「基底とフレーム、丸く収まる妥協案」の続きです。VはR上のベクトル空間で dim(V) = m とします。
写像 φ:{1, ..., m} → V を最初に考えて、写像φの像 Im(φ) はVの部分集合になり、写像φの線形拡張 φ∧:Rm → V は線形写像です。次の状況を考えます。
- φ∧:Rm → V は線形同型写像になっている。
この状況において、φ, Im(φ), φ∧ をそれぞれ何と呼ぶか? が「基底とフレーム、丸く収まる妥協案」の話題でした。概念3つに対して言葉が2つ -- 「基底」と「フレーム」だけなので、概念と言葉の1:1対応は作れません。言葉を付け足して1:1対応を作った例が:
- Im(φ) は基底集合(「基底」と省略する)
- φ は基底フレーム(「基底」または「フレーム」と省略する)
- φ∧ は線形フレーム(「フレーム」と省略する)
線形代数で、概念に対して言葉が少なすぎる事例がほかにもあります。Vとmは今までと同じとして、1 = {1} とします。単元集合からの写像 v: 1 → V を考えます。vに関連して3つの概念があります。
1からの写像は、特定要素を指し示すので、「ポインティング写像、ポインター写像、ポインター、ポイント」などと呼びます。ベクトル空間の要素は「ベクトル」ですね。このことを考慮して、次のように区別してはどうでしょう。
実情は、線型ポインターも「ベクトル」と呼んでしまうので概念3つに対して言葉が1つですね。次の同型があるので、3つの概念を同一視可能ではあります。
- V Set(1, V) FdVect(R, V)
もっと正確に書くと、U(V) を「ベクトル空間Vの台集合」、F(1) を単元集合1から作られた自由ベクトル空間*1として、
- U(V) Set(1, U(V)) FdVect(F(1), V) in Set
となり、まんなかと右側のあいだの同型は自由忘却随伴〈free-forgetful adjunction〉が導くホムセット同型の特殊ケースになります。
「規準的〈canonical〉な同型があるから同一視可能だ」という事実を認識するには、いったんは3つの概念を区別する必要があります。区別してない概念を同型だと認識することは出来ません。