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参照用 記事

専門家を信用できない社会は辛すぎる

Web散策で、座談会記事http://www.glocom.ac.jp/project/chijo/2004_04/2004_04_02.pdfを読みました。エコノフィジックス学者・高安さんの発言(座談会の本筋の話題ではないのだけど)が僕の注意を引きました。確率・統計を学校でちゃんと教えていないことに関連して(P.5):

たとえば生命保険だったら何歳で死ぬ確率がどのくらいあるかということをきちんと考えると、これぐらいの値段が適正だと出るわけですが、それも確率で勉強しないといけない。それを知らないと言い値で保険を買わなければならなくなり、知らない間に保険金を払いすぎて損をすることになる。…(続いて金融の話題)… それを知らないために、オプションなどのいわゆる金融派生商品を高い値段で買わされることになるのです。

これを受けてGLOCOM所長・公文さんも:

自分の財産は自分で守るべきで、銀行に預けておけばいいということにはならないなどと、常識として言われています。身体についても、古典力学の法則に従って体が動いているわけではないので、リスクやゆらぎのことをよく理解して自分の健康管理を考えるということが、今後は常識になっていかないといけない。

ここでの話題の展開は、学問分野/専門領域としての確率・統計があり、それが日常生活でも重要ですよ、ということで、その例として保険、金融派生商品、貯蓄、さらには健康管理にまで話が及んでいるわけです。印象的なセンテンスを再度抜き書きすれば:

  • 知らない間に保険金を払いすぎて損をすることになる
  • 金融派生商品を高い値段で買わされることになる
  • 自分の財産は自分で守るべき
  • 自分の健康管理を(自分で)考える

なんか、「無知なシロートは損するばかり。よく勉強した上で自己責任で行動しろよ。」と脅されている気分になります。「勉強しろ(知識を身に付けろ)」、「自己責任だ」とはよく言われることだけど、ほんとにそうなの? 勉強するのはそりゃケッコーなことだけど、「誰が/何を/どこまで」勉強すべきなの?

僕の経験:アトピーで右往左往

長男が赤ん坊だった頃、皮膚病で医者にいってみたら、アトピーだと言われステロイド剤を処方されました。別な医者にいくと「アトピーじゃないから心配ない」と、さらに別な医者では「アトピーかも知れないが、ステロイド剤は要らない」と。

僕は医者が信用できなくなり、大きな本屋に行きました。すると、専門書から民間療法までアトピー本がズラリ。この薬がいいだの、あの温泉がいいだの、なかにはいかにもアヤシイのも混じっています。これじゃ、医者よりもっとずっと全然アテにならない。

そもそもお医者さんて、高度な専門教育を受けた専門家です。その人々を信用できないと言ったところで、基礎知識もなにもない僕が、根拠も正当性も明らかでない本を何冊か読んだところで、お医者さんより適切な判断が下せるわけないですよね。僕に出来るのは、医学知識そのものを勉強することではなくて、相対的に信頼できると思われる専門家(医者)を世間の評判などを手がかりに探すことくらいです。*1

「餅は餅屋」に任せたい

「自分と家族の健康管理を自分で考える」とはいっても、生半可な知識はむしろ危険かもしれません。誰もが正しい医学知識をマスターしろ、ってのもそりゃ無理。他の分野でも事情は同じでしょう。シロートがそこそこ勉強したら自己責任で判断を下せて正しく行動できる、もしそうならそんな分野の「専門家」って何でしょう? シロートと大差ないのなら専門家なんて名のれないでしょうよ。

こんな複雑化した社会では、必要な知識や技量は、とてもじゃないが一人でマスターできない。だから専門家がいるわけで、「自分で勉強しろ」「自己責任だ」ってのは話がオカシイよ。「万人が知識を習得すべし」と「専門家の専門性という概念」はどう折り合いがつくの? 僕は、「専門家がいるのだからシロートはシロートのままでいい」というほうが幸せだな。

「自分で勉強しろ」「自己責任だ」には、一般的な基礎知識/技量(リテラシーって言うのかしら)の底上げを訴えていることもありますね。高安さん/公文さんはそういう意図だったのかもしれない。しかし、保険、金融派生商品、健康は、いずれも専門性が高い分野で、シロートに頑張れと言うよりは、専門家を信頼できる体制なり状況なりを作って欲しい。

専門家をイチイチ疑ったり、彼/彼女らの判断を毎回検証したりするのはシンド過ぎるよ。イヤだなー。ここで“専門家”と言っているのは、医者や弁護士ばかりじゃないよ。例えばデニーズのレジ、あなた達もその道の専門家、毎度レシートをチェックしたくねーよ、間違えるな!

*1:実際には、幸いにも「アトピーじゃないから心配ない」でした。