米田埋め込みをひらがなの「よ」で書く例はチラホラと見るようになりました。最初に使い出したのは(おそらく)リ・ブランド〈David Li-Bland〉(https://davidlibland.github.io/)です。$`
\newcommand{\cat}[1]{ \mathcal{#1}}
\newcommand{\In}{ \text{ in }}
`$
- Title: The stack of higher internal categories and stacks of iterated spans
- Author: David Li-Bland
- Date: 29 Jun 2015
- Pages: 38p
- URL: https://arxiv.org/abs/1506.08870
上記論文の脚注によると、ジョンソン・フレイド〈Theodore Johnson-Freyd〉(http://categorified.net/)が「よ」を提案したようです。
「よ」の普及(?)に大きな影響力があったのはロアギアンロージエン〈Fosco Loregian〉*1の論文(むしろ教科書)です。ロアギアンロージエン論文は過去の記事「米田の「よ」とか: ちょっと変わった記法・名前達」で紹介しています。そのとき(2018年)は、次のように書いていました。
- Title: This is the (co)end, my only (co)friend
- Author: Fosco Loregian
- Pages: 84p
- URL: https://arxiv.org/abs/1501.02503
URLは変わってませんが、今確認してみたら:
- Title: Coend calculus
- Pages: 328p
ドヒャー、ページ数がメチャクチャ増えている。タイトルも当たり障りない(つまらないとも言う)ものに変わってます。もうこれは書籍ですね*2。
編集履歴を見ると:
- [v1] Sun, 11 Jan 2015 22:24:02 UTC (61 KB)
- [v2] Mon, 9 Feb 2015 14:20:59 UTC (55 KB)
- [v3] Tue, 3 Jan 2017 22:14:09 UTC (1,139 KB)
- [v4] Mon, 4 Dec 2017 10:26:19 UTC (1,504 KB) ← 2018年記事
- [v5] Sat, 21 Dec 2019 11:02:04 UTC (291 KB)
- [v6] Fri, 11 Dec 2020 10:02:20 UTC (332 KB) ← 2021年現在
KB表示がなんか奇妙だけど、ここ数年書き足されてサイズは5倍くらいに膨らんだようです。
[追記 date="翌日"]ページ数で見ると、最初が39pだったので、8.4倍ですね。v4からv5の増加が84pから340pで、いきなり4倍になりました。インターネット上に98pバージョンも存在しました。
[/追記]
そのロアギアンロージエン教科書の Remark 2.2.6 に「米田埋め込みはディラックのデルタ / The Yoneda embedding is a Dirac delta」と書いてあります。どういうことでしょう?
コエンドを積分記号で書くことにすると、次の同型が成立します。
$`\quad
{\displaystyle
F(A) \cong \int^{X\In \cat{C}} F(X) \times よ_A(X)
}
`$
これは、関手 $`F`$ の米田埋め込み(前層圏への埋め込み)による表現です*3。ここで、
$`
\quad F:\cat{C} \to {\bf Set} \In {\bf CAT}\\
\quad よ_{-}:\cat{C} \to [\cat{C}^{op}, {\bf Set}] \text{ (Yoneda embedding)}\\
\quad よ_A:\cat{C}^{op} \to {\bf Set} \In {\bf CAT} \:\text{ i.e. }よ_A\in |[\cat{C}^{op}, {\bf Set}]|\\
\quad よ_A(X) := \cat{C}(X, A)
`$
ロアギアンロージエンのリマークは、米田埋め込み「よ」を含む上の同型が次の等式にソックリだろう、ってことです。
$`\quad
{\displaystyle
f(a) = \int^{x\in {\bf R}} f(x) \delta_a(x)\, dx
}
`$
行きがかり上、積分範囲を示す $`x\in {\bf R}`$ は上に書きました。$`\delta_a`$ は“一点 $`a`$ に集中したディラック密度”です。
そう思って「よ」と「δ」を眺めると ‥‥ 確かに似ている。
[追記 date="2021-12-04"]注釈に次のように書きました。
ディラックのデルタと揃えるために $`よ_A`$ と書きましたが、$`よ^A`$ のほうが辻褄が合う気がします。
実際、上付きのほうが辻褄があいます。「米田テンソル計算 3: 米田の「よ」、米田の星、ディラックのブラケット 再論」参照。[/追記]
*1:発音を見つけて聞いたら、「ロージエン」に近いようです。
*2:[追記 date="2021-12-04"]2021年7月に Cambridge University Press から書籍が出版されました → https://www.cambridge.org/core/books/coend-calculus/C662E90767358B336F17B606D19D8C43[/追記]
*3:ディラックのデルタと揃えるために $`よ_A`$ と書きましたが、$`よ^A`$ のほうが辻褄が合う気がします。