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参照用 記事

等式的2-グラフ(2-圏の記述のために)

等式的2-グラフ〈等式的2-コンピュータッド〉について解説します。等式的2-グラフは、2-圏内で実現される構造を記述するための具象指標として使います。例えば、2-圏内の随伴系やモナドは等式的2-グラフで記述できます。$`\newcommand{\mrm}[1]{ \mathrm{#1} }
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%%
\require{color}
\newcommand{\NN}[1]{ \textcolor{orange}{\text{#1}} } % New Name
`$

内容:

具象指標、コンピュータッド、グラフ

一般的な n > 1 に対するn-圏論は手に負えるシロモノではなく、調べるにしても使うにしても n = 2, 3 あたりを対象にします。n = 2 のケース、つまり(弱い)2-圏でも十分に難しい対象物です。

2-圏と2-圏のなかで実現される構造、例えばモナドを記述・計算するには、2次元の指標を使うことになります。指標の一般論は「構文付き変換手インスティチューション 1/n」から始まる一連の記事達(まだ途中)で書こうとしています。実際的な指標とその使い方の例は「構造記述のための指標と名前 1/n 基本」に書いています。また、指標は「圏論におけるフレーム充填問題」とも密接に関係します。

インスティチューション理論で出てくる指標は、まったく抽象的な存在物です。指標の実体・正体は何もなくて、単に“指標の圏”の対象を「指標」と呼ぶだけのことです。“指標の圏”も具体物ではなくて、インスティチューションの公理として要請される抽象的構成素のひとつに過ぎません。

それに対して具象指標〈concrete signature〉は、実体・正体が具体的に決まっている存在物のことです。具象指標としていかなる具体物を採用するかは目的・用途によりますが、コンピュータッド〈computad〉を指標に使うことが多いでしょう。コンピュータッドについては以下の過去記事でも書いています(この記事であらためて説明しますが)。

コンピュータッドとそのモデル: 同義語・類義語のジャングル」に書いたように、「コンピュータッド」にはたくさんの同義語〈別名〉があります。それらの同義語のなかで、「コンピュータッド」という呼び名はあまりポピュラーではなくて、概念のプロモーション上は「グラフ」と呼んだほうがいいかな -- と最近思ったりします。実際、1-コンピュータッドは有向グラフそのものです。2-コンピュータッドも2-グラフ〈2-graph〉と呼ぶことにします。今回は3次元セルとしての等式も考えるので等式的2-グラフ〈equational 2-graph〉(3-グラフの一種)を考えます。

この記事では、等式的2-グラフ〈等式的2-コンピュータッド〉について大雑把に説明します。大雑把とは、等式的2-グラフの作り方の詳細には踏み込まないで、既存の等式的2-グラフを使う立場で述べるということです。セル形状が球体である球体モデル〈globular {model | approach}〉に基づくn-圏の枠組みで話をします。

なお、n-圏に対する入り口としては、2008年に書いた以下の過去記事達が参考になるかも知れません。

グラフのセルとパス

等式的2-グラフ $`G`$ は、3次元(2次元ではない)までのセルの集合〈set of cells〉を持ちます。「セル」(の正体)が何であるかは未定義で気にもしません。セルの集合達を次のように書きます。

$`\quad |G|_0, |G|_1, |G|_2, |G|_3 \;\in |{\bf Set}|`$

0-セル($`|G|_0`$ の要素)を頂点〈vertex〉、1-セル($`|G|_1`$ の要素)を〈edge〉とも呼びます。

記述の便宜上、(-1)次元のセルもあるとします。

$`\quad |G|_{(-1)} :=\{ \bot \} \;\in |{\bf Set}|`$

$`\bot`$ は存在しないことを表す記号で、ほんとに便宜的に導入しているだけです。

等式的2-グラフ(一般にn-グラフ)は、各次元ごとの切り落とし部分構造〈truncated substructure〉を持ちます。

  • $`G_0`$ は、0-グラフ構造である。
  • $`G_1`$ は、1-グラフ構造である。
  • $`G_2`$ は、2-グラフ構造である。

切り落とし部分構造 $`G_k \:(k = 0, 1, 2)`$ は、次元が低いほうから順番に構成します。$`k`$-グラフ構造 $`G_k`$ と、$`k`$-グラフ構造の$`k`$-パスの集合〈set of $`k`$-paths〉$`G_k^*`$ を同時に定義しましょう(上付き星印はクリーネスターにちなみます)。

  • 次元が 0 のとき:
    • $`G_0 := |G|_0`$ であり、0-グラフ構造とは単なる集合のことである。
    • $`G_0^* := |G|_0`$ であり、0-グラフ構造〈集合〉の0-パスの集合とは0-セルの集合(集合 $`|G|_0`$ そのもの)のことである。
  • 次元が 1 のとき:
    • $`G_1 := (s, t :|G|_1 \to |G|_0)`$ であり、1-グラフ構造とは通常のグラフ〈有向グラフ〉のことである。$`s`$ は辺に始点を、$`t`$ は辺に終点を対応させる写像。
    • $`G_1^* := \mrm{Path}(G_1)`$ であり、1-グラフ構造〈通常のグラフ〉の1-パスの集合とは通常のパスの集合のことである。
    • $`s, t`$ は $`s, t:G_1^* \to G_0^*`$ に拡張できる。拡張した写像にも同じ名前 $`s, t`$ を使う。

$`G`$ の2-グラフ構造 $`G_2`$ は、次の写像達で定義されます。

$`\quad s, t : |G|_2 \to G_1^* \In {\bf Set}`$

写像の名前 $`s, t`$ は1次元の場合とオーバーロードしています。ここまでで、以下の写像達が揃いました。

$`\quad \xymatrix{
{|G|_2} \ar@<1ex>[r]^{s} \ar[r]_{t}
& {G_1^*} \ar@<1ex>[r]^{s} \ar[r]_{t}
& {G_0^*}
} \In {\bf Set}`$

これらの写像のあいだに次の球体恒等式〈the globular identities〉を要請します。

$`\quad s;s = t;s \; : |G|_2 \to |G|_0 = G_0^* \\
\quad t;t = s;t \; : |G|_2 \to |G|_0 = G_0^*
`$

0-セル $`x\in |G|_0`$ に対して、$`s(x) = t(x) = \bot`$ と定義して、$`G_{(-1)}^* := |G|_{(-1)}`$ と置くと、写像達の系列は(-1)次元まで伸びます。

$`\quad \xymatrix{
{|G|_2} \ar@<1ex>[r]^{s} \ar[r]_{t}
& {G_1^*} \ar@<1ex>[r]^{s} \ar[r]_{t}
& {G_0^*} \ar@<1ex>[r]^{s} \ar[r]_{t}
& {G_{(-1)}^*}
} \In {\bf Set}`$

この場合でも球体恒等式は成立しています。

以上に述べた写像達の系列(データ)と球体恒等式(等式的法則/公理)により2-グラフ〈2-graph〉が定義されます。等式的2-グラフは3-グラフの一種なので、次元の梯子〈dimensional ladder〉をもう一段昇る必要があります。

グラフの面写像と境界写像

前節では、写像の名前 '$`s`$', '$`t`$' をオーバーロードしました。区別するなら、次元でインデックスします。インデックスとして、写像の域側の次元を使うか/余域側の次元を使うかの2つの流儀があります。余域側の次元を使うのが多数派で、僕の過去記事でもそうしてました。が、ここでは域側の次元で写像をインデックスすることにします。

多数派が余域側次元を採用するのは、「k次元の面写像〈face map〉」という用語と合わせるためでしょう。域側次元でインデックスすると、k次元の面写像が $`s_{k + 1}, t_{k + 1}`$ となります。例えば:

$`\quad s_1, t_1 : |G|_1 \to |G|_0 \In {\bf Set}`$

これは0次元の面写像ですが、1次元からの面写像とも言えるので、たいした問題ではありません。

面写像の引数が、セルの場合とパスの場合がありますが、この二種は名前〈記号〉を区別せずにオーバーロードします。

$`\quad s_1, t_1 : |G|_1 \to |G|_0 \In {\bf Set}\\
\quad s_1, t_1 : G_1^* \to G_0^* \In {\bf Set}
`$

記述と計算を簡潔にするために、パスの整数係数一次結合からなる自由加群を導入します。(以下の $`{\bf Z}\text{-}{\bf Mod}`$ はアーベル群の圏 $`{\bf Ab}`$ と同じです。)

$`\quad C_0(G) := {\bf Z}({G_0^*})\; \in |{\bf Z}\text{-}{\bf Mod}|\\
\quad C_1(G) := {\bf Z}({G_1^*}) \; \in |{\bf Z}\text{-}{\bf Mod}|
`$

$`C_k(G)`$ を、$`G`$ の$`k`$-鎖の加群〈module of $`k`$-chains〉と呼びます。

次のような、規準的〈canonical〉な(集合の)埋め込み〈単射〉の系列があります。以下の $`\u{C_k(G)}`$ は、加群構造を忘却した台集合です。

$`\quad |G|_k \to G_k^* \to \u{C_k(G)} \In {\bf Set}`$

次のような、包含の系列とみなしてかまいません。

$`\quad |G|_k \subseteq G_k^* \subseteq \u{C_k(G)} \In {\bf Set}`$

面写像は、k-鎖の加群の$`{\bf Z}`$-線形写像にも拡張できます。この線形写像も名前をオーバーロードします。色々オーバーロードしますね。

  • $`s_1, t_1 : |G|_1 \to |G|_0 \In {\bf Set}`$ セルからセルへ(特殊ケース)
  • $`s_1, t_1 : |G|_1 \to G_0^* \In {\bf Set}p`$ セルからパスへ
  • $`s_1, t_1 : G_1^* \to G_0^* \In {\bf Set}`$ パスからパスへ
  • $`s_1, t_1 : |G|_1 \to \u{C_0(G)} \In {\bf Set}`$ セルから鎖へ
  • $`s_1, t_1 : G_1^* \to \u{C_0(G)} \In {\bf Set}`$ パスから鎖へ
  • $`s_1, t_1 : C_1(G) \to C_0(G) \In {\bf Z}\text{-}{\bf Mod}`$ 鎖から鎖へ

k次元からの境界写像〈boundary map〉は次のように定義します。

$`\quad \bdry_k := t_k - s_k \; : C_k(G) \to C_{k - 1}(G) \In {\bf Z}\text{-}{\bf Mod}`$

k-鎖の加群を導入した主たる理由は、この境界写像を合理化したいからです。加群のなかなら引き算が意味を持ちます。

k-セル $`x \in |G|_k`$ は規準的に〈canonically〉k-鎖 $`x\in C_k(G)`$ (正確には台集合の要素)とみなせるので、その境界 $`\bdry_k x`$ は(k - 1)-鎖として確定します。境界 $`\bdry_k x`$ を、$`x`$ の所在/居場所〈location〉の情報とみなして、(比喩的に)「$`x`$ は $`\bdry_k x`$ で仕切られた場所に居る」と考えます。この比喩から、$`\bdry_k x = \bdry_k y`$ のとき、$`x`$ と $`y`$ は同所在〈colocated〉、あるいは同居しているということにします*1。k = 1 のとき、$`x`$ と $`y`$ が同居していることは平行〈parallel〉と言います*2が、次元が上がると不適切だと思うので、「同所在/同居」を使います。

グラフの随伴系とモナド

n-グラフを定義するのが難しいのは、背後にけっこう大規模な構造があるからです。通常のグラフ〈1-グラフ〉で考えてみると、次のような圏/関手があります。

$`\quad \xymatrix@C+1pc@R+1pc{
{\bf Graph} \ar@(dl, ul)[0,0]^{\mathbb{Path}}
\ar@/^1pc/[r]^{\mathbb{Free}}
\ar@{}[r]|{\bot}
\ar[d]_{\mathbb{GTrunc}}
& {\bf Cat} \ar@/^1pc/[l]^{\mathbb{U}}
\ar[d]^{\mathbb{CTrunc}}
\\
{\bf Set} \ar@{=}[r]
& {\bf Set}
}`$

ここで:

  • $`\mathbb{Free}`$ は、グラフから自由圏を生成する自由関手。
  • $`\mathbb{U}`$ は、圏にその台グラフ〈underlying graph〉を対応させる忘却関手。
  • $`\mathbb{Free}`$ と $`\mathbb{U}`$ は関手の随伴ペア(自由-忘却・随伴ペア)になっている。
  • $`\mathbb{Path}`$ は、$`\mathbb{Free}`$ と $`\mathbb{U}`$ の随伴ペアから生成されるモナド(の台関手)。グラフに、パスを辺とするグラフを対応させる。
  • $`\mathbb{GTrunc}`$ は、グラフの辺を捨てて、頂点集合を対応させる関手。グラフの切り落とし関手〈graph truncation functor〉
  • $`\mathbb{CTrunc}`$ は、圏の射を捨てて、対象集合を対応させる関手。圏の切り落とし関手〈category truncation functor〉

上記の圏/関手の図式が描かれる場所〈標的環境〉が $`{\bf CAT}`$ だとすると、少し手直しが必要です。$`{\bf Cat}`$ は2-圏なので、1-圏へと切り落とし〈truncation〉が必要です。次のように置きましょう。

$`\quad {_1 {\bf 1Cat}} := \dimU{\bf Cat} \; \in |{\bf CAT}|`$

ここで、$`\dimU{\bf Cat}{1}`$ は 2-圏 $`{\bf Cat}`$ の2-射を捨てて作った1-圏です(「圏の次元調整」を参照)。

他も調整して、先の図式を次のように描き換えます。

$`\quad \xymatrix@C+1pc@R+1pc{
{\bf 1Graph} \ar@(dl, ul)[0,0]^{\mathbb{Path}_1}
\ar@/^1pc/[r]^{\mathbb{Free}_1}
\ar@{}[r]|{\bot}
\ar[d]_{\mathbb{GTrunc}_1}
& {_1{\bf 1Cat}} \ar@/^1pc/[l]^{\mathbb{U}_1}
\ar[d]^{\mathbb{CTrunc}_1}
\\
{\bf 0Graph} \ar@(dl, ul)[0,0]^{\mathbb{Path}_0}
\ar@/^1pc/[r]^{\mathbb{Free}_0}
\ar@{}[r]|{\bot}
& {_1{\bf 0Cat}} \ar@/^1pc/[l]^{\mathbb{U}_0}
}\\
\quad \In {\bf CAT}
`$

下段は、$`{\bf 0Graph} = {_1{\bf 0Cat}} = {\bf Set}`$ で、関手はすべて恒等関手で、随伴ペアも自明な随伴ペアです。下段は形を揃えるためのダミーです。

この形にすると、もう一段上に積み上げることが自然に思えます。

$`\quad \xymatrix@C+1pc@R+1pc{
{\bf 2Graph} \ar@(dl, ul)[0,0]^{\mathbb{Path}_2}
\ar@/^1pc/[r]^{\mathbb{Free}_2}
\ar@{}[r]|{\bot}
\ar[d]_{\mathbb{GTrunc}_2}
& {_1{\bf s2Cat}} \ar@/^1pc/[l]^{\mathbb{U}_2}
\ar[d]^{\mathbb{CTrunc}_2}
\\
{\bf 1Graph} \ar@(dl, ul)[0,0]^{\mathbb{Path}_1}
\ar@/^1pc/[r]^{\mathbb{Free}_1}
\ar@{}[r]|{\bot}
\ar[d]_{\mathbb{GTrunc}_1}
& {_1{\bf 1Cat}} \ar@/^1pc/[l]^{\mathbb{U}_1}
\ar[d]^{\mathbb{CTrunc}_1}
\\
{\bf 0Graph} \ar@(dl, ul)[0,0]^{\mathbb{Path}_0}
\ar@/^1pc/[r]^{\mathbb{Free}_0}
\ar@{}[r]|{\bot}
& {_1{\bf 0Cat}} \ar@/^1pc/[l]^{\mathbb{U}_0}
}\\
\quad \In {\bf CAT}
`$

ここで、$`{\bf s2Cat}`$ は、一般的な(弱い)2-圏達の3-圏ではなくて、厳密2-圏〈strict 2-category〉達の3-圏です。1-圏への切り落としをしているので、$`{_1 {\bf s2Cat}}`$ は厳密2-圏を対象として関手を射とする1-圏です。厳密性の制約を付けたり、切り落としをすることにより、マイクロコスモ原理(「依存アクテゴリーに向けて // スノーグローブ現象/マイクロコスモ原理」「マイクロコスモ原理と逆帰納ステップ」参照)による標的環境の高次元化を防いでいます。

前々節で2-グラフは定義しているのですが、等式的2-グラフ(3-グラフの特殊なモノ)を定義するには、2-パスの集合 $`G_2^*`$ が必要になります。2-パスの集合は、次の公式で与えられます。

$`\quad G_2^* := |\mathbb{Path}_2(G_2)|_2 = |\mathbb{U}_2( \mathbb{Free}_2(G_2))|_2`$

つまり、等式的2-グラフを含む3-グラフの定義には、2-グラフに関する自由-忘却・随伴系の構成が必要になります。この部分の組み合わせ幾何的議論が面倒なので、最初の節で述べたように「作り方の詳細には踏み込まない」ことにして、2-グラフ構造 $`G_2`$ があるとき、2-パスの集合 $`G_2^*`$ がうまいこと作れることを天下りに仮定します。

等式的2-グラフ

$`G`$ が2-グラフのとき、2次元の切り落とし部分構造 $`G_2`$ は自分自身です。

$`\text{When } G\in |{\bf 2Graph}|\\
\quad G_2 = G`$

$`G`$ が3-グラフのときは、2次元の切り落とし部分構造 $`G_2`$ の上にさらに構造が上乗せされます。

$`\quad s_3, t_3 : |G|_3 \to G_2^* \In {\bf Set}`$

面写像達の系列は次のようになります。

$`\quad \xymatrix{
{|G|_3} \ar@<1ex>[r]^{s_3} \ar[r]_{t_3}
& {G_2^*} \ar@<1ex>[r]^{s_2} \ar[r]_{t_2}
& {G_1^*} \ar@<1ex>[r]^{s_1} \ar[r]_{t_1}
& {G_0^*} \ar@<1ex>[r]^{s_0} \ar[r]_{t0}
& {G_{(-1)}^*}
} \In {\bf Set}`$

もちろん、球体恒等式は仮定します。

境界写像は、(色々な形がありますが)次の形で使います。

$`\quad \xymatrix{
{|G|_3} \ar[r]^{\bdry_3}
& \u{C_2(G)}\ar[r]^{\bdry_2}
& \u{C_1(G)}\ar[r]^{\bdry_1}
& \u{C_0(G)}\ar[r]^{\bdry_0}
& \u{C_{(-1)}(G)}
}\In {\bf Set}`$

等式的2-グラフでは、3-セル $`x, y\in |G|_3`$ に対して、次の条件を要求します。

$`\quad \bdry_3 x = \bdry_3 y \Imp x = y`$

境界を居場所と考える比喩で言えば、「同じ場所には一人しか居ない」ことになります。$`|G|_3`$ 上の写像としての $`\bdry_3`$ は単射になるので、3-セルの集合 $`|G|_3`$ は $`\u{C_2(G)}`$ 内に埋め込めることになります。球体恒等式があるので、$`\bdry_3`$ の像は2-パスのペアの形に書けることが分かります(詳細省略)。

実例: モナドの指標

ローマン体(通常テキストのフォント)の文字は、一般名/変数名ではなくて、リテラルだとします。「リテラルだ」とは、文字に意味がなく、文字自体を集合の要素とみなす、ということです*3。ここの例で使用するリテラル文字は:

$`\quad \T{c}, \T{f}, \T{m}, \T{e}, \T{a}, \T{l}, \T{r}`$

等式的2-グラフ $`M`$ (固有名だが特に太字にはしない)のセル集合は次のとおりです。

$`\quad |M|_0 := \{\T{c}\}\\
\quad |M|_1 := \{\T{f} \}\\
\quad |M|_2 := \{\T{m}, \T{e}\}\\
\quad |M|_3 := \{\T{a}, \T{l}, \T{r}\}
`$

面写像は以下のように定義します。$`*, ;`$ は、圏の2つの演算に対応するパスの(2種類の)連接演算です。$`\hat{\hyp}`$ は空なパス(恒等射に対応)を示します。

$`\quad s_1, t_1 : |M|_1 \to M_0^* = |M|_0 \text{ where }|M|_1 = \{\T{f}\}\\
\qquad s_1(\T{f}) := \T{c}\\
\qquad t_1(\T{f}) := \T{c}\\
\quad s_2, t_2 : |M|_2 \to M_1^* \text{ where }|M|_2 = \{\T{m}, \T{e}\}\\
\qquad s_2(\T{m}) := \T{f}*\T{f}\\
\qquad t_2(\T{m}) := \T{f}\\
\qquad s_2(\T{e}) := \hat{\T{c}}\\
\qquad t_2(\T{e}) := \T{f}\\
\quad s_3, t_3 : |M|_3 \to M_2^* \text{ where }|M|_3 = \{\T{a}, \T{l}, \T{r}\}\\
\qquad s_3(\T{a}) := (\T{m} * \hat{\T{f}}) ;\T{m}\\
\qquad t_3(\T{a}) := (\hat{\T{f}} * \T{m}) ;\T{m}\\
\qquad s_3(\T{l}) := (\T{e} * \hat{\T{f}}) ;\T{m}\\
\qquad t_3(\T{l}) := \hat{\T{f}}\\
\qquad s_3(\T{r}) := (\hat{\T{f}} * \T{e}) ;\T{m}\\
\qquad t_3(\T{r}) := \hat{\T{f}}
`$

この等式的2-グラフの定義を、「構造記述のための指標と名前 1/n 基本」で述べたフォーマット〈テキスト構文〉で書けば以下のようです。ただし、色は新規名の初出だけに付けています。

$`\T{signature }M \:\{\\
\quad \NN{c}\\
\quad \NN{f} : \T{c} \to \T{c}\\
\quad \NN{m} :: \T{f} * \T{f} \twoto \T{f}\\
\quad \NN{e} :: \mrm{Id}_{\T{c}} \twoto \T{f}\\
\quad \NN{a} ::: (\T{m} * \mrm{ID}_{\T{f}}) ;\T{m} \Rrightarrow (\mrm{ID}_{\T{f}} * \T{m}) ;\T{m} \\
\quad \NN{l} ::: (\T{e} * \mrm{ID}_{\T{f}}) ;\T{m} \Rrightarrow \mrm{ID}_{\T{f}}\\
\quad \NN{r} ::: (\mrm{ID}_{\T{f}} * \T{e}) ;\T{m} \Rrightarrow \mrm{ID}_{\T{f}}\\
\}
`$

構造記述のための指標と名前 1/n 基本 // 図式による法則の記述」で述べたペースティング図により $`\T{a}, \T{l}, \T{r}`$ を描くと次のようになります。四角形が3-セル〈等式〉で、四角形の境界である四辺形は2-パス(2-セルの繋がり)です。2-パスの境界である1-パスはテキストで表現しています。

$`\quad \xymatrix{
{\T{f}*\T{f}*\T{f}} \ar@{=>}[r]^-{\mrm{ID}_{\T{f}} * \T{m}} \ar@{=>}[d]_{\T{m} * \mrm{ID}_{\T{f}} }
\ar@{}[dr]|{\underset{\nearrow}{=}\, \T{a} }
& {\T{f}*\T{f}} \ar@{=>}[d]^{\T{m}}
\\
{\T{f}*\T{f}} \ar@{=>}[r]_{\T{m}}
&{\T{f}}
}
`$

$`\quad \xymatrix{
{\mrm{Id}_\T{c} * \T{f}} \ar@{=>}[r]^-{=} \ar@{=>}[d]_{\T{e} * \mrm{ID}_{\T{f}} }
\ar@{}[dr]|{ \underset{\nearrow}{=}\,\T{l}}
& \T{f} \ar@{=>}[d]^{=}
\\
{\T{f} * \T{f}} \ar@{=>}[r]_{\T{m}}
&{\T{f}}
}
`$

$`\quad \xymatrix{
{\T{f} * \mrm{Id}_\T{c}} \ar@{=>}[r]^-{=} \ar@{=>}[d]_{\mrm{ID}_{\T{f}} * \T{e}}
\ar@{}[dr]|{ \underset{\nearrow}{=}\,\T{r}}
& \T{f} \ar@{=>}[d]^{=}
\\
{\T{f} * \T{f}} \ar@{=>}[r]_{\T{m}}
&{\T{f}}
}
`$

ラベル〈名前〉がすべてラテン文字小文字なので雰囲気が出ませんが、今述べた等式的2-グラフ(具象的指標)はモナドの指標です。

セルのプロファイルグラフ

k次元のセル $`x\in |G|_k`$ に対して、そのセルがどのような面達〈faces〉を持つかを系統的に記述しましょう。$`x`$ の面は、次の形に書けます。

$`\quad {_j x^{(i)}_\alpha} \in G_j^* \:\text{ where }0\le j \lt k`$

ここで:

  • 自然数 $`i`$ は、もとのセル $`x`$ に何回面写像を適用したか。
  • 自然数 $`j`$ は、得られた面の次元。
  • $`\alpha`$ は、'$`-`$' または '$`+`$'。'$`-`$' はソース側であることを示し、'$`+`$' ならターゲット側であることを示す。

まず、次の記法を導入します。

$`\quad x_{-} := s(x)\\
\quad x_{+} := t(x)
`$

例えば:

$`\quad x_{-++} = t(t(s(x)))\\
\quad x_{+-+} = t(s(t(x)))\\
\quad x_{++-} = s(t(t(x)))
`$

球体恒等式から次が言えます。

$`\quad x_{-++} = x_{+++}\\
\quad x_{+-+} = x_{+++}\\
\quad x_{++-} = x_{---}
`$

さらに次のように書きます。

$`\quad x^{(3)}_{+} = x_{+++}\\
\quad x^{(3)}_{-} = x_{---}
`$

左肩に乗る自然数は、面写像($`s`$ または $`t`$)の適用回数になります。左下付きで、面の次元を注釈します。面写像の適用回数と得られた面の次元を足すと $`k`$ になります。

$`x\in |G|_2`$ ならば、$`x`$ から作られる面は次のようになります。

  1. $`x = {_2 x} = {_2 x^{(0)}} \;\in |G|_2`$
  2. $`{_1 x^{(1)}_-} \;\in G_1^*`$
  3. $`{_1 x^{(1)}_+} \;\in G_1^*`$
  4. $`{_0 x^{(2)}_-} \;\in G_0^* = |G|_0`$
  5. $`{_0 x^{(2)}_+} \;\in G_0^* = |G|_0`$
  6. $`\bot = {_{(-1)} \bot} = {_{(-1)} x^{(3)}_\pm} \;\in |G|_{(-1)}`$

すべての面のあいだの関係を図示したグラフは次のようになります。

$`\quad \xymatrix{
{}
& {_2 x} \ar@{|->}[dl]_s \ar@{|->}[dr]^t
& {}
\\
{_1 x^{(1)}_-} \ar@{|->}[d]_s \ar@{|->}[drr]^>>t
& {}
& {_1 x^{(1)}_+} \ar@{|->}[dll]_>>s \ar@{|->}[d]^t
\\
{_0 x^{(2)}_-} \ar@{|->}[dr]_{s, t}
& {}
& {_0 x^{(2)}_+} \ar@{|->}[dl]^{s, t}
\\
{}
& {_{(-1)} \bot}
& {}
}
`$

このグラフをセルのプロファイルグラフ〈profile graph〉と呼ぶことにします。

プロファイルグラフのテキスト表示は次のようにします。

$`\quad {_2 x} :: {_1 x^{(1)}_-}\twoto {_1 x^{(1)}_+} :
{_0 x^{(2)}_-} \to {_0 x^{(2)}_+}
`$

$`x\in |G|_3`$ ならば、プロファイルグラフは以下のようです。

$`\quad \xymatrix{
{}
& {_3 x} \ar@{|->}[dl]_s \ar@{|->}[dr]^t
& {}
\\
{_2 x^{(1)}_-} \ar@{|->}[d]_s \ar@{|->}[drr]^>>t
& {}
& {_2 x^{(1)}_+} \ar@{|->}[dll]_>>s \ar@{|->}[d]^t
\\
{_1 x^{(2)}_-} \ar@{|->}[d]_s \ar@{|->}[drr]^>>t
& {}
& {_1 x^{(2)}_+} \ar@{|->}[dll]_>>s \ar@{|->}[d]^t
\\
{_0 x^{(3)}_-} \ar@{|->}[dr]_{s, t}
& {}
& {_0 x^{(3)}_+} \ar@{|->}[dl]^{s, t}
\\
{}
& {_{(-1)} \bot}
& {}
}
`$

テキスト表示は:

$`\quad {_3 x} ::: {_2 x^{(1)}_-}\Rrightarrow {_2 x^{(1)}_+} ::
{_1 x^{(2)}_-}\twoto {_1 x^{(2)}_+} :
{_0 x^{(3)}_-} \to {_0 x^{(3)}_+}
`$

前節のモノイドの例で、このようなテキスト表示は既に使いました。

具象指標はセルの宣言の集まりであり、ひとつのセルはプロファイルグラフで宣言・記述できます。したがって、具象指標とはプロファイルグラフの集合です。それをテキスト表示したり、ペースティング図で描いたり、ストリング図(サーフェイス図含む)で描いたり、あるいはハイブリッドにしたりと様々な表現手段で記述するわけです。

おわりに

この記事ではサイズの問題〈size issue〉には触れませんでしたが、$`{\bf Set}, {\bf Cat}, {\bf CAT}`$ などのサイズ(宇宙レベル)を上げても、ほとんどの話は通用します。とはいえ、サイズによってうまくいかないことも出てきますから、完全に大丈夫とも言えません。

「グラフの随伴系とモナド」の節で、$`{_1{\bf 1Cat}}, {_1{\bf s2Cat}}`$ などを使って2-射以上を捨てました。これで話が単純化されますが、この設定ではスード〈pseudo〉な代数系などは扱えません。弱さ/緩さ〈ゆるさ〉をどこで定式化するか/吸収するか? は幾つかの選択肢があり、実際にやってみないと「どうするのが良いか」の判断は出来ません。

この記事で述べたように、具象指標はn-グラフだと考えると、指標とは組み合わせ幾何的対象物です。絵図的手法〈{pictorial | graphical | diagrammatic} approach〉(「スケマティック系のハブ記事」参照)とは、「視覚化可能な組み合わせ構造〈visualizable combinatorial structure〉を使って代数系や現実のシステムを記述・計算する方法・技術」なので、n-グラフは絵図的手法の道具になるでしょう。

n-グラフとn-圏は、相互に自由-忘却・随伴系で関連付けられています。n-グラフによりn-圏内の構造を記述できますが、n-グラフの定義にn-圏が必要になるという、(ある意味いつもの)マイクロコスモ原理状況が生じます。組み合わせ的議論の分量にも圧倒されます。‥‥と、困難はあるのですが、明らかに必要なので対処法を探さないと。

*1:$`\bdry_k x`$ は $`x`$ が居る部屋、パーティション〈区画〉、セグメント〈区域〉などに比喩されます。

*2:以前、"parallel" に「共端」という翻訳語を当てていましたが、次元が上がるとやはりピンときません。

*3:文字ではなくて、自然数の番号を使ってもかまいません。が、番号ではさすがに味気無さすぎると思い、ラテン文字小文字にしました。