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参照用 記事

disintegration は使わないほうが吉


\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}
\newcommand{\id}{\mathrm{id} }
昨日の記事で話題にした長/ジェイコブス論文の Proposition 3.10 (p.11)のそば(p.10)に次の絵(描画方向は ↑→)があります。


これを見ると、次のように思えます。

  • integration は同時化:
    (\sigma, c) \mapsto \sigma;\Delta_X;(\id_X \otimes c)
  • disintegration はベイズ反転:
     \sigma;\Delta_X;(\id_X \otimes c) \mapsto (\sigma;c, d)\:\text{ where }d = c^{\dagger \sigma}

実際、integration = 同時化、disintegration = ベイズ反転 の意味でも使いますが、disintegration の意味はもっと広くて、次の絵で表される意味を持ちます。


つまり、同時分布 \omega:{\bf 1} \to X\otimes Y があるとき、それを絵の左右のような形に分解することが disintegration です。

上記の絵の記号をそのまま使うとして:

  • \omega_1 := \omega_{!1} = \omega;(\id_X \otimes !_Y) と置くと、disintegration は \omega の条件化〈conditionalization〉となる。
  • \omega_2 := \omega_1;c1 と置くと、(\omega_1, c_1) \mapsto (\omega_2, c2)ベイズ反転〈{Bayes | Bayesian} {conversion | inversion}〉になる。

つまり、disintegration は条件化とベイズ反転を包摂したより一般的な概念なわけです。

より一般的な概念・用語が使いやすいかというと、そうでもないです。場合に応じて、「disintegration = 条件化」だったり、「disintegration = ベイズ反転」だったりするわけで、文脈を見ての解釈負担が増えます。端的に、「条件化」「ベイズ反転」と言ったほうが分かりやすいでしょう。「条件化」でも「ベイズ反転」でもない意味で disintegration を使う機会はあまりなさそうだし。

disintegration の翻訳語がないのも困ったことです。disintegration はもともと測度論・積分論の用語らしいので、「積分」の integration が語源なら「脱積分」とかでしょう。「積分」とはあまり縁がないなら「分解」くらいでいい気もします。

disintegration という概念で、条件化とベイズ反転が統合的に記述できるというメリットはあります。しかし当面、条件化でもベイズ反転でもない disintegration を使う予定もないので、曖昧性が高く翻訳語もない言葉 "disintegration" は使わないほうがよさそうです。


[追記]
1年以上前に、"disintegration" の翻訳語は「脱積分」でいいだろう、と書いてましたね。

根拠は:

マルコフ核〈チャンネル〉を確率測度で積分して同時化することができますが、積分結果である同時確率分布をマルコフ核と確率測度に分解することが脱積分なんですね。

でもなー、「脱積分」なんて誰も使ってないし。現時点での見解は表題のとおり「使わないほうが吉」。
[/追記]