スピヴァックが関手データモデルでやったことは、データベースの諸概念を極端に単純化することにより、圏の基本概念(圏、関手、自然変換)だけで書き直すことです。これにより、圏論のあらゆる手法をデータベースに適用できる途が開けたわけです。
徹底的に夾雑物を排除して単純化すればいいことあるよ -- これが関手データモデルから得られるひとつの教訓です。この教訓は、いつか役に立つとかではなくて、すぐさまに使えるノウハウでもあります。僕自身、身近な懸案に適用して効果があるのを確認しています。
頂点と辺からなる有向グラフが出てきたら、そこに圏があるんじゃないか? と推測してみるという無邪気な方法論は思いの他に強力です。広い意味でのフローチャートはその典型例でしょう。
比較的最近、The n-Category Cafe の記事にプロジェクトスケジュールに出てくるPERT図(Program Evaluation and Review Technique graph)の話題がありました。PERT図も有向グラフなので圏なんじゃないのか? 実際、豊饒圏になってるよね! という話です。
ジョン・バエズが書いているエッセイ風論説 Network Theory では、次のような有向グラフ類似物を圏論のマインドで取り扱っています。
- ファインマン図 (物理)
- 電気回路図 (電気工学)
- ボンドグラフ (化学)
- ペトリネット (計算科学)
- SBGN (Systems Biology Graphical Notation) (生物)
- 実体・関係(ER)図 (データモデリング)
- Activity Flow language (生化学)
- ベイズ・ネットワーク (確率モデル)
- UML、SysML (ソフトウェア工学)
- テンソル・ネットワーク (物理)
関手データモデルのスキーマ(圏の表示)はもちろん有向グラフです。たまにうまくいかない事もあるのは承知の上で「有向グラフあるところ圏あり」というキャッチフレーズは心に留めておいていいのじゃないかな。