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参照用 記事

余域関手のデカルト射はプルバック四角形

過去記事「関手のデカルト射とファイバー付き圏」で次のように述べました。$`\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}
\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1}}
`$

今詳しく説明はしませんが、次の事実は重要です。

  • 圏 $`\cat{C}`$ のアロー圏 $`\mrm{Arr}(\cat{C})`$ から $`\cat{C}`$ への余域関手〈codomain functor〉を $`\mrm{Cod} : \mrm{Arr}(\cat{C}) \to \cat{C}`$ とする。関手 $`\mrm{Cod}`$ のデカルト射は、$`\cat{C}`$ 内のプルバック四角形である。

上記の事実を示してみます。「関手のデカルト射とファイバー付き圏」で説明した概念や描画法を使います。$`\newcommand{\o}[1]{\overline{#1}}\newcommand{\In}{\text{ in }}`$

$`\quad \xymatrix{
0 \ar[dr] \ar@{|->}[dd] \ar@{.>}[rr]|{?}
&{}
&1 \ar[dl]|{\vec{1,2}} \ar@{|->}[dd]
\\
{}
& 2 \ar@{|->}[dd]
&{}
\\
{0'} \ar[rr] \ar[dr]
&{}
&{1'} \ar[dl]
\\
{}
&{2'}
&{}
}\\
\quad \text{ in } \mrm{Cod}: \mrm{Arr}(\cat{C}) \to\cat{C}
`$

この図は、「関手のデカルト射とファイバー付き圏」で導入した関手ターゲットの図式〈functor-targeted diagram〉を使って描いた欠損プリズム〈deficient prism〉の図です。上段は $`\mrm{Arr}(\cat{C})`$ (「アロー圏 = バンドルの圏」参照)で、下段は $`\cat{C}`$ です。

対象や射は、名前ではなくて番号(または番号のペア)でラベルしています。$`\mrm{Arr}(\cat{C})`$ 内の射 $`\vec{1,2}`$ (対象 $`1`$ から対象 $`2`$ に向かう射)がデカルト射〈Cartesian morphism〉であるとは、上記のような任意の欠損プリズムに対して、点線と疑問符で描いた射が一意に存在することです。

まず、図のレイアウトを変えます。

$`\quad \xymatrix@C+1pc {
{0} \ar@{.>}[r]|{?} \ar@{|->}[d] \ar@/^1.5pc/[rr]
&{1} \ar[r]|{\vec{1,2}} \ar@{|->}[d]
&{2} \ar@{|->}[d]
\\
{0'} \ar[r] \ar@/_1.5pc/[rr]
&{1'} \ar[r]
&{2'}
}\\
\quad \text{ in } \mrm{Cod}: \mrm{Arr}(\cat{C}) \to\cat{C}
`$

上の図は最初の図とまったく同じです。この図の上段を抜き出すと:

$`\quad \xymatrix@C+1pc {
{0} \ar@{.>}[r]|{?} \ar@/^1.5pc/[rr]
&{1} \ar[r]|{\vec{1,2}}
&{2}
}\\
\quad \text{ in } \mrm{Arr}(\cat{C})
`$

同じ内容を $`\cat{C}`$ 内に描きましょう。次のようになります。

$`\quad \xymatrix @C+1.5pc{
{\o{0}} \ar[d]_{0} \ar@{.>}[dr] \ar@/^/[drr]
\ar@{}[ddr]|{?}
&{}
&{}
\\
{0'} \ar[dr] \ar@/^/[drr]
&{\o{1} } \ar[d]|{1} \ar[r]
\ar@{}[dr]|{\vec{1,2} }
&{\o{2} } \ar[d]^{2}
\\
{}
&{1'} \ar[r]
&{2'}
}\\
\quad \text{ in } \mathcal{C}
`$

ここで:

  • $`0: \o{0}\to 0' \In \cat{C}`$
  • $`1: \o{1}\to 1' \In \cat{C}`$
  • $`2: \o{2}\to 2' \In \cat{C}`$

$`\vec{1, 2}`$ は、 $`\o{1}, \o{2}, 2', 1'`$ という四角形です。そして、$`?`$ は、 $`\o{0}, \o{1}, 1', 0'`$ という四角形です。未知の四角形 $`?`$ は、未知の射 $`\o{0}\to \o{1}`$ が分かれば決まります。

$`\vec{1,2}`$ がデカルト射だと前提すると、未知の四角形、つまり未知の射 $`\o{0}\to \o{1}`$ は、どんな場合でも一意に決まります。特に $`0:\o{0}\to 0'`$ が恒等射のときは、以下の図の点線が一意に決まることになります。

$`\quad \xymatrix @C+1.5pc{
{\o{0}} \ar@{=}[d]_{\mathrm{id} } \ar@{.>}[dr] \ar@/^/[drr]
\ar@{}[ddr]|{?}
&{}
&{}
\\
{0'} \ar[dr] \ar@/^/[drr]
&{\o{1} } \ar[d]|{1} \ar[r]
\ar@{}[dr]|{\vec{1,2} }
&{\o{2} } \ar[d]^{2}
\\
{}
&{1'} \ar[r]
&{2'}
}\\
\quad \text{ in } \mathcal{C}
`$

$`\mrm{id}`$ を一点に縮めて、矢印を一本省略すると次の図です。

$`\quad \xymatrix @C+1.5pc{
{\o{0}} \ar@{.>}[dr] \ar@/^/[drr] \ar@/_/[ddr]
\ar@{}[ddr]|{?}
&{}
&{}
\\
{}
&{\o{1} } \ar[d]|{1} \ar[r]
\ar@{}[dr]|{\vec{1,2} }
&{\o{2} } \ar[d]^{2}
\\
{}
&{1'} \ar[r]
&{2'}
}\\
\quad \text{ in } \mathcal{C}
`$

この図の点線が一意に決まるとは、四角形 $`\vec{1, 2}`$ がプルバック四角形であることです。

以上で、$`\mrm{Arr}(\cat{C})`$ 内の射 $`\vec{1,2}`$ がデカルト射なら、それは $`\cat{C}`$ 内のプルバック四角形となることが分かりました。

逆に、$`\cat{C}`$ 内にプルバック四角形があると、それは、$`\mrm{Arr}(\cat{C})`$ 内の $`\mrm{Cod}`$ に関するデカルト射を定義することも示せます。

描画法とレイアウトを変えることによって、異なった定義を行き来することがキモです。