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参照用 記事

緩関手、反緩関手、強関手、厳密関手とか、おぼえられねー

厳密(strict)とは限らない一般的モノイド圏って、一貫性条件があるので定義がそもそもヤヤコシイです。モノイド圏のあいだの構造を保つ関手はモノイド関手(monoidal functor)ですが、これがまた何種類もあってメンドクサイ。自然変換の向きで呼び名が変わったりするので、分類がおぼえられない。コジツケでもいいから、うまい覚え方がないかなー。おぼえられそうにないので、後で参照するためのメモを書いておこう、っと。

関手の種類であるlax, oplaxには決まった訳語もないようなので、とりあえず「緩」「反緩」としておきます。strong, strictは、比較的定着している「強」「厳密」を使います。

C, Dがモノイド圏として、モノイド積は□、単位対象はIで表すことにします(適宜、記号の乱用をします)。CからDへの緩モノイド関手(lax monoidal functor)は次の構成要素からなります。

  1. モノイド構造を忘れたC,D(単なる圏)のあいだの関手 F:CD
  2. 自然変換 Φ::F(-)□F(-)⇒F(-□-):C×CD
  3. 射 ΦI:I→F(I) in D

関手Fを、Φcatと置いて、Φ = (Φcat, Φ, ΦI) と書くことにします。構成要素である Φcat, Φ, ΦI はそれぞれ、台の圏(underlying category)、モノイド積、モノイド単位の対応付けと変換の操作です。

これらの構成要素が満たすべき条件として、五角形の可換図式が1つと三角形の可換図式が2つあります。可換図式をそのまま描くのは手間なので、射の経路を別々に書き下して「どっちの経路を通っても同じ」というスタイルで条件を記述することにします。

えっ、なに、外出する時間? そうですか。続きはまた後で。 続きをこの下に書きます(2011-09-07)。

モノイド圏におけるup-to-isoの計算法則を与える構造自然同型を α, λ, ρ とします。

  1. αA,B,C:(A□B)□C→A□(B□C)
  2. λA:I□A→A
  3. ρA:A□I→A

それぞれ、結合律、左単位律、右単位律の記述となっています。これらは全部同型射なので、逆射が存在します。

  1. αA,B,C-1:A□(B□C)→(A□B)□C
  2. λA-1:A→I□A
  3. ρA-1:A→A□I

手始めに、緩モノイド関手の五角可換図式に対応する法則を書き下してみます。入れ子の括弧を見やすくするために、関手Fと対象Aの適用をF(A)ではなくて、FA または F[A] と書くことにします。F := Φcat, Φ := Φ, φ := ΦI という別名も使います。

緩モノイド関手の結合律に関する一貫性

緩モノイド関手では、FA□(FB□FC)→F[(A□B)□C] という変形を考えます。変形には、結合律同型(associator)αと自然変換 Φ = Φ を使います。

一番目の変形の経路は次です。

FA□(FB□FC)
------------- FA□ΦB,C
FA□F[B□C]
------------- ΦA,B□C
F[A□(B□C)]
------------- F[α-1]
F[(A□B)□C]

そして、二番目の経路は次。

FA□(FB□FC)
------------- α-1
(FA□FB)□FC
------------- ΦA,B□FC
F[A□B]□FC
------------- ΦA□B,C
F[(A□B)□C]

以上の2つの経路を使った変形が、モノイド圏D内の同一の射:FA□(FB□FC)→F[(A□B)□C] を与えるという主張が、結合律に関する一貫性です。

緩モノイド関手の左単位律に関する一貫性

結合律のときと同様なので、I□FA→F[I□A] の2つの経路だけを書きます。

一番目:

I□FA
------- λ
FA
------- F[λ-1]
F[I□A]

二番目:

I□FA
------- φ□FA
FI□FA
------- ΦI,A
F[I□A]

右単位律に関する一貫性もまったく同様なので省略します。FA□I→F[A□I] を考えてください。

反緩モノイド関手と双対性

緩モノイド関手と反緩モノイド関手は、ある種の双対になっています。構成要素である自然変換、射の向きが逆です。Ψ = (Ψcat, Ψ, ΨI) = (G, Ψ, ψ) が反緩モノイド関手だとは次のことです。

  1. モノイド構造を忘れたC,D(単なる圏)のあいだの関手 G:CD
  2. 自然変換 Ψ::F(-□-)⇒F(-)□F(-):C×CD
  3. 射 ΨI:F(I)→I in D

結合律、左単位律、右単位律という計算法則の一貫性を考えるときの向きも逆になります。

  • 結合律 F[(A□B)□C]→FA□(FB□FC)
  • 左単位律 F[I□A]→I□FA
  • 右単位律 F[A□I]→FA□I

緩(lax)と反緩(oplax)は、単に矢印の向きが逆転するだけで、どちらがより基本的ということはありません。それで当然に、どっちが緩で、どっちが反緩かの説得的基準はなく、「おぼえられねー」のです。

特に必然性がない(あるか?)連想なのですが、I□FA→F[I□A] は、テンソル強度(tensorial strength)と同じ形です。テンソル強度は、A□FB → F[A□B] という射として定義されます。余強度(costrength)の形は、F[A□B]→FA□B です。テンソル強度/余強度では、積(モノイド積、テンソル積)が関手の中に入り込む方向が正順で、積が関手の外に出て行く方向が逆順になっています。

緩モノイド関手と反緩モノイド関手でも、モノイド積が関手の中に入り込む方向がlaxで、モノイド積が関手の外に出て行く方向がoplaxなので、強度のときと同じ、と言えなくもありません。これをヒントにしておぼえられるかなー?

強モノイド関手と厳密モノイド関手

強モノイド関手とは、緩モノイド関手の定義で登場するΦとΦIがそれぞれ、自然同型と同型射となっているものです。一貫性を与える射が同型射(可逆射)になるので、もう矢印の向きを気にする必要はありません。強モノイド関手の双対の反強モノイド関手という概念は、強モノイド関手と同じになります。

厳密モノイド関手は、強モノイド関手における同型射が恒等射になったものです。up-to-isoではなくてon-the-noseで等式が成立するので、普通の当式変形が気兼ねなく使えます。

なお、形容詞なしで単にモノイド関手と言った場合は、強モノイド関手を意味することが多いようです。

モノイド圏の圏

関手圏のような高階の概念を使うと、見通しがよくなることがあります。モノイド圏の議論をするときも、モノイド圏を対象にして、なんらかの種類のモノイド関手を射とする圏を考えほうが有利なときもあります。そのときは、なんらかの種類のモノイド自然変換も考えて2-圏として、ベースのモノイド積から入れた構造も一緒に考えます。

高階でいろいろな構造を備えた複雑な圏ができますが、探しているモノがそういう圏に生息している可能性があれば、構成して調べてみるしかないですね。