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参照用 記事

実写版『進撃の巨人』観たから言うけど

実写版『進撃の巨人』特殊造型プロデューサー・西村喜廣さんのTwitter発言:

みんな映画はハリウッドがいいんだね!じゃあハリウッド映画だけ観ればいいよ!
予算と技術はある方がいいもんね!特に予算!金で顔叩かれた映画を観ればいいと思います!
ハリウッド日本比較の人はそれが気持ちいいんでしょう?


映画を予算で決める、もしくは、ハリウッド?と比較する。
それって、すいません、スーパーマーケットに行って納豆を買う時におかめ納豆は安心と思う人と一緒で、みんながいいと思えば自分もいいと思う。
と言う全体主義思想なんですね。なんかわかりました!ありがとうございます!

それ言っちゃダメでしょ、と思ったけど、映画を観ずに何ごとかを述べるのは憚られました。でも観てきたから、言います。

この映画に対する批判も賞賛も、事実の指摘としては間違ってないです。評価の基準や視点の違いにより、良いか悪いかがまるで別れちゃう、ということです。僕からの注意点は:

  1. 原作(漫画)のストーリーやキャラクターを愛している人は観ないほうがいいです。怒りが込み上げるだけでしょう。まったくの別物と割り切るなら、それなりに楽しめます。
  2. グロいのがダメな人も観るのはやめましょう。血がドバドバが誇張されている分、リアルな残酷さは薄いのですが、それでも苦手な人は気分が悪くなるシロモノです。

さて、西村喜廣さんの発言ですが、僕は次の2点においてムッとしました(映画観る前の時点で)。

  1. 映画の観客・ファンを馬鹿にしている。
  2. 自分達の作品を貶めている。

予算(製作費)で観客が映画を選ぶと本気で思っているわけ? そんなわけないでしょうよ。面白いものを観たいだけですよ。世間の評判を気にかけるのは、時間とお金を無駄にしたくないからです。

「観客は製作費で作品を評価する」なんて、そんなイメージを持っている人が観客を喜ばせる作品を作れるわけないよね。予算がどうであれ、そのなかで良いものを作れば観客は評価してくれると信じるからモチベーションを維持でき、作り手の矜持を保てるんじゃないの。

ハリウッドの「資金にものを言わせた映画作り」を批判しているようでいて、その実「お金があれば良いものが作れる」という論理を前提にしているわけだから、(西村さんがイメージする)ハリウッドを全面的に肯定した上での敗北宣言。ハリウッドに一矢報いたいなら、少ない予算でも面白い映画を作れることを示さなきゃ。「予算が少ないから出来ませんでした」(と取られること)を言っちゃダメでしょ。

僕、2011年の夏に『モンスターズ/地球外生命体』という映画を観たんですけど、これは製作費130万円という触れ込みでした(いくらなんでも安すぎる気がするが)。CGも特撮も使えないので、モンスターの姿を極力出さないで怖さを演出しようと頑張っていました。とはいえ、チラッとだけ登場するモンスターがどえらくチープで苦笑しちゃうんですけど、… それでも全体としては「いい映画だな」という感想。少ない予算でも面白い映画は作れるんです。

それで実写版『進撃の巨人』、まったくのダメダメかというと、そんなことはないと思いますよ。「町山智浩 実写版映画『進撃の巨人』を語る」によると、原作との関連で物議を醸すことは企画段階から織り込み済みだったようだし、予算だって最初から分かっていたことでしょう。そんな想定と状況のもとで、最善のものを作ったという自負はないのかな、西村喜廣さんには。

特定の論評に感情的に反応しちゃったのかも知れないけど、この発言は「お金がなかったからしょうがないだろう」という言い訳に聞こえるし、さらにその背後には「自分達は変なものを作ってしまった」という後ろめたさが在ったように思えます。評論家や観客やお調子者に叩かれる以前に、作った当事者が作品を見限っているような。

一部には絶賛もあるし(例えば「実写版「進撃の巨人」が割と最高だった話 - Togetterまとめ」)、出だしの興行収入も大コケってわけじゃないし、もう少しプライドを持って欲しいな。

西村喜廣さんの騒ぎの前に、監督の樋口真嗣さんと一悶着あったという前田有一さんの批評(100点満点中40点)を一部引用すると:

なにしろ巨人の登場シーンは大迫力だし、スパイダーマンを彷彿とさせる立体機動の表現も頑張っている。人間を食らうシーンはあえて嘘っぽい絵づくりにして残酷度を抑えた配慮も好感が持てる。

ただ、そうしたルックスの良さが、演出、演技、シナリオに足を引っ張られてしまい、恐怖や驚きも半減してしまったというだけだ。

だから、本作にはまだまだ挽回の目はあると見る。頑張ってほしい。

酷評と言われているけれど、前田さんの「超映画批評」では、100点満点中で一桁の点数もあるので、40点の評価は最悪でもなんでもない。持ち上げているところも皮肉を込めた表現ではあるけれど、それにしても徹底的にダメとは言ってない。

幾分かの優しさを残した“酷評”より、作り手側の“痛いところを突かれて逆上している”ような反応のほうが作品を貶めていますよ。