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参照用 記事

モノイド圏の「装備〈supply〉」って言葉の使い方

サプライ〈supply〉は、フォングとスピヴァックにより定義された、対称モノイド圏に対する付加的構造のことです。

  • [FS19-20]
  • Title: Supplying bells and whistles in symmetric monoidal categories
  • Authors: Brendan Fong, David I Spivak
  • Submitted: 7 Aug 2019 (v1), 5 May 2020 (v2)
  • Pages: 17p
  • URL: https://arxiv.org/abs/1908.02633

2023年からnLab項目もあるようです。

2020年の記事「マルコフ圏の一族」で、サプライは「装備」と呼ぶことにしています。

フォング/スピヴァックは、モダリティではなくて "supply" という新しい言葉を使っています。「供給」はピンとこないので、「装備」と呼ぶことにします。プロアロー装備〈proarrow equippment | 2-category equipped with proarrows〉を単に装備〈equippment〉と呼ぶと衝突しますが、まーいいとしましょう。

適当な代数系(例えば余可換コモノイド)の装備〈supply〉を持ったモノイド圏を装備圏〈supplied category〉と呼びましょう。余可換コモノイド装備圏は、準マルコフ圏に他なりません。装備は自然変換とは限りませんが、余可換コモノイド装備が自然変換で与えられる装備圏がデカルト圏〈デカルト・モノイド圏〉です。

ダガー・ハイパーグラフ圏とドット付きワイヤリング図」には、「サプライ」「装備」という言葉は出てきてないのですが、ダガー・ハイパーグラフ圏は、特殊可換フロベニウス代数という代数構造を装備した圏です。装備圏の典型的事例です。

さて、「サプライ/装備」は言葉として(概念としてではない)使いにくいので、ちょっと補足しておきます。$`\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}
\newcommand{\mbf}[1]{\mathbf{#1}}
\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1}}
%\newcommand{\mbb}[1]{\mathbb{#1}}
\newcommand{\In}{\text{ in }}
\newcommand{\H}{\text{-}}
`$

$`\cat{C}`$ を対称モノイド圏とします。$`P`$ は代数構造の型〈a type of algebraic structure〉です。“型”と言われても「なんじゃそれ?」なんですが、“型”の実体は単ソート・プロプ〈single-sorted prop〉$`P`$ で与えられます。

英語の動詞 supply は次のように使います。

  • $`\cat{C}`$ supplies $`P`$.

一方、名詞 supply は次の形で使います。

  • a supply of $`P`$ in $`\cat{C}`$

問題は、代数構造 $`P`$ (目的語)をサプライする(動詞)圏 $`\cat{C}`$ (主語)を何と呼ぶか? 圏 $`\cat{C}`$ はサプライされる側ではないので、「マルコフ圏の一族」に書いている $`P`$-supplied category は変ですね。$`P`$-supplying category なのでしょう。しかし、$`P`$-supplying category って言い方も見たことないです(たまたまかも知れませんが)。

a supply of $`P`$ in $`\cat{C}`$ を $`S`$ と置くと、サプライ〈名詞〉$`S`$ の実体は次のような関数です。

$`\quad S:|\cat{C}| \to |P\H\mrm{Alg}(\cat{C})| \In \mbf{SET}`$

ここで、$`P\H\mrm{Alg}(\cat{C})`$ は対称モノイド圏 $`\cat{C}`$ のなかで定義される $`P`$-代数(内部$`P`$-代数対象)達の圏です。

日本語の「装備」は、品詞とか能動・受動とか気にしないで杜撰に使っても変な感じにはならないです。

  • 圏 $`\cat{C}`$ は、代数構造 $`P`$ を装備している。
  • 圏 $`\cat{C}`$ は、$`P`$-装備圏である。
  • $`S`$ は、圏 $`\cat{C}`$ 上の$`P`$-装備である。
  • 圏 $`\cat{C}`$ は、$`S`$ により代数構造 $`P`$ を装備する。

ダガー・ハイパーグラフ圏は特殊可換フロベニウス代数-装備圏で、マルコフ圏は余可換コモノイド-装備圏に追加の条件を付けたものです。対称モノイド圏も、素のモノイド圏〈plain monoidal category〉に、対称性というある種の代数構造を装備した対称性-装備圏〈symmetry-supplying category〉と考えることができます。

あらためて$`P`$-装備圏を話題にしたのは、装備する代数構造 $`P`$ だけを取り出して構文的に定義できないかなー? と考えてみたからです。