集合 $`\{0, 1, 2\}`$ でインデックスされた演算の族〈indexed family of operations〉となります。この例では、インデックスが演算の項数〈arity〉になってますが、インデックスが項数であることを要求しているわけではありません。
一般に、代数構造〈algebraic structure | 代数系 | algebraic system〉は、台集合と演算の族と、等式的法則(複数でもよい)からなります。法則をまったく持たない代数構造はマグマ〈magma〉と呼びます。通常、マグマは二項演算をひとつだけ持つ代数系を指しますが、ここでは、法則を持たないことをマグマの定義として、演算は複数あってもいいとします。単位元のような無項演算〈ゼロ項演算〉も演算の仲間です。
スケマティック系
2023年の夏くらいに、「スケマティック」という形容詞とスケマティック系という概念を導入しました。次がハブ記事です。
「スケマティック」という形容詞は、今後、次の意味で使うことにします。
- 絵図的手法を使って定義された、一般化された◯◯◯
スケマティック◯◯◯と呼ぶときは、次の2つのことが前提されます。
- それは、絵図的手法〈{pictorial | graphical | diagrammatic} {approach | method}〉を使って定義されている。
- それは、一般化された〈generalized〉代数構造である。
今までも、「スケマティック」をこのような意味で使っていたのですが、ここでもう一度確認しておきます。
スケマティック系〈schematic system〉とは、絵図的手法を使って定義された、一般化された代数系〈graphically-defined generalized algebraic sysem〉のことです。
スケマティックな構造達
通常の代数系は、台集合、演算、法則から構成されます。法則を持たない場合は特にマグマと呼ぶと約束しました。
スケマティック系も同じく、台〈underlying thing | carrier〉、演算〈operation〉、法則〈law〉からなります。ただし、それぞれが絵図的手法を使って定義され一般化されています。つまり、次のように言えます。
- スケマティック系の台は、スケマティック集合〈schematic set〉(絵図的手法を使って定義された、一般化された集合)である。
- スケマティック系の演算は、スケマティック演算〈schematic operation〉(絵図的手法を使って定義された、一般化された演算)である。
- スケマティック系の法則は、スケマティック法則〈schematic law〉(絵図的手法を使って定義された、一般化された法則)である。
スケマティック集合とは、「一般化反射的グラフ」で述べた一般化グラフ〈グラフ類似構造〉です。単体集合〈simplicial set〉や球体集合〈globular set〉(「球体集合と組み合わせ幾何」参照)もスケマティック集合です。単なる集合とは限らず、組み合わせ幾何的構造〈combinatorial geometric structure〉が載った集合がスケマティック集合です。
スケマティック演算は、適切なインデキシング集合でインデックス付けられた演算の族〈ファミリー〉です。インデキシング集合をどうするか? が大きな問題です。球体的に定義される高次圏では、バタニン・ツリー(「バタニン・ツリー 再論」参照)の集合がインデキシング集合になっています。
台であるスケマティック集合の上に、スケマティック演算が載っただけの構造はスケマティック・マグマ〈schematic magma〉です。
スケマティック法則は、一貫性〈coherence〉の記述であり、可換図式の一般化である絵図的対象物により記述されます。一貫性記述は難題です。
スケマティック演算が結合法則のスケマティック版を満たすとき、それはスケマティック半群〈schematic semigroup | 半群類似構造〉です。さらに単位法則のスケマティック版を満たすときはスケマティック・モノイド〈schematic monoid | モノイド類似構造〉です。圏をはじめとして、我々が扱うスケマティック系の多くはスケマティック・モノイドです。