バエズ/ドーラン・ツリーは、視覚化可能な組み合わせ構造で、その定義は純組み合わせ的〈purely combinatorial〉であるのが望ましいのです。しかし、純組み合わせ的な定義や説明は面倒で分かりやすくありません。幾何的定義を併用したほうが直感的な理解が得られるでしょう。この記事では、以下の2つの過去記事の幾何的な説明の部分をより詳しく述べます。
注意すべきは、幾何的定義は、あくまで組み合わせ的定義の補助であることです。幾何的比喩とも言えます。比喩なので、あまりシリアスに捉えるべきではありません。例えば、“穴”がほんとの穴である必要はありません。実際、“穴”の代わりに球面上の一点を比喩に使うこともあります。組み合わせ的には、ほんとの穴なのか一点なのかの区別はなくなってしまうからです。別なタイミングでは、この記事で述べたのとは別な幾何的比喩を使うかも知れません。$`\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1}}
%\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}
%\newcommand{\pipe}{\mid }
\newcommand{\ccol}[1]{\boldsymbol{#1} }
%\newcommand{\msf}[1]{\mathsf{#1}}
%\newcommand{\twoto}{\Rightarrow }
\newcommand{\In}{\text{ in } }
%\newcommand{\Imp}{ \Rightarrow }
%\newcommand{\Iff}{\Leftrightarrow }
%\newcommand{\hyp}{\text{-} }
%\newcommand{\op}{\mathrm{op} }
\newcommand{\id}{\mathrm{id} }
%\newcommand{\pto}{ \supseteq\!\to }
\newcommand{\u}[1]{\underline{#1}}
\newcommand{\cpal}[1]{\mathfrak{#1} }
%\newcommand{\msc}[1]{\mathscr{#1}}
\newcommand{\bdry}{\partial}
\newcommand{\td}{ {2 + \varepsilon} }
`$
内容:
基本的な図形
次は基本的な図形です。
- $`[0, 1]`$ : 閉区間
- $`S^1`$ : 1次元の球面=円周〈サークル〉
- $`D^2`$ : 2次元の閉円板
- $`S^2`$ : 2次元の球面
- $`D^3`$ : 3次元の閉円板=球体
- $`D^\td`$ : 厚み付き閉円板(3次元の角〈かど〉付き多様体)
以下に、標準的な定義を挙げます。
$`\quad [0, 1] := \{ x \in {\bf R} \mid 0 \le x \le 1\}\\
\quad S^1 := \{ (x, y)\in {\bf R}^2 \mid x^2 + y^2 = 1\}\\
\quad D^2 := \{ (x, y) \in {\bf R}^2 \mid x^2 + y^2 \le 1\}\\
\quad S^2 := \{ (x, y, z)\in {\bf R}^3 \mid x^2 + y^2 + z^2 = 1 \}\\
\quad D^3 := \{ (x, y, z)\in {\bf R}^3 \mid x^2 + y^2 + z^2 \le 1 \}\\
\quad D^\td := D^2 \times [-\varepsilon, \varepsilon] \;\:( \varepsilon \gt 0)
`$
いずれもユークリッド空間の部分集合として定義していますが、ユークリッド空間に埋め込まれている必要はありません。これら標準的な図形と同型〈なめらかに同相〉な図形は同じ名前で呼びます。同型な2つの図形は、特に断りがなければ区別しません。
$`[0, 1], D^2, D^3`$ は境界が有り、$`D^\td`$ は境界と角〈かど〉があります。境界は以下のとおりです(境界を $`\bdry`$ で示します)。
$`\quad \bdry [0, 1] = \{0, 1\}\\
\quad \bdry D^2 = S^1\\
\quad \bdry D^3 = S^2\\
\quad \bdry D^\td = (S^1 \times [-\varepsilon, \varepsilon]) \cup ( D^2 \times \{-\varepsilon, \varepsilon\})
`$
キャンバスと表示
なんの加工もしてないキャンバスとして、次の4種類を考えます。
- $`S^2`$
- $`D^2`$
- $`D^3`$
- $`D^\td`$
これらのキャンバスに次の操作をします。
- 穴を穿〈うが〉つ。
- スポットを貼り付ける。
- ポートを載せる。
これらの作業の後でワイヤリングをします。
使うキャンバスが $`C`$ のとき、バエズ/ドーラン・ツリーの$`C`$表示〈$`C`$-presentation〉、または$`C`$レンダリング〈$`C`$-rendering〉と呼びます。例えば、キャンバスが球面なら$`S^2`$表示、あるいは球面表示〈sphere presentation〉と呼びます。
表示の方法がなんであれ、次の自然数達はバエズ/ドーラン・ツリーを特徴付けます。
ルートの穴の個数 | $`1`$ |
ルート以外の穴の個数 | $`n`$ |
スポットの個数 | $`l`$ |
ポートの総数 | $`2L`$ |
ワイヤーの本数 | $`L`$ |
例外ループの個数 | $`K`$ |
穴とスポット
バエズ/ドーラン・ツリーの$`S^2`$表示〈球面表示〉を考えます。球面表示が標準表示だとします。
なめらかな写像 $`\varphi : X \to S^2`$ が埋め込み〈embedding〉だとは、$`\varphi`$ がめらかな単射で、像 $`\varphi(X) \subseteq S^2`$ が $`X`$ と同相になることです。
$`D^2_0, D^2_i, {D'}^2_j`$ はいずれも標準的円板 $`D^2`$ と(なめらかに)同相だとして、$`X`$ を以下のように置きます。$`+`$ と $`\sum`$ は図形〈多様体〉の直和を表します。
$`\quad X := D^2_0 + (\sum_{i = 1}^n D^2_i) + (\sum_{j = 1}^l {D'}^2_j)`$
埋め込み $`\varphi : X \to S^2`$ を考えます。$`\varphi`$ に基いて次の作業をします。
- $`S^2`$ から、$`\varphi(\overset{\circ}{D_0})`$ と $`\varphi(\overset{\circ}{D_i}) \: (i = 1, \cdots, n)`$ を取り除く。つまり、$`(n + 1)`$個の穴を穿つ。穴の境界である円周は残る。
でき上がった穴あき球面を $`M`$ とします。
$`\varphi`$ の域を制限することにより、次のような写像を定義します。
- $`b_0 := \varphi|_{\bdry D^2_0} : \bdry D^2_0 \to M`$
- $`b_i := \varphi|_{\bdry D^2_i} : \bdry D^2_i \to M`$ ($`i = 1\cdots, n`$)
- $`s_j := \varphi|_{\bdry {D'}^2_j} : \bdry {D'}^2_j \to M`$ ($`j = 1\cdots, l`$)
$`\bdry D^2_0, \bdry D^2_i , \bdry {D'}^2_j`$ はすべて $`S^1`$ と同型なので、$`b_0, b_i, s_j`$ の域はすべて $`S^1`$ だと考えてかまいません。
一般に、我々が作業している図形(多様体)となめらかな写像の圏において、次のような $`f, f'`$ は区別しません。($`{\bf Man}`$ は、境界・角を持つかも知れない多様体の圏。)
$`\require{AMScd}
\quad \begin{CD}
X @>f>> Y\\
@V{\cong}VV @VV{\cong}V\\
X' @>f'>> Y'
\end{CD}\\
\quad \text{commutative in }{\bf Man}
`$
写像 $`b_0`$ またはその像をルート境界円周〈root boundary circle〉、写像 $`b_i`$ またはその像をリーフ境界円周〈leaf boundary circle〉と呼びます。写像 $`s_j`$ をスポット円周〈spot circle〉と呼びます。域が $`S^1`$ で、$`S^2`$ または $`M`$ への埋め込みはナントカ円周と呼びます。
キャンバスが球面以外のとき
$`D^2, D^3`$ に下付き番号やダッシュ〈プライム〉を付けた名前の図形(多様体)は、それぞれ $`D^2, D^3`$ と同型(同一視可能)な図形とします。
キャンバスが $`D^2`$ のとき、$`X`$ を次のように置きます。
$`\quad X := (\sum_{i = 1}^n D^2_i) + (\sum_{j = 1}^l {D'}^2_j)`$
ルート円周はキャンバス自体の境界円周となるので、$`X`$ に $`D^2_0`$ は不要です。埋め込み $`\varphi : X \to D^2`$ を考えて、$`n`$個の穴を穿って $`M`$ を作ります。各種のナントカ円周の定義は $`S^2`$ の場合と同様です。
キャンバスが $`D^3`$ のとき、$`X`$ を次のように置きます。
$`\quad X := (\sum_{i = 1}^n D^3_i) + (\sum_{j = 1}^l {D'}^3_j)`$
埋め込み $`\varphi : X \to D^3`$ を考えて、$`n`$個の穴を穿って $`M`$ を作ります。$`M`$ は、閉球体から幾つかの開球体をくり抜いた3次元図形になります。「円周」の代わりに「球面」という言葉を使います。例えばスポット球面のように。
キャンバスが $`D^\td`$ のとき、$`X`$ を次のように置きます。
$`\quad X := (\sum_{i = 1}^n D^\td_i) + (\sum_{j = 1}^l {D'}^\td_j)`$
埋め込み $`\varphi : X \to D^\td`$ は2次元版の埋め込みに“厚み”を付けたものです。
$`\quad X' := (\sum_{i = 1}^n D^2_i) + (\sum_{j = 1}^l {D'}^2_j)\\
\quad \varphi' : X' \to D^2\\
\quad X := X' \times [-\varepsilon, \varepsilon] = (\sum_{i = 1}^n D^\td_i) + (\sum_{j = 1}^l {D'}^\td_j)\\
\quad \varphi = \varphi' \times \id_{[-\varepsilon, \varepsilon]} : X \to D^\td
`$
厚み付き円板に$`n`$個の穴を穿って $`M`$ を作ります。$`M`$ は、閉じた厚み付き円板〈円柱〉から幾つかの開いた円柱をくり抜いた3次元図形になります。「円周」の代わりに「厚み付き円周」(または「円筒」)という言葉を使います。例えばスポット厚み付き円周〈スポット円筒〉のように。
ボーダーとポート
見た目が円周である絵図要素〈{picture | pictorial} element〉が幾つかあります。特徴を表にまとめておきます。表の見出しの意味は:
- 境界か? : 穴あきキャンバスである多様体 $`M`$ の幾何的な意味での境界 $`\bdry M`$ の一部であるか?
- ボーダーになれるか? : 円周の上にポートを置くことができるか? ポートを載せた円周がボーダー(詳細後述)。
境界か? | ボーダーになれるか? | |
ルート境界円周 | Yes | Yes |
リーフ境界円周 | Yes | Yes |
スポット円周 | No | Yes |
例外ループ | No | No |
シーム円周 | No | Yes |
例外ループとシーム円周はこの記事では述べませんが、いずれ(幾何的に)解説するでしょう。
ポート達は円周上の点の集合ですが、色付きコレクション〈colored collection〉と対応しています。色付きコレクションについては以下の記事で説明しています。
上記の過去記事で次のように書いています。
色付きコレクションを、とりあえずここでは(一時的かも知れない) $`\ccol{x}`$ などのボールド体小文字で表すことにします。色付きコレクション $`\ccol{x}`$ は次のように書きます。
$`\quad \ccol{x} = (\u{\ccol{x}}, \gamma_\ccol{x})`$
ここで、$`\u{\ccol{x}}`$ は台であるコレクション、$`\gamma_\ccol{x}`$ は色付け関数です。
色付きコレクションとコレクションに使う文字フォントを変えるのは煩雑なので、ここでは色付きコレクションを次の形で書きます。
$`\quad X = (\u{X}, \mrm{Enum}(X), \gamma_X)`$
ここで:
- $`\u{X}`$ は、台集合(有限集合)。
- $`\mrm{Enum}(X)`$ は、コレクションとして許容される列挙の集合。$`\mrm{Enum}(X) \subseteq \mrm{Iso}(\u{X}, \bar{n})`$ (詳細は「コレクション、対称性、シーケンス、色付け」参照)。
- $`\gamma_X`$ は、色付け。$`\gamma_X : \u{X} \to \u{\cpal{C}}`$ (詳細は「コレクション、対称性、シーケンス、色付け」参照)。
色付きコレクション $`X`$ に対して、$`\u{X}`$ は単なる有限集合です。
$`M`$ は穴あきキャンバスとして、今の文脈における円周〈サークル | circle〉とは、次のような埋め込み写像です。
$`\quad c : \mrm{dom}(c) \to M \In {\bf Man}\\
\text{where }\mrm{dom}(c)\cong S^1
`$
埋め込み写像とその像が同一視されることもあるので、像(部分多様体と考える) $`\mrm{img}(c) \subseteq M`$ も円周と呼びます。この時点で、テクニカルターム「円周」は曖昧多義語になっていることに注意してください。
- 円周: $`S^1`$ 、または $`S^1`$ と(なめらかに)同相な1次元多様体
- 円周: なめらかな埋め込み $`c: \mrm{dom}(c) \to M \In {\bf Man}`$
- 円周: なめらかな埋め込みの像 $`\mrm{img}(c) \subseteq M`$
さて、穴あきキャンバス $`M`$ 上のボーダー構造〈border structure〉を次の3つ組として定義します。
$`\quad (c, X, p)`$
ここで:
- $`c: \mrm{dom}(c) \to M \In {\bf Man}`$ は、円周。
- $`X = (\u{X}, \mrm{Enum}(X), \gamma_X)`$ は、色付きコレクション。
- $`p : \u{X} \to \mrm{dom}(c) \In {\bf Man}`$ は単射写像。$`\u{X}`$ は有限集合だが、0次元多様体とみなす。$`p`$ は多様体のあいだの埋め込み写像となる。
上記の構成素達を図式で書くと次のようになります。
$`\require{AMScd}
\quad\begin{CD}
\u{X} @>{p}>> \mrm{dom}(c)\\
@. @VV{c}V \\
{} @. M
\end{CD}\\
\quad \In {\bf Man}
`$
$`p`$ も $`c`$ も埋め込みなので、$`p;c`$ も埋め込みです。$`p;c : \u{X} \to M`$ 、またはその像 $`\mrm{img}(p;c) \subseteq M`$ をボーダー構造 $`(c, X, p)`$ のポートセット〈port set〉と呼びます。有限集合 $`\mrm{img}(p;c)`$ の要素を(ボーダー構造の)ポート点〈port point〉、または単にポート〈port〉と呼びます。
既存の円周 $`c:\mrm{dom}(c) \to M`$ に対して、ボーダー構造 $`(c, X, p)`$ を構成することを、「円周 $`c`$ をボーダーにする」とか「円周 $`c`$ にボーダー構造を載せる」と言います。ルート境界円周、リーフ境界円周、スポット円周、シーム円周(今日は触れない)にはボーダー構造を載せる必要があります。ただし、色付きコレクション $`X`$ が空であってもボーダー構造なので、空なボーダー構造を載せてもかまいません。
幾何的な構造から組み合わせ的構造だけを抽出するときは、ボーダー構造は色付きコレクションそのものだとみなします。組み合わせ的な意味でのポートは、色付きコレクション(の台集合)の要素です。
ワイヤリング
$`M`$ は穴あき球面キャンバスとします。$`b_i`$ は境界円周達($`1 + n`$ 個)、$`s_j`$ はスポット円周達($`l`$ 個)だとします。これら $`1 + n + l`$ 個の円周すべてにボーダー構造が載っているとしましょう。穴あき球面キャンバスと円周達、そしてボーダー構造達をあわせてボーダー付きキャンバス〈canvas with borders〉と呼ぶことにします。ボーダー構造達は次のように書きます。
$`\quad (b_i, X_i, p_i) \:\:(i = 0, 1, \cdots, n)\\
\quad (s_j, Y_j, q_j) \:\:(j = 1, \cdots, l)
`$
記号の乱用を使えば、ボーダー付きキャンバスは次のように書けます。
$`\quad M = (M, \{ (b_i, X_i, p_i) \mid i = 0, 1, \cdots, n\}, \{(s_j, Y_j, q_j) \mid j = 1, \cdots, l\} )`$
以下、$`M`$ は単なる穴あきキャンバスではなくて、ボーダー付きキャンバスを表すとします。ただし、記号の乱用をしているので、ときに穴あきキャンバスの意味にもなります。
ボーダー付きキャンバスの構成素である円周達(の像)は共通部分を持たないので、ボーダー構造達のポートセットも共通部分を持ちません。すべてのポート点の集合を $`\mrm{Port}(M)`$ とします。$`\mrm{Port}(M)`$ は有限集合ですが、その基数は偶数 $`2L`$ であることを要求します(ボーダー付きキャンバスの条件)。
キャンバスの穴とスポットを定義するときに使った写像を $`\varphi`$ として、スポット円板〈spot disc〉は次のように定義します。スポット円板はワイヤリングの定義に出てきます*1。
$`\quad S_j := \mrm{img}(\varphi|_{{D'}^2_j}) \subseteq M`$ ($`j = 1\cdots, l`$)
ボーダー付きキャンバス $`M`$ に対するワイヤリング〈wiring〉とは、次のような写像です。
$`\quad w:W \to M \In {\bf Man}`$
$`W`$ は次のような多様体です。(多様体 $`Y`$ の$`n`$個分の直和は $`n\cdot Y`$ と書くとします。)
$`\quad W = L\cdot [0, 1] + K\cdot S^1\\
\quad \bdry W = L\cdot\{0, 1\} \cong 2L\cdot {\bf 1}
`$
ワイヤリング $`w`$ は、次の条件を満たす必要があります。
- $`W`$ の各連結成分(閉区間または円周)ごとに、埋め込みである。
- $`w`$ の像 $`w(W) \subseteq M`$ とスポット円板 $`S_j \subseteq M`$ の共通部分は空である。
- $`w(\bdry W) = \mrm{Port}(M)`$ で、$`w`$ は $`\bdry W \cong \mrm{Port}(M)`$ という同型を与える。
- $`w`$ が全体として単射である必要はないが、$`w(x) = w(y)`$ となるような異なる $`x, y`$ のペアは有限個しかない。
$`w`$ が全体として単射(埋め込み)のとき、無交差な〈non-crossing〉ワイヤリングと呼びます。
ワイヤリング $`w`$ の域 $`W`$ の連結成分である $`[0, 1], S^1`$ は標準的な向きを持っています。したがって、両端を持つワイヤーと例外ループも向きを持つことになります。向きを持たないワイヤー(例外ループ含む)を考えたいときは細工が必要です。その細工は組み合わせ構造に関係するので、別な機会に述べます。
ワイヤリングの交差
無加工のキャンバス(穴をあける前)が $`S^2`$ または $`D^2`$ のとき、交差しているワイヤリングを無交差なワイヤリングに変形できないことがあります。ここで変形はアンビエント・アイソトピーのことです。したがって、変形で同値類を作るとして、無交差なワイヤリングの同値類には入らない“真に交差するワイヤリング”が在ります。
しかし、無加工のキャンバスが $`D^3`$ または $`D^\td`$ のときは、交差するワイヤリングを少し動かして無交差なワイヤリングにすることができます。つまり、交差するワイヤリングも無交差なワイヤリングの同値類に入ります。
ワイヤリングに関して、次のどちらを考えても同じになります。
- $`S^2`$ または $`D^2`$ へのレンダリング〈表示〉を考えて、ワイヤリングに交差を許す。
- $`D^3`$ または $`D^\td`$ へのレンダリング〈表示〉を考えて、ワイヤリングに交差を許さない。
描画の容易性から、$`S^2`$ または $`D^2`$ へのレンダリングを主に使います。交差は許します*2。
シームレスなバエズ/ドーラン・ツリー
ボーダー付きキャンバスにワイヤリングを付けた構造が、幾何的に定義されたバエズ/ドーラン・ツリーです。ただし、様々な同型/同値による同値類がバエズ/ドーラン・ツリーであって、個々の多様体や写像を問題にしているわけではありません。
ツリーとは言いながら、その形状は穴あき球面(または穴あき円板)です。これはシーム〈縫い目〉を考えてないからで、シームが付くと高さが2以上のツリーらしい(?)ツリーが出現します(「バエズ/ドーラン・ツリー: 色々な描画法」参照)。この記事で紹介したのは、シームレスなバエズ/ドーラン・ツリー〈seamless Baez-Dolan tree〉の幾何的定義でした。シーム付きバエズ/ドーラン・ツリーの幾何的定義はまた次の機会に。