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参照用 記事

野村監督とバカボンのパパの論理

今朝のニュースにて: プロ野球チーム楽天の勝率が5割をこえたことに関して、野村監督が「あしたは雪かな」と自嘲ぎみのジョークを言ってました。いまの季節に「あしたは雪」ってのは、ありえそうにないこと。つまり、楽天が勝率5割なんてありえそうにないことが起きたな、ってな意味合い -- と説明するのも野暮ですがね。

さて実は、野村監督のこの論法(?)、古典論理の法則を使っています(本人がそう思っているかどうかは別)。「Aではない」(Aの否定)と「Aならば矛盾」が同じ意味だという法則ね -- これは論理のなかでも分かりにくいと不評な部分ですが、日常会話でけっこう使ったりしてるんですよ。

古典論理の否定と矛盾

まず、問題の古典論理の法則とは; 「Aではない」と「Aならば矛盾」は論理的に同値だという法則です。「Aではない」と「Aならば矛盾」が主張している内容に変わりはないのです。「ではない」を記号¬で、「ならば」を記号⊃で、矛盾を記号⊥で表すなら:

  • ¬A ≡ A⊃⊥

と書けます。≡は論理的同値を示します。記号⊥で記された矛盾とは、絶対に間違っている命題を代表するもので、たとえば 1≠1 の略記と思ってかまいません。論理では、矛盾という言葉を色々な意味で使いますが、今の文脈では、1≠1 のような命題のことです。

例を出すと、¬(x*x < 0) の代わりに (x*x < 0)⊃⊥ と言ってもいいわけです。おっと、この表現は不正確でした。もう少しちゃんと書くと、

  • 「二乗して負になる数がある」ことはない: ¬(∃x.(x*x < 0))
  • 「二乗して負になる数がある」ならば矛盾: (∃x.(x*x < 0))⊃⊥

ついでに言うと、¬(∃x.(x*x < 0)) は ∀x.(x*x ≧ 0) です*1

野村論法の解析

いまの季節に「あしたは雪がふる」はほとんどありえないことです。「ほとんど」なんて曖昧さを避けるため(古典論理は曖昧さを取り扱いません)、「あしたは雪がふる」ことは絶対にない、としましょう。つまり、「あしたは雪がふる」は 1≠1 が絶対に間違っているのと同じように絶対に間違っているので矛盾命題です。ですから、「あしたは雪がふる」を⊥と略記してもかまいません。

さて、野村監督が「あしたは雪かな」と言った背景には、次の命題があります。

  • 楽天が勝率5割を達成する」ならば「あしたは雪がふる」

楽天が勝率5割を達成する」をAと置いて、「ならば」と「あしたは雪がふる」も記号表現すると:

  • A⊃⊥

古典論理の法則 ¬A ≡ A⊃⊥ から、これは¬Aと同じこと、つまり:

  • 楽天が勝率5割を達成する」ことはない

が暗黙に仮定されていたのですね。

楽天が勝率5割を達成する」を完全に否定しちゃうのもヒドイ話ですから、「楽天が勝率5割を達成することは必然的ではない」とか「楽天が勝率5割を達成する可能性性は10%以下」とか言いだすと、古典論理からはハミ出た様相とかファジネスを扱うことになります。

バカボンのパパの論法

バカボンのパパは「西から昇ったお日様が東へ沈む。これでいいのだ。」と言っております。彼は、「西から昇ったお日様が東へ沈む」という矛盾命題(つまり⊥)を「これでいいのだ」、つまり妥当だとする論理系のなかにいるのです。

バカボンのパパに対しては、A⊃⊥ をもって ¬A だとする論法は通じません。「通じません」とは、パパに論駁されるということではなくて、どうせ「それでもいいのだ」と言われてしまうのです。

通常、「おまえの言うことが正しかったら、お日様が東へ沈むよ」とは、「おまえの言うことは正しくない」を意味します。これは古典論理の法則通りです。「おまえの言うこと」をA、「お日様が東へ沈む」を⊥とするなら、A⊃⊥ により ¬A を表現しているわけですね。ところが、バカボンのパパの世界では⊥はT(true、真な命題)ですから、A⊃⊥ は A⊃T であり、いわば、「おまえの言うことが正しかったら、お日様が西へ沈むよ」みたいなもので、A(おまえの言うこと)を否定することにはなりません。

バカボンのパパにとっては、お日様が東へ沈むでいいし、西に沈むのもまたそれでいいのです。なにごとも否定しないのがパパの論理です。”なにごとも否定しない=なんでもあり”だと通常の論理を展開するのは困難ですが、バカボンのパパだから、それでいいのですね。

*1:x*x < 0 の否定が x*x ≧ 0 だと言う部分では、順序に関する法則を前提してます。