昨日の記事の最後の節(付録)「図式思考の例として、ラックス・モノイド関手について考えてみる // ストリング図とストライプ図」の続きです。
内容:
自然変換ストリング図と関手ストリング図
単に「ストリング図」と言ってきましたが、二種類のストリング図が登場してましたね。「自然変換、関手、圏」を表すストリング図を自然変換ストリング図〈natural transformation string diagram〉、「関手、圏」を表すストリング図を関手ストリング図〈functor string diagram〉と呼んで区別することにします。
自然変換ストリング図と関手ストリング図では、各次元の図形〈セル〉が表すものが違います。
自然変換ストリング図 | 関手ストリング図 | |
---|---|---|
エリア(2次元) | 圏 | (なし) |
ワイヤー(1次元) | 関手 | 圏 |
ノード(0次元) | 自然変換 | 関手 |
下の図は、「図式思考の例として、ラックス・モノイド関手について考えてみる」に出てきた自然変換ストリング図と関手ストリング図です。次元が食い違ってます。
ストライプ図も含めて、縦結合、横結合、直積の方向に関しては:
自然変換ストリング図 | 関手ストリング図 | ストライプ図 | |
---|---|---|---|
縦結合方向 | 上から下に縦 | (なし) | 上から下に縦 |
横結合方向 | 左から右に横 | 上から下に縦 | 奥から手前 |
直積方向 | 手前から奥 | 左から右に横 | 左から右に横 |
次はストライプ図の例です。
それぞれの描画法ごとに、次元と方向の使い方がマチマチです。これが混乱・困惑の原因になってますが、一方で、文字通り多面的な/多方向からの見方をする助けにもなっています。
ストリング図書き換え
昨日の「図式思考の例として、ラックス・モノイド関手について考えてみる」で紹介した、本来の3次元ストリング図書き換えでは、自然変換を2次元図の書き換えとみなします。
方向の使い方は次のようです。(上のバートレットの図では横結合が下から上ですが、僕は上から下です。)
自然変換ストリング図 | 3Dストリング図書き換え | |
---|---|---|
縦結合方向 | 上から下に縦 | 奥から手前 |
横結合方向 | 左から右に横 | 上から下に縦 |
直積方向 | 手前から奥 | 左から右に横 |
ストリング図書き換えを2次元内に描くときは、奥から手前の縦結合方向を、2次元内に適当に収めます。次の図は、「図式思考の例として、ラックス・モノイド関手について考えてみる」の図をわずかに変更したもので、ラックス・モノイド関手の結合律を表す図です。β1, β2, β3, γ1, γ2, γ3 と名前が付けられた矢印は書き換え(自然変換)を表します。
ラベル付けが誤解を招きそうなので注意しておくと; β1, β2, β3, γ1, γ2, γ3 は、ストリング図の一部の書き換えにラベル付けしたのではなくて、ストリング図全体の書き換えを意味します。例えば、β3は、下段1番のストリング図全体を上段1番のストリング図に書き換える自然変換の名前です。
ストライプ図
前節のラックス・モノイド関手の結合律を表すストリング図書き換えを、ストライプ図で描くと以下のようになります。ストリング図書き換えの下段4番から上段1番に至る2つの書き換えパスは等しいことを意味します。ストリング図書き換えの、「上段4番 → 上段3番」と「下段4番 → 下段3番」の書き換えはストライプ図には現れません(奥行きの前後を表現できないので)。
ストリング図書き換えの個々のストリング図は、ストライプ図では単純でストレートなストライプ模様(シース*1に包まれた芯線〈心線〉の並び)になります。書き換え(自然変換)が曲がりや合流として描かれます。
例えば、ストリング図書き換えの下段4番の図は、ストライプ図等式左辺の最上部パーツに対応します(次の図)。
ストライプ図を描くときは、圏Cの3つの対象 A, B, C を選びます。A, B, C がストライプ図ケーブル(シースに包まれたワイヤー)の芯線〈心線〉になります。
関手の組み合わせ ((F×F)×F)*(×Id)* に、公平3-タプル*2(A, B, C) を渡すと、値は(普通の書き方で)(F(A)F(B))F(C) になります。ストリング図では (A, B, C).( ((F×F)×F)*(×Id)* ) という構成・構造が描かれ(ドットは図式順の適用)、ストライプ図では単純化した結果 (F(A)F(B))F(C) が描かれます。
ストライプ図では、ストリング図の上下縦方向が前後奥行き方向になることにより、前後関係の情報は見えなくなります。それが、いい具合に単純化と視認性の良さにつながっています。
*1:シースとは、電線(例えば同軸ケーブル)の外側を包むビニルやゴムの外皮です。「モノイド関手/ラックス・モノイド関手とその実例」に写真があります。
*2:公平な3-タプルとは、((A, B), C) と (A, (B, C)) の区別がない長さ3のタプルのことです。