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参照用 記事

反ラックス・モノイド余モナド: 記号の使用・乱用 再考

反ラックス・モノイド余モナドの余クライスリ圏 その1」で次のように書いています。

記号の乱用を使わずに書くなら次のようになります。

...[snip]...

以上のように書けば紛れが少ないですが、実際には記号の乱用も遠慮なく使うので注意してください。

「遠慮なく使う」のはやっぱりマズいかもね。今扱っているのは、反ラックス・モノイド関手を台とする余モナドという高階な対象物なので、記号の乱用をやり過ぎるとワケわかんなくなります。かといって律儀に書くと矢鱈と煩雑になるので、バランスが難しい。ちょっと考えてみましょう。
\newcommand{\I}{\mathrm{I}}
\newcommand{\Id}{\mathrm{Id}}
\newcommand{\cat}[1]{ \mathcal{#1} }
\newcommand{\In}{\text{ in } }
\newcommand{\coM}{\boldsymbol{d} } % comultiplication
\newcommand{\coU}{\boldsymbol{e} } % counit
\newcommand{\u}[1]{ \underline{#1} }
\newcommand{\bm}[1]{ \boldsymbol{#1} }
\newcommand{\twoTo}{\Rightarrow }
\newcommand{\K}{\mathrm{K} }

内容:

反ラックス・モノイド余モナド

反ラックス・モノイド余モナドの余クライスリ圏 その1」より:

モナドは一時的に太字で \bm{F} と書くことにして、\bm{F} = (F,\coM,\coU) とします。

この書き方は「一時的」じゃなくてしばらく使うことにします。2つの余モナドが登場する場合は:

\quad \bm{F} = (F,\coM^\bm{F},\coU^\bm{F})\bm{G} = (G,\coM^\bm{G},\coU^\bm{G})

あるいは:

\quad \bm{F} = (F,\coM,\coU)\bm{F'} = (F',\coM',\coU')

太字〈ボールド体〉ではない F は余モナドの台である反ラックス・モノイド関手です。記号の乱用なしで書くなら次のようです。

\quad F = (\u{F}, \delta^F, \varepsilon^F)

ここで、下線付きの \u{F} は反ラックス・モノイド関手の台である(プレーンな)関手です。

「反ラックス・モノイド余モナド、その台の反ラックス・モノイド関手、その台の関手」の三者を同じ記号で表すのはさすがにキビしいと思います。余モナド(構造全体)は太字で書く、というルールは守ったほうが良さそう。

モノイド圏

モノイド圏も記号の乱用なしで書けば:

\quad \cat{C} = (\u{\cat{C}}, \otimes^\cat{C}, \I^\cat{C}, \alpha^\cat{C}, \lambda^\cat{C}, \rho^\cat{C})

ここで、\u{\cat{C}} はモノイド圏の台である(プレーンな)圏です。考えるモノイド圏/圏は小さい〈small〉として、モノイド圏の構成素は次のプロファイルを持ちます。


\quad (\otimes^\cat{C}) : \u{\cat{C}} \times \u{\cat{C}} \to \u{\cat{C}} \In {\bf Cat}\\
\quad \I^\cat{C} : \u{\cat{I}} \to \u{\cat{C}} \In {\bf Cat}\\
%
\quad \alpha^\cat{C} :: ( (\otimes^{\cat{C}}) \times \Id_{\u{\cat{C}}} )*(\otimes^\cat{C}) \twoTo ({\alpha^{\bf Cat}}_{\u{\cat{C}},\u{\cat{C}},\u{\cat{C}}}) * (\Id_{\u{\cat{C}}} \times (\otimes^\cat{C})  )*(\otimes^\cat{C}) : (\u{\cat{C}}\times \u{\cat{C}})\times\u{\cat{C}} \to \u{\cat{C}}\In {\bf Cat}\\
%
\quad \lambda^\cat{C} :: ({\lambda^{\bf Cat}}_{\u{\cat{C}}})^{-1} * (\I^\cat{C} \times \Id_{\u{\cat{C}}})* (\otimes^\cat{C}) \twoTo \Id_{\u{\cat{C}}} : \u{\cat{C}} \to \u{\cat{C}} \In {\bf Cat}\\
\quad \rho^\cat{C} :: ({\rho^{\bf Cat}}_{\u{\cat{C}}})^{-1} * (  \Id_{\u{\cat{C}}} \times \I^\cat{C}) * (\otimes^\cat{C}) \twoTo \Id_{\u{\cat{C}}}  : \u{\cat{C}} \to \u{\cat{C}} \In {\bf Cat}\\

ここで:

  • \cat{I} は、自明なモノイド圏。したがって、\u{\cat{I}} は自明圏
  • \Id_{\u{\cat{C}}} は、圏 \u{\cat{C}} の恒等関手
  • * は、関手の結合の図式順記号(左から右の順!
  • \times は、圏/関手の直積

下線と上付き添字が鬱陶しいですが、律儀に書けばこんなことになります。

モノイド圏の構成素のプロファイル記述に登場する \alpha^{\bf Cat}, \lambda^{\bf Cat}, \rho^{\bf Cat} は、モノイド圏達をホストする外のモノイド圏 (\u{{\bf Cat}}, \times, \u{\cat{I}}, \alpha^{\bf Cat}, \lambda^{\bf Cat}, \rho^{\bf Cat}) の構造同型射〈律子〉です。モノイド圏の定義にモノイド圏が必要になってしまうという現象については、例えば次の記事を参照してください。

外の圏 {\bf Cat} を直積でモノイド圏(実際にはモノイド2-圏)と考えるなら、モノイド積を考えないときは \u{{\bf Cat}} と書くべきでしょうが、そこまで区別することはほとんどないですね。

反ラックス・モノイド関手

反ラックス・モノイド関手 F の台関手と、余演算自然変換(余乗法自然変換と余単位自然変換)は次のようになります。


\quad \u{F}:\u{\cat{C}} \to \u{\cat{C}} \In {\bf Cat}\\
%
\quad \delta^F :: (\otimes^\cat{C}) * \u{F} \twoTo (\u{F}\times \u{F}) * (\otimes^\cat{C}) :
\u{\cat{C}}\times\u{\cat{C}} \to \u{\cat{C}} \In {\bf Cat}
%
\quad \varepsilon^F :: \K_{\u{F}(\I^\cat{C})} \twoTo \K_{\I^\cat{C}}
: \u{\cat{I}}  \to \u{\cat{C}}  \In {\bf Cat}

ここで、\K_A は、対象 A を値とする定数関手〈ポインティング関手〉です。

上付き添字は適宜省略してもいいでしょう。また、モノイド積記号を丸括弧で囲むこと(Haskell風記法)も慣れれば要らないかも知れません。例えば、

\quad \delta^F :: \otimes * \u{F} \twoTo (\u{F}\times \u{F}) * \otimes \In {\bf Cat}

台、演算、法則、準同型

代数系は、台と演算から構成され、なんらかの法則を満たします。例えばモノイドなら、台集合があり、二項演算と無項演算(単位元)があり、結合法則と単位法則を満たします。準同型〈homomorphism〉は、代数系のあいだをつなぐ射です。なお、ここでの演算は、余乗法・余単位などの“余演算”も含む広義の演算です。

モナドも反ラックス・モノイド関手も一種の代数系です。台が関手であり、演算が自然変換で与えられ、法則は自然変換の等式として記述されます。今問題にしている反ラックス・モノイド余モナドの場合は、反ラックス・モノイド関手を1-射とする2-圏内で定義されている余モナドなので事情が複雑になります。

  • 反ラックス・モノイド余モナド \bm{F} は、2-圏 {\bf MonCat}^{\mathrm{oplax}} 内の余モナドである。
  • モナドの台 \u{\bm{F}} = F は、反ラックス・モノイド関手である。
  • したががって、余モナドの台 F が再び“台と演算と法則”を持つ。特に台 \u{F} は関手である。
  • モナドの演算(余モナド余乗法 \coM^{\bm{F}} と余モナド余単位 \coU^{\bm{F}})は、台である反ラックス・モノイド関手 F やその累乗 F^k のあいだの準同型である反ラックス・モノイド自然変換である。
  • モナドの演算も反ラックス・モノイド関手の演算もその実体は自然変換であり、両方とも「余乗法と余単位」と呼ばれているが、概念的には異なる階層に存在する。反ラックス・モノイド関手は 2-圏 {\bf MonCat}^{\mathrm{oplax}} の1-射であり、反ラックス・モノイド余モナドはある種の高次圏(広く合意された定義はない) \mathrm{Comnd}({\bf MonCat}^{\mathrm{oplax}}) の対象〈0-射〉。

反ラックス・モノイド余モナドの構成素である \coM^{\bm{F}}, \coU^{\bm{F}} は、「余モナド演算だが、反ラックス・モノイド関手のあいだの準同型である」という二面性を持つことに注意しましょう。

記号の乱用

当面、次の方針でいきます。

  1. 反ラックス・モノイド余モナド \bm{F} と、その台である反ラックス・モノイド関手 \u{\bm{F}} = F は、区別する。
  2. モノイド圏 \cat{C} と、その台である圏 \u{C} は、区別しないことがある。
  3. 反ラックス・モノイド関手 F と、その台である関手 \u{F} は、区別しないことがある。
  4. 異なる(かも知れない)構造の構成素を区別するために右上付き添字を使う。が、上付き添字を省略することがある。
  5. 二項演算子記号をそのまま関数/関手のように扱うことがある。例: A\otimes B = \otimes(A, B)