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参照用 記事

フィルターと約積

今日は定義だけ。

可換環Rのイデアルの場合は、{0}とR自身も、自明なイデアルとしてイデアルの仲間に入れることが多いのですが、束Lのフィルターの場合、L自身はフィルターとは呼ばないほうが多数派みたい。以下の条件が、L自身を除いたフィルターの定義になります。

有界*1Lの部分集合Fがフィルターだとは:

  1. (Lの最大元)∈F
  2. (Lの最小元)∈F ではない
  3. x∈F、x≦y ならば、y∈F (上方に閉じている)
  4. x, y∈F ならば、(x∧y)∈F (ミート演算に関して閉じている)

(Lの最大元)∈F なので、Fは空でないことになります。上方に閉じていることから「(Lの最小元)∈F ⇔ F = L」となるので、二番目の条件は「FはLではない」と同じです。

Xを集合として、Xのベキ集合束のフィルターを、X上のフィルターと呼びます。以下、この形のフィルターだけを考えます。

a∈X に対して、{A⊆X | a∈A} はX上のフィルターになります。Xの要素aに対する主フィルター単項フィルターとも呼ぶ)ですね。主フィルターは超フィルターになります。超フィルターに関しては「超フィルター(ultrafilter)って何なんだ: 点? 確率測度?」に少し書いてあります。

Xは無限集合(例えば自然数の全体)だとしましょう。主フィルター以外のフィルターの例として有名なものにフレシェフィルターがあります。フレシェは人名でモーリス・ルネ・フレシェのことです。

X上のフレシェフィルターとは、{A⊆X | Aの補集合は有限集合} と定義されます。これが実際にフィルターであることを示すのは良い練習問題です。補集合が有限であるので、補有限フィルター(cofinite filter)と呼ばれることもあります。

X上のフィルターFに所属する部分集合は、「X内の大きな部分集合」と比喩的に説明されたりします。フィルターFに所属する集合の補集合は「X内の小さな部分集合」です。大きな集合は「無視できない大きさを持つ=多数派」、小さな集合は「無視可能なほどに小さい=例外的少数派」という感じです。フレシェフィルターを考えると、この感じが分かると思います。

あくまで比喩的な話ですが、Fが超フィルターのときは、あらゆる部分集合が「大きいか/小さいか」のどちらかに決定します。超フィルターによる大小の分類は二択・決定的で、中間の大きさを認めないのです。

さて、Xを添字集合とする集合族 {Sx | x∈X} を考えます。Sx(x∈X)を直和ですべて寄せ集めた集合 Σx∈XSx をSとして、写像 f:X→S で f(x)∈Sx となっているもの(セクション)を考えます。そのような写像fをすべて集めると直積 Πx∈XSx が出来ます。

FをX上のフィルターとして、直積 Πx∈XSx 上の同値関係〜Fを定義したいと思います。f, g∈(Πx∈XSx) に対して、f 〜F g とは、

  • {x∈X | f(x) = g(x)} ∈ F 。

これは、fとgの値が等しくなるような点からなるXの部分集合が「大きな部分集合」であることです。つまり、fとgはX上の大部分の点で等しいのです。等しくない点があっても、それは無視可能だろう、というわけです。Fがフレシェフィルターの場合だと、fとgが異なる点は有限個しかないので、f 〜F g とは「有限個の例外的な点を除いて等しい」ことになります。

ここで、Πx∈XSx 上の関係〜Fが同値関係であることが自明というわけではありません。フィルターの定義に照らし合わせて確認する必要がありますが、そのとき、「fとgは大きな部分集合の上では等しい」という比喩やフレシェフィルターの例で考えるとよいと思います。

Πx∈XSx 上の関係〜Fが同値関係であることがわかれば、同値関係による商集合 (Πx∈XSx)/〜F を定義できます。こうしてできた商集合を、集合族 {Sx | x∈X} のフィルターFによる約積(reduced product)と呼びます。実際には、商集合の上の構造とかも一緒に考えます。

フィルターFが超フィルターのときが特に有用で、フィルターFが超フィルターである場合の約積が超積(ultraproduct)で、Sxがすべてのxに渡って等しいときが超ベキ(ultrapower)です。

*1:最大元と最小元を持つ束