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参照用 記事

「ベクトル」の3つの解釈:要素、ポインター、線形ポインター

基底とフレーム、丸く収まる妥協案」の続きです。VはR上のベクトル空間で dim(V) = m とします。

写像 φ:{1, ..., m} → V を最初に考えて、写像φの像 Im(φ) はVの部分集合になり、写像φの線形拡張 φ:Rm → V は線形写像です。次の状況を考えます。

  • φ:Rm → V は線形同型写像になっている。

この状況において、φ, Im(φ), φ をそれぞれ何と呼ぶか? が「基底とフレーム、丸く収まる妥協案」の話題でした。概念3つに対して言葉が2つ -- 「基底」と「フレーム」だけなので、概念と言葉の1:1対応は作れません。言葉を付け足して1:1対応を作った例が:

  1. Im(φ) は基底集合(「基底」と省略する)
  2. φ は基底フレーム(「基底」または「フレーム」と省略する)
  3. φ は線形フレーム(「フレーム」と省略する)

線形代数で、概念に対して言葉が少なすぎる事例がほかにもあります。Vとmは今までと同じとして、1 = {1} とします。単元集合からの写像 v: 1 → V を考えます。vに関連して3つの概念があります。

  1. 写像vの値 v(1)∈V
  2. 写像vそのもの v:1 → V
  3. 写像vを線形に拡張した線形写像 v:R → V

1からの写像は、特定要素を指し示すので、「ポインティング写像ポインター写像ポインター、ポイント」などと呼びます。ベクトル空間の要素は「ベクトル」ですね。このことを考慮して、次のように区別してはどうでしょう。

  1. v(1) はベクトル要素(「ベクトル」と省略する)
  2. v はベクトルポインター(「ベクトル」または「ポインター」と省略する)
  3. v線形ポインター(「ポインター」と省略する)

実情は、線型ポインターも「ベクトル」と呼んでしまうので概念3つに対して言葉が1つですね。次の同型があるので、3つの概念を同一視可能ではあります。

  • V \cong Set(1, V) \cong FdVect(R, V)

もっと正確に書くと、U(V) を「ベクトル空間Vの台集合」、F(1) を単元集合1から作られた自由ベクトル空間*1として、

  • U(V) \cong Set(1, U(V)) \cong FdVect(F(1), V) in Set

となり、まんなかと右側のあいだの同型は自由忘却随伴〈free-forgetful adjunction〉が導くホムセット同型の特殊ケースになります。

「規準的〈canonical〉な同型があるから同一視可能だ」という事実を認識するには、いったんは3つの概念を区別する必要があります。区別してない概念を同型だと認識することは出来ません

*1:「自由ベクトル空間」という言葉も曖昧で困ることは、「モナドの自由代数」参照。