“ファイバーの計算”に必要な幾つかの圏同値を示します。$`\newcommand{\mrm}[1]{ \mathrm{#1} }
\newcommand{\hyp}{\text{-} }
\newcommand{\In}{\text{ in }}
\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}
\newcommand{\F}[1]{ {{#1}^{-1}} } % fiber
\newcommand{\obj}[1]{ {{#1}\!\downarrow} }
\newcommand{\dimU}[2]{ {{#1}\!\updownarrow^{#2}} }
`$
内容:
ハブ記事:
復習と設定
$`\cat{S}`$ は集合圏の部分圏でファイバーに関して閉じているとします。「ファイバーに関して閉じている」の意味は、次が成立することです。
- $`f: I \to J \In \cat{S}, j\in J`$ ならば、$`f^{-1}(j) \in |\cat{S}|`$
$`\F{f}(j)`$ は関数〈写像〉の逆像集合ですが、ここでは(射 $`f`$ の $`j\in J`$ における)ファイバー〈fiber | fibre〉と呼びます。
$`\cat{S}`$ の対象 $`K\in |\cat{S}|`$ に対して、$`\cat{S}^K`$ は次のような圏です。
- $`\cat{S}`$ の対象は、$`G: K \to |\cat{S}| \In {\bf SET}`$ という写像。$`K`$ 上のファミリー〈family〉と呼ぶ。写像の値 $`G(k) \text{ for some }k\in K`$ は、ファミリー $`G`$ の $`k\in K`$ における成分〈component〉またはファイバー〈fiber | fibre〉と呼ぶ。
- $`G, H`$ が $`\cat{S}`$ の対象〈ファミリー〉のとき、そのあいだの射 $`\alpha`$ は、$`\cat{S}`$ の射の族 $`(\alpha_k : G(k) \to H(k))_{k\in K}`$ 。あるいは、同じことだが、$`\alpha : K \to \mrm{Mor}(\cat{S})`$ という写像で、“両端” が $`G, H`$ に一致するもの。射を、ファミリーの準同型射〈homomorphism〉、またはファミリー射〈family morphism〉と呼ぶ。写像の値 $`\alpha_k \text{ for some }k\in K`$ をファミリー射 $`\alpha`$ の $`k\in K`$ における成分〈component〉と呼ぶ。
「変換手n-圏のブラケット記法」で導入したブラケット記法を使うと、次のように簡潔に書けます。
$`\text{For }\cat{S} \in |{\bf CAT}|, K \in |\cat{S}|\\
\quad \cat{S}^K := ([K, \cat{S}]_1 \; \in |{\bf CAT}|)\\
\quad |\cat{S}^K| := ([K, \cat{S}]_0 \; \in |{\bf SET}| )
`$
次の4つの圏のあいだの圏同値をこの記事で示します。
- $`\cat{S}^K/G`$
- $`\prod_{k\in K} (\cat{S}/G(k))`$
- $`\prod_{k\in K} (\cat{S}^{G(k)})`$
- $`\cat{S}^{\sum_{k\in K} G(k) }`$
2番目、3番目に出てくるたくさん(かも知れない)圏の直積〈パイ構成〉については次節で説明します。
圏の直積〈パイ構成〉
$`I\in |{\bf Set}|`$ をインデキシング集合として、$`\cat{C}[\hyp]`$ は次のような写像、つまり、圏のインデックス付き族とします。
$`\quad \cat{C}[\hyp] : I \to |{\bf CAT}| \In \mathbb{SET}`$
$`I`$ を離散圏とみなせば、次のような関手です。
$`\quad \cat{C}[\hyp] : \dimU{I}{1} \to \dimU{\bf CAT}{1} \In \mathbb{CAT}`$
$`\dimU{\hyp}{1}`$ は圏の次元調整を示します。次元調整については、「圏の次元調整」を参照してください。
圏達のインデックス付き族 $`\cat{C}[\hyp]`$ の直積〈direct product | パイ構成 | pi construction〉は次のように書きます。
$`\quad \prod_I \cat{C}[\hyp] = \prod_{i\in I} \cat{C}[i]`$
$`\prod_I \cat{C}[\hyp]`$ は次のような圏です。
- 対象は、$`(c_i \in \cat{C}[i])_{i\in I}`$ というタプル。これは、パイ型〈集合の直積〉 $`\prod_I |\cat{C}[\hyp]|`$ の要素。
- 射は、$`(f_i \in \mrm{Mor}(\cat{C}[i]) )_{i\in I}`$ というタプル。これは、パイ型〈集合の直積〉 $`\prod_I \mrm{Mor}(\cat{C}[\hyp])`$ の要素。
圏の $`\mrm{dom}, \mrm{cod}, \mrm{id}, \mrm{comp}`$ は、タプルに対して成分ごとに定義します。この安直な定義でもちゃんと圏になります。
$`(\cat{C}[i])_{i\in I}`$ と $`(\cat{D}[i])_{i\in I}`$ が2つのインデックス付き族として、インデックスごとに圏同値になっているとします。
$`\text{For }i\in I\\
\quad \cat{C}[i] \cong \cat{D}[i] \In {\bf CAT}
`$
これは、各 $`i\in I`$ ごとに、圏同値を与える関手 $`F_i : \cat{C}[i] \to \cat{D}[i]`$ と $`G_i : \cat{D}[i] \to \cat{C}[i]`$ が存在する、ということです。
この状況で、直積に組んだ圏のあいだにも圏同値が在るのは明らかでしょう。
$`\quad \prod_{i\in I}\cat{C}[i] \cong \prod_{i\in I}\cat{D}[i] \In {\bf CAT}
`$
このことから、$`G\in |\cat{S}^K|`$ に対して次の圏同値は言えます。
なぜなら、各 $`k\in K`$ ごとに、バンドル-ファミリー対応 $`\cat{S}/G(k) \cong \cat{S}^{G(k)}`$ が在るからです。$`k`$ ごとのバンドル-ファミリー対応はファイバー関手 $`R_{G(k)} : \cat{S}/G(k) \to \cat{S}^{G(k)}`$ で与えられるので、当該の圏同値はファイバー関手達の直積 $`\prod_{k\in K} R_{G(k)}`$ で与えられます。
ファミリー射のバンドル・タプル表示
この節で、次の圏同値を示します。
この圏同値は、集合 $`K`$ 上の$`\cat{S}`$-値ファミリーのあいだのファミリー射を、$`\cat{S}`$ 内のバンドルを成分とするタプルで表示できることを表します。
上記の圏同値を与える関手を $`\Phi, \Psi`$ とします。
$`\quad \Phi : \cat{S}^K/G \to \prod_{k\in K} (\cat{S}/G(k)) \In {\bf CAT}\\
\quad \Psi : \prod_{k\in K} (\cat{S}/G(k)) \to \cat{S}^K/G \In {\bf CAT}
`$
$`K`$ 上の $`\cat{S}`$-値ファミリー $`F, G`$ のあいだのファミリー射を $`\alpha`$ とします。
$`\quad \alpha : F \to G \In \cat{S}^K`$
この $`\alpha`$ は次のようなスライス圏の対象を定義します。
$`\quad \obj{\alpha} \in |\cat{S}^K/G|`$
スライス圏 $`\cat{S}^K/G`$ の射は次のように書くのでした(「ファイバーの計算 基本概念」参照)。
$`\quad \varphi^\beta : \obj{\alpha}\to \obj{\beta} \In \cat{S}^K/G `$
これを、$`\cat{S}^K`$ 内に展開すれば次の可換図式になります。
$`\quad \xymatrix{
F \ar[dr]_{\alpha} \ar[rr]^{\varphi}
& {}
& H \ar[dl]^{\beta}
\\
{}
& G
& {}
}\\
\text{commutative }\In \cat{S}^K
`$
さて、これから $`\Phi(\obj{\alpha}), \Phi(\obj{\beta}),\Phi(\varphi^\beta)`$ を定義していきます。
$`\alpha`$ を成分表示すると、$`k\in K`$ に対して次の成分が得られます。
$`\quad \alpha_k :F(k) \to G(k) \In \cat{S}`$
これは、集合 $`G(k)`$ 上のバンドル(スライス圏の対象)だとみなせます。
$`\quad \obj{\alpha_k} \in |\cat{S}/G(k) |`$
$`k\in K`$ に渡ってタプル構成すると:
$`\quad (\obj{\alpha_k})_{k \in K} \in \prod_{k\in K} |\cat{S}/G(k)| = |\prod_{k\in K} \cat{S}/G(k) |`$
これを $`\Psi(\obj{\alpha})`$ と定義します。
$`\quad \Psi(\obj{\alpha}) := (\obj{\alpha_k})_{k \in K} \in | \prod_{k\in K} (\cat{S}/G(k)) |`$
$`\Psi(\obj{\beta})`$ も同様です。
$`\quad \Psi(\obj{\beta}) := (\obj{\beta_k})_{k \in K} \in | \prod_{k\in K} (\cat{S}/G(k)) |`$
$`\varphi`$ も成分表示すると、$`k\in K`$ に対して次の成分が得られます。
$`\quad \varphi_k :F(k) \to H(k) \In \cat{S}`$
$`k`$-成分達は、$`\cat{S}`$ 内に次の可換三角形を描きます。
$`\quad \xymatrix{
F(k) \ar[dr]_{\alpha_k} \ar[rr]^{\varphi_k}
& {}
& H(k) \ar[dl]^{\beta_k}
\\
{}
& G(k)
& {}
}\\
\text{commutative }\In \cat{S}
`$
つまり、$`\cat{S}/G(k)`$ における次の射を定義します。
$`\quad {\varphi_k}^{\beta_k} : \obj{\alpha_k} \to \obj{\beta_k} \In \cat{S}/G(k)`$
これらを $`k\in K`$ に渡ってタプル構成すると:
$`\quad ({\varphi_k}^{\beta_k})_{k\in K} : (\obj{\alpha_k})_{k\in K} \to (\obj{\beta_k})_{k\in K} \In \prod_{k\in K} (\cat{S}/G(k))`$
これを $`\Phi(\varphi^\beta)`$ とします。
$`\quad \Phi(\varphi^\beta) := ({\varphi_k}^{\beta_k})_{k\in K} : \Psi(\obj{\alpha}) \to \Psi(\obj{\beta}) \In \prod_{k\in K} (\cat{S}/G(k))`$
以上で $`\Phi(\obj{\alpha}), \Phi(\obj{\beta}),\Phi(\varphi^\beta)`$ が定義できました。$`\Phi`$ が関手になることを確認する必要がありますが割愛します。
今度は、逆向きの関手 $`\Psi`$ を定義します。圏 $`\prod_{k\in K} (\cat{S}/G(k))`$ の対象も射もインデキシング集合 $`K`$ を持つタプルです。射の成分表示により、$`k\in K`$ に対するスライス圏 $`\cat{S}/G(k)`$ の射が得られます。
$`\quad {f_k}^{b_k} : \obj{a_k} \to \obj{b_k} \In \cat{S}/G(k)`$
これは、$`\cat{S}`$ 内の可換三角形に対応します。
$`\quad \xymatrix{
I_k \ar[dr]_{a_k} \ar[rr]^{f_k}
& {}
& J_k \ar[dl]^{b_k}
\\
{}
& G(k)
& {}
}\\
\text{commutative }\In \cat{S}
`$
これらの可換三角形達の、$`k\in K`$ に渡る総体は、圏 $`\cat{S}^K/G`$ の対象と射を定義します。それを $`\Psi`$ の値とします。
$`\Phi`$ と $`\Psi`$ が、$`\cat{S}^K/G`$ と $`\prod_{k\in K} (\cat{S}/G(k))`$ のあいだの圏同値を与えることを示すには細部の確認が必要ですが、どちらの圏の射も次のような $`\cat{S}`$ 内の可換三角形の$`K`$-タプル〈$`K`$-インデックス付き族〉で表示できるので、同一視可能なことはわかるでしょう。
$`\quad \left(\xymatrix{
\cdot \ar[rr] \ar[dr]
& {}
& \cdot \ar[dl]
\\
{}
& {G(k)}
& {}
}\right)_{k\in K}
`$
指数法則
この節では、次の圏同値を示します。
これは、指数部の足し算を掛け算で表す指数法則です。
ファミリー $`G:K \to |\cat{S}|`$ に対して、そのファイバー達の総和を $`I`$ と置きます。
$`\quad I := \sum_{k \in K}G(k)`$
すると、$`(G(k))_{k\in K}`$ は集合 $`I`$ の$`K`$-インデックス付き弱分割(「弱分割関係は関数の転置」参照)となります。
任意のファミリー $`F:I \to |\cat{S}|`$ に対して、$`F`$ のインデキシング集合 $`I`$ の弱分割により、$`F`$ も細切れにできます。
$`\text{For }k \in K\\
\quad F|_{G(k)} : G(k)\to |\cat{S}| \In {\bf SET}
`$
細切れにした成分 $`F|_{G(k)}`$ を $`k\in K`$ に渡ってタプル構成すれば、$`\prod_{k\in K} (\cat{S}^{G(k)})`$ の対象が得られます。
$`\quad (F|_{G(k)})_{k\in K} \in \prod_{k\in K} |(\cat{S}^{G(k)})| = |\prod_{k\in K} (\cat{S}^{G(k)})|`$
$`\cat{S}^I`$ の射 $`\alpha : F \to H`$ についても、$`G(k) \subseteq I`$ 上に制限した細切れ成分を作って、それをタプル構成すれば $`\prod_{k\in K} (\cat{S}^{G(k)})`$ の射が得られます。
逆向きの関手は、タプル成分達を繋ぎ合わせて $`I = \sum_{k\in K}G(k)`$ 全域で定義されたファミリーを作る構成法で与えられます。
インデキシング集合 $`I`$ の弱分割に基づいて、タプル成分への分解とタプル成分からの合成をすることが、この圏同値の実質的な意味です。
そしてそれから
“ファイバーの計算”は、ファイバー関手で与えられるバンドル-ファミリー対応から導かれる計算公式の探索と応用を意図しています。2階スライス構成と2階ファミリー構成に対するバンドル-ファミリー対応の定式化は重要な目標です。次は、2階スライス構成について調べる予定です。