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参照用 記事

ファイバーの計算 基本概念

バタニン/マークル〈Michael Batanin, Martin Markl〉のオペラディック圏は、オペラッドを定義するための道具ですが、“ファイバーの計算”を抽象化したものだともみなせます。この記事では、抽象化する前の具象的な“ファイバーの計算”、つまり集合圏の部分圏における“ファイバーの計算”を紹介します。$`\newcommand{\mrm}[1]{ \mathrm{#1} }\newcommand{\hyp}{\text{-} }
\newcommand{\In}{\text{ in }}
\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}
\newcommand{\F}[1]{ {{#1}^{-1}} } % fiber
\newcommand{\obj}[1]{ {{#1}\!\downarrow} }
%\newcommand{\op}{ \mathrm{op} }
\newcommand{\twoto}{ \Rightarrow }
`$

内容:

関連記事:

  1. スライス圏の大域的な定義: スラッシュ記号の解釈
  2. ファイバーの計算 基本概念(この記事)
  3. ファイバーの計算 全体像と色々な構成法
  4. ファイバーの計算 幾つかの圏同値
  5. 木と林(有向グラフ)
  6. 木と林(有向グラフ) その2
  7. レベル付き林の圏
  8. ファイバーの計算の動機としてのプルバック公式
  9. バンドル-ファミリー対応 再考

写像のファイバーと分割公式

$`f:I \to J`$ を写像〈関数〉(集合圏の射)とするとき $`j\in J`$ に対する逆像 $`\F{f}(j)`$ を($`j`$ における)$`f`$ のファイバー〈fibre | fiber〉とも呼びます。ファイバーがこの記事の主題です。

$`\quad \F{f}(j) := \{i\in I\mid f(i) = j\}`$

当然ながら、$`\F{f}`$ は $`f`$ の逆写像ではないので注意してください。$`j \mapsto \F{f}(j)`$ は、要素に集合を対応付けます。

$`\cat{S}`$ を集合圏の部分圏だとして、次の性質を持つと仮定します。

  • $`f: I \to J \In \cat{S}, \; j\in J`$ ならば、$`\F{f}(j) \in |\cat{S}|`$

この性質を「ファイバーに関して閉じている」と言うことにします。次の圏はファイバーに関して閉じています。

  • 集合圏 $`{\bf Set}`$ 自身はファイバーに関して閉じている。
  • 有限集合達とそのあいだの写像からなる、集合圏の充満部分圏 $`{\bf FinSet}`$ はファイバーに関して閉じている。
  • 基数が $`1`$ 以下の集合(単元集合または空集合)達とそのあいだの写像からなる、集合圏の充満部分圏 $`{\bf Set}_{\le 1}`$ はファイバーに関して閉じている。

以下、ファイバーに関して閉じている圏 $`\cat{S}`$ を固定して考えます。

写像 $`f:I \to J \In\cat{S}`$ のファイバー達 $`\F{f}`$ は、次のような写像だとみなせます。

$`\quad \F{f} : J \to |\cat{S}| \In {\bf SET}`$

また、集合 $`J`$ を離散圏だとみなすと、次のような関手だとも言えます。

$`\quad \F{f} : J \to \cat{S} \In {\bf CAT}`$

ここでは、後者〈ニ番目〉の解釈を採用します。関手 $`\F{f}`$ を、$`f`$ のファイバーファミリー〈fiber family〉と呼びます。

一般にファミリーとは、域が小さい離散圏(集合と同じ)である関手です。ファミリーの域はインデキシング集合〈indexing set〉と呼びます。インデキシング集合〈域〉が集合 $`J`$ であるファミリーは $`J`$ 上のファミリー〈family on $`J`$〉といいます。

任意のファミリー $`F: J \to \cat{S}`$ から、写像を再現できます。その写像とは、シグマ型(集合達の総直和)の標準射影です。

$`\quad f: \sum_{j\in J}F(j) \to J \In \cat{S}`$

写像とファミリーが(ほぼ)一対一に対応する背景には、次の同型があります。

$`\text{For } f: I\to J \In \cat{S}\\
\quad \mrm{dom}(f) = I \cong \sum_{j\in J}\F{f}(j)
`$

この同型を、写像の域のファイバー分割公式〈fiber partitioning formula〉として参照します。写像の域の分割に関しては、次の過去記事でも話題にしています。

バンドル-ファミリー対応

この節では、写像とファミリーが(ほぼ)一対一に対応することを、もっとハッキリとした形で定式化します。

$`K\in |\cat{S}|`$ として、$`\cat{S}/K`$ はスライス圏〈slice category | オーバー圏 | over category)とします。スライス圏に関しては、最近の記事「スライス圏の大域的な定義: スラッシュ記号の解釈」の最初の節を参照してください -- そこで定義された $`\obj{g}`$ や $`f^h`$ などの記法を使います。

スライス圏 $`\cat{C}/K`$ の対象 $`\obj{g} \in |\cat{S}/K|`$ をバンドル〈bundle〉とも呼びます。バンドルの実体は単なる写像 $`g:I \to K \In \cat{S}`$ なので、特に(例えば全射のような)仮定はありません。色々な条件を付けた幾何的なバンドルとは違います。

スライス圏 $`\cat{C}/K`$ の射 $`f^h : \obj{g} \to \obj{h} \In \cat{S}/K`$ をバンドル射〈bundle morphism〉とも呼びます。つまり、スライス圏 $`\cat{S}/K`$ は $`K`$ 上のバンドル達とそのあいだのバンドル射達からなる圏です。

インデキシング集合 $`K`$ 上のファミリー達の圏(前節参照)を次のように書きます。

$`\quad \cat{S}^K = [K, \cat{S}]_1 = {\bf CAT}(\mrm{Disc}(K), \cat{S})`$

$`[\hyp, \hyp]_1, \mrm{Disc}(\hyp)`$ については、「変換手n-圏のブラケット記法」を参照してください。ファミリー達の圏 $`\cat{S}^K`$ は関手圏なので、その射は自然変換です。ファミリーのあいだの射は次のように書けます。

$`\quad \varphi : G \to H \In \cat{S}^K\\
\text{i.e.}\\
\quad \varphi :: G \twoto H : K \to \cat{S} \In {\bf Cat}
`$

$`\varphi`$ の $`k`$-成分は次のように書きます。

$`\quad \varphi_k : G(k) \to H(k) \In \cat{S}`$

圏 $`\cat{S}`$ に関して、$`K`$ 上のファミリーの圏と、$`K`$ 上のバンドルの圏〈スライス圏〉のあいだに規準的圏同値があります。

$`\quad \cat{S}^K \cong \cat{S}/K \In {\bf CAT}`$

この圏同値(ほぼ同型)は次のように記述できます。

  • ファミリー $`G \in |\cat{S}^K|`$ に対して、標準射影 $`g:\sum_{k\in K}G(k) \to K`$ で定義されるバンドル $`\obj{g} \in |\cat{S}/K|`$ を対応させる。
  • バンドル $`\obj{g} \in |\cat{S}/K|`$ に対して、$`G := \F{g}`$ で定義されるファミリー $`G \in |\cat{S}^K|`$ を対応させる。
  • ファミリーのあいだの射 $`\varphi : G \to H \In \cat{S}^K`$ に対して、
    $`\quad \sum_{k\in K}\varphi_k : (\sum_{k\in K}G(k)) \to (\sum_{k\in K}H(k))`$
    で定義されるバンドル射 $`f = \sum_{k\in K}\varphi_k `$ を対応させる。
  • バンドル射 $`f^h : \obj{g} \to \obj{h} \In \cat{S}/K`$ に対して、$`\varphi_k := f|_{\F{g}(k)}^{\F{h}(k)}`$ (域と余域の制限*1)で定義されるファミリーの射 $`\varphi = (\varphi_k)_{k\in K}`$ を対応させる。

バンドルもファミリーも「ファイバー」という概念を持ちます。バンドルにおいては、ファイバー達を寄せ集めてひとつの集合に束ねていますが、ファミリーにおいては、$`|\cat{S}|`$ 内にファイバー達が散在しています。散在していてもインデキシング集合 $`K`$ からポインティングしているので、いつでも寄せ集めることはできます。したがって、ファミリーからバンドルを構成することができるのです。逆もまた然り。バンドルをパランパランにばらせばファミリーになります。

圏同値 $`\cat{S}^K \cong \cat{S}/K`$ をバンドル-ファミリー対応〈bundle-family correspondence〉と呼ぶことにします。バンドル-ファミリー対応は、“グロタンディーク構成によるファイバー付き圏とインデキシング付き圏の対応”の0-圏バージョンです。

ファイバー関手

この節では三種類のファイバー関手〈fiber functor〉*2を定義します。

まず、前節のバンドル-ファミリー対応から次のような関手が得られます。バンドルにそのファイバーファミリーを対応させます。

$`\quad R_K : \cat{S}/K \to \cat{S}^K \In {\bf CAT}\\
\text{For } \obj{g} \in \cat{S}/K \\
\quad R_K(\obj{g}) := \F{g} \; \in |\cat{S}^K|\\
\text{For } f^h : \obj{g} \to \obj{h} \In \cat{S}/K \\
\quad R_K(f^h) := (f|_{\F{g}(k)}^{\F{h}(k)} )_{k\in K} \;: \F{g} \to \F{h} \In \cat{S}^K
`$

集合 $`K`$ とその要素 $`k\in K`$ からなる依存ペア $`(K, k)`$ を添字に持つファイバー関手は:

$`\quad R_{K, k} : \cat{S}/K \to \cat{S} \In {\bf CAT}\\
\text{For } \obj{g} \in \cat{S}/K \\
\quad R_{K, k}(\obj{g}) := \F{g}(k) \; \in |\cat{S}|\\
\text{For } f^h : \obj{g} \to \obj{h} \In \cat{S}/K \\
\quad R_{K, k}(f^h) := f|_{\F{g}(k)}^{\F{h}(k)} \;: \F{g}(k) \to \F{h}(k) \In \cat{S}
`$

三種類目のファイバー関手は、$`R_K`$ の $`K`$ を動かして関手達 $`R_K`$ を全部寄せ集めた関手です。$`K\mapsto \cat{S}/K`$ と $`K\mapsto \cat{S}^K`$ という対応は、それぞれ共変的、反変的なので、グロタンディーク構成で寄せ集めることはうまく出来ません。$`K\in |\cat{S}|`$ として、集合 $`|\cat{S}|`$ に対する“圏の総和”と“関手の総和”を作ります。それは次のように書けます。

$`\quad R = \sum_{K\in |\cat{S}|}R_K \; : \sum_{K\in |\cat{S}|}\cat{S}/K \to \sum_{K\in |\cat{S}|}\cat{S}^K`$

“圏の総和/関手の総和”は、“集合の総和/関数の総和”と同じです。インデックス $`K`$ ごとの成分を無共分合併〈disjoint union〉するだけです。

なお、圏のスライス圏達を対象に渡って総和する構成法はデカラージ構成décalage construction〉と呼ばれます。関手 $`R`$ の域〈ソース圏〉は、圏 $`\cat{S}`$ のデカラージになっています。

$`R_K`$ を反カリー化すると、次の形になります(集合 $`K`$ は離散圏とみなしてます)。

$`\quad {R'}_K : \cat{S}/K \times K \to \cat{S} \In {\bf CAT}`$

この形だと余域側は $`K`$ を含まない定数 $`\cat{S}`$ なので、$`K`$ に渡った余タプル構成で次の関手を作れます。

$`\quad R' = [ {R'}_K ]_{K \in |\cat{S}|} : \sum_{K \in |\cat{S}|}(\cat{S}/K \times K) \to \cat{S} \In {\bf CAT}`$

$`R'`$ は四種類目のファイバー関手ですが、オマケの扱いです。

そしてそれから

ファイバーの計算では、スライス圏のスライス圏を作るとか、入れ子になったファミリー(ファミリー達のインデックス付けファミリー)などを扱う必要があります。そのための図示法や計算の技法/法則があります。それについてはまた次の機会に。

*1:$`f:X \to Y \In {\bf Set}`$ に対して、$`A\subseteq X, B\subseteq X`$ で、かつ $`f(A) \subseteq B`$ であるときに、$`f|_A^B : A \to B \In {\bf Set}`$ が定義できます。

*2:淡中双対性やガロア理論の文脈では、忘却関手をファイバー関手〈fiber functor〉と呼びます。この意味でのファイバー関手とは無関係で、スライス圏の対象に、ファイバーファミリーを対応させる関手のことです。