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参照用 記事

登場する圏と関手の概要 -- toward 量子と古典の物理と幾何@名古屋

ストリンググラフのレベル関数と全順序 -- toward 量子と古典の物理と幾何@名古屋」にて:

ストーリーを組み立てるためのピースはあと2つ; とある代数系の話と高次関手の構成法です。

「高次関手の構成法」については「3-圏と、3-圏からモノイド圏への関手」で述べました。残るは「とある代数系の話」です。

この「とある代数系」とはフロベニウス代数(Frobenius algebra)です。でも、今ここでフロベニウス代数の話をするのはやめて、代わりに、使う圏(高次圏)に関して全般的な話をします。そのほうが後々の参考になるでしょう。あと、フロベニウス代数よく知らんし、調べる余裕もなかったし(ごめんなさい)。

内容:

  1. 3つの圏
  2. 関手の構成問題
  3. 関手と代数系
  4. 組み合わせ的/幾何的な議論
  5. 1進数表記とか

3つの圏

関係圏」でも触れたように関係圏Relは登場します。Relを一般のモノイド圏Cに置き換えても議論はほとんど変わりません。関係圏は具体的だし何かと便利なので採用したのですが、関係圏でなくてはならない理由はありません。有限次元ベクトル空間にテンソル積を一緒にしたモノイド圏Vectも良い例です。が、ベクトル空間のテンソル積に馴染みがない人もいるかも、と関係圏Relにした次第です。

[追記]研究会に参加した方への注記:

以下のHHiveSDaftogのことです。この時点で固有名詞を決定してなかったので、当たり障りのないアルファベット1文字を使っていました。S = Daftog の2-射は、グラフの移動(変形、書き換え)です。D:HS はハイブ(H = Hive の2-射)に双対グラフ(Daftogの1-射)を対応付ける関手です。最後の1進数の足し算は、Daftogの対象に対するモノイド積の話です。

[/追記]

主役となるのは関係圏Relではありません。組み合わせ幾何的に定義される2つの圏が中心です。仮にHSという固有名詞を付けておきます。Hは、「従順な複体から作られる3次元の圏」で説明したAKB12とよく似た圏です。|H|0, |H|h1, |H|hv2 は、AKB12のそれと同じです。t-方向の射がAKB12とは違います。

もうひとつの圏Sはモノイド積を持つ厳密2-圏です。その2-射はすべて可逆です。Sの0次元と1次元の部分だけを取り出すとPRO(「PROと代数系」参照)になっています。また、Sの各ホムセットには可逆2-射による同型で同値関係(合同)が入ります。この同値関係(の集まり)で割って商圏(quotient category)を作ったモノもまたPROです。

関手の構成問題

H, S, Relの3つの圏を使って何をするのか? HからRelへの関手を構成するのが目的です。できれば、すべての関手を構成したい、ということです。HからRelへの関手の全体をFunctor(H, Rel)と書くことにすれば、「Functor(H, Rel)について知りたい」と言っても同じです。

「関手」と言いましたが、Hは3次元の圏なので、単なる関手ではなくて、3次元の圏構造を保存する関手となります。関手のターゲット(余域)であるRelはモノイド圏ですが、適当な方法で弱3-圏とみなしての3-関手を考えます。詳しくは「3-圏と、3-圏からモノイド圏への関手」を参照してください。

Hは組み合わせ幾何的に定義されるので、扱いがそれほど楽ではありません。そこで登場するのがSです。Sは、PRO+αなので明快な構造を持ちます。HSのあいだには、D:HS という関手があります。Dにより、HSは圏同値です。とはいっても、通常の圏同値ではなくて、3-圏としての圏同値(3-同値?)なので、同値性の定義でさえ難しい問題です。

形式的には難しい話でも、実際上、HSが同じ構造を持つのは(直感的には)明らかで、H上の関手の代わりにS上の関手を考えてもよいことが分かります。つまり、Functor(H, Rel) \stackrel{\sim}{=} Functor(S, Rel)。Functor(S, Rel)→Functor(H, Rel) という向きの対応は、関手Dによる引き戻しにより与えられます。

関手と代数系

前節の議論から、Functor(H, Rel)の代わりにFunctor(S, Rel)を考えればいいことになります。Sはモノイド構造を持つ厳密2-圏ですが、可逆である2-射を“等式”とみなすと、等式的仕様(Σ, E)により定義されるPROとみなせます(「PROと代数系」参照)。

重要なことは、Sの構造を決める等式的仕様(Σ, E)が有限なことです。指標Σには有限個のオペレーションが含まれ、等式の集合Eも有限です。このため、(Σ, E)を完全に書き下すことが出来ます。PROからのモノイド圏への関手は、ターゲットのモノイド圏内の代数系と1:1対応するので、Functor(S, Rel)はRel内の代数系によりエンコード(パラメトライズ)されます。この事実は、「すべての関手を構成したい」に対して、ある程度の解答を与えています -- 「すべての(ある種類の)代数系を構成すればよい」。

Sが有限生成であることから、Sと“同値”であるHも有限生成であるとみなせます。これは、文字通りの有限生成ではありませんが、(高次)圏論的に有限生成と区別が付かないことです。“本質的に有限生成”とでも呼ぶべき性質です。巨大な圏であっても、それが“本質的に有限生成”であれば、その構造は簡単だと言っていいでしょう。

組み合わせ的/幾何的な議論

先に、D:HS という“同値”を与える関手がある、と言いました。この関手Dの存在は自明というわけではなくて、構成しなくてはなりません。構成した上で、それが望ましい性質を持つことを確認しなくてはなりません。

Dの構成と調査はけっこうめんどくさい作業です。HAKB12類似の3-圏)はもともと組み合わせ幾何的なものだし、PROであるSも組み合わせ的な性格を持ちます。そのため、議論は場合分けと数学的帰納法を多用する組み合わせ的なものになります。

そのような組み合わせ的議論の一部を「ストリンググラフのレベル関数と全順序」で述べています。地味/地道な話ですね。

1進数表記とか

鳥瞰的なオーバービューから、いきなり茫漠とした、あるいは瑣末な話題へと変わるのですが、HSというのは、原始的な算術概念の現代的な定式化のような気がします。

ネアンデルタール算術」において、「原初的な数概念」という言葉を使ったのですが、そのような数の表記法として1進数があるでしょう。1進数は数字(digit)が1つしかない表記法です。タリー(tally)表現と呼ぶこともあります。タリー表現については、「圏のクリーネスター構成 -- エフイチに触発されて」「Make言語で算術演算 <-- バカ!」で触れています。

1進数=タリー表現は棒を並べるだけですが、ここでは棒の代わりに点(ドット)を使ってみます。

  • 0 = ()
  • 1 = (・)
  • 2 = (・・)
  • 3 = (・・・)

1進数での足し算は併置が相応しいでしょう。2 + 3 = (・・)(・・・) = (・・・・・)。0 = () は併置に対して単位元になっています。

点の代わりに両端を持つ横棒にすると:

  • 0 = (・)
  • 1 = (・−・)
  • 2 = (・−−・)
  • 3 = (・−−−・)
  • 2 + 3 = (・−−・)(・−−−・) = (・−−−−−・)

HSという計算デバイスは、上記のような原初的・素朴な計算を発展させたもので、ネアンデルタール算術の圏化(categorification)とみなせそうです。

置換の圏から代入の圏へ」で述べたアミダ図の圏や置換の圏は、「モノを入れ替える」という原初的・素朴な操作の定式化です。アミダ図の圏から置換の圏の構成法は、可逆2-射や等式的仕様を使ってPROを作る場合と同じ発想です。

並べる、入れ替える、動かす(変形する)、比べる、重ねる(同一視する)などの操作をシリアスに再考し、最定式化するのは大事なことだなー、と思います。