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参照用 記事

スケマティック系の振り返りと整理

スケマティック系(最初の名前はスケマティック圏)を考え始めたのは2023年夏です。2024年はスケマティック系について考える機会はそれ程ありませんでした。スケマティック系に関する過去記事は、以下のハブ記事からリンクがあります。

最近になってまたスケマティック系を考え直しています。当初とはアプローチが少し変わっています。そのへんのことについて書きます。$`\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}
\newcommand{\mbf}[1]{\mathbf{#1}}
\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1}}
\newcommand{\msc}[1]{\mathscr{#1}}
\newcommand{\msf}[1]{\mathsf{#1}}
%\newcommand{\mbb}[1]{\mathbb{#1}}
\newcommand{\In}{\text{ in }}
\newcommand{\msc}[1]{\mathscr{#1}}
%\newcommand{\mbb}[1]{\mathbb{#1}}
\newcommand{\In}{\text{ in }}
%\newcommand{\twoto}{\Rightarrow }
%\newcommand{\op}{\mathrm{op} }
%\newcommand{\id}{\mathrm{id}}
%\newcommand{\u}[1]{\underline{#1}}
%\newcommand{\o}[1]{\overline{#1}}
%\newcommand{\T}[1]{\text{#1}}
\newcommand{\hyp}{ \text{-} }
%\newcommand{\Iff}{ \Leftrightarrow }
%\newcommand{\Imp}{ \Rightarrow }
\newcommand{\proto}{\not\to}
\newcommand{\pcomp}{\diamond}
`$

内容:

スケマティック系の階層構造

2023年夏の段階での発想と手法を第一案(2023バージョン)、最近の発想と手法を第ニ案(2025バージョン)とします。第一案では三階層による構造を考えていました。

  1. 下部構造: 有限集合の圏、有限コレクションの圏
  2. 中間構造: 半グラフの亜群、修飾付き半グラフの亜群
  3. 上部構造: ワイヤリング複圏

スケマティック系 $`\msc{S}`$ に対する圏 $`\cat{C}^\msc{S}`$ は下部構造の圏を指していました。当初は、下部構造である有限コレクションの圏に、スケマティック系の特徴をエンコード(刷り込み)しようと思っていたのですが、無理があるようです。下部構造を精密に作ることは有効ではないようです。

第二案(最近の案)では、二階層の構造にしています。下部構造と中間構造の分離が意味ないと判断しました。

  1. 下部構造: 半グラフの亜群、修飾付き半グラフの亜群、半グラフ・コンビネータ
  2. 上部構造: ワイヤリング複圏

第一案の下部構造と中間構造を一緒にして第二案の下部構造になった、と言っていいでしょう。下部構造である(修飾が付くかも知れない)半グラフ亜群と半グラフ・コンビネータはひとつの圏で表現できます。その圏が現在の(第二案の)基礎圏で $`\cat{GC}^\msc{S}`$ と書くことにしました(「圏達の圏のなかのスパン達の二重圏(動機も) // スケマティック系の経緯」参照)。

用語の変更

ボリソフ/マニン半グラフの圏: ハマったところ // 射、変換写像、コンビネータ」で述べたように、今現在、次のような状況にあります。

  • 半グラフ達の関手圏の射と区別するために、半グラフ変形〈semi-graph deformation〉という言葉を使っている。
  • ボリソフ/マニンは、(檜山の)「半グラフ変形」を「グラフ射」と呼び、deformation を別な意味で使っている。
  • バーガー/カウフマンは、(檜山の)「半グラフ変形」を「グラフ射」と呼び、mutation を別な意味で使っている。

「変形〈deformation | mutation〉」を使うのは具合が悪そうです。かと言って、「グラフ射」で混乱をまねくのも嫌です。そこで、「半グラフ変形 → 半グラフ書き換え〈semi-graph rewrite〉」にリネームします。用語法は次のようになります。

  • 半グラフ書き換え: 今までの半グラフ変形、圏 $`\mbf{BM}`$ の射
  • 半グラフ変換写像: 関手圏 $`\mbf{CAT}(\mbf{semigraph}, \mbf{Set})`$ の射(実体は自然変換)
  • 半グラフ・コンビネータ: 半グラフと、場合によりその他の引数を受け取って、半グラフを返す関数。

ボリソフ/マニン半グラフを対象として、半グラフ書き換えを射とする圏が $`\mbf{BM}`$ です。$`\mbf{BM}`$ は、標準スケマティック系〈canonical schematic system〉の基礎圏〈ground category〉となります。$`\mbf{BM}`$ から、いかにしてワイヤリング複圏を構成するかが、標準スケマティック系の議論の中心です。

「半グラフ書き換え」と呼ぶと、項書き換え系〈term rewriting system | TRS〉を連想します。これは好ましい連想です。圏 $`\mbf{BM}`$ は、$`|\mbf{BM}|`$ の要素(ボリソフ/マニン半グラフ)を“項”と考えた項書き換え系とみなせるからです。$`\mbf{BM}`$ を項書き換え系として扱うことは、圏 $`\mbf{BM}`$ を新しい側面から見ることになり、面白い項書き換え系の事例(スケマティック項書き換え系〈schematic term rewriting system〉)*1を提供します。

亜群上の代入計算

半グラフ変換写像を射とする圏と、半グラフ書き換えを射とする圏($`\mbf{BM}`$ のこと)は、対象集合とコア亜群〈core groupoid〉を共有します(ボリソフ/マニン半グラフの圏: ハマったところ // 準備」参照)。

$`\quad \mbf{SemiGraphG} := \mrm{Core}(\mbf{SemiGraphC})\\
\quad \mbf{BMG} := \mrm{Core}(\mbf{BM})\\
\quad \mbf{SemiGraphG} = \mbf{BMG}
`$

亜群 $`\mbf{BMG}`$ は、ワイヤリング複圏のなかでも生き残ります。どういうことかと言うと; ワイヤリング複圏から結合(オペラッド結合)や恒等を捨てる〈忘れる〉と複グラフになりますが、この複グラフが単なる複グラフではなくて亜群構造を持っています。亜群上の複グラフについては、以下の過去記事を参照してください。

亜群の射は置換〈permutation〉がベースになっています。ところで、ワイヤリング複圏の結合(オペラッド結合)はワイヤリング図の置換〈substitution〉です。アレレ、用語のコンフリクト〈かち合い〉が生じてしまった。

ワイヤリング図/半グラフに対する substitution は代入にします。ワイヤリング複圏は、スケマティック代入計算〈schematic substitution calculus〉のモデルになります。

スケマティック系を構文的に解釈すれば、亜群上の項書き換え系と亜群上の代入計算となります。これは、スケマティック系には構文パートと(構文に対する)モデルパートがあることになります。

構文パート モデルパート
亜群上の項書き換え系 基礎圏(亜群とコンビネータ達)
亜群上の代入計算 ワイヤリング基礎圏

ここでモデルは、構文論内のモデル(構文的モデル)のことで意味論はまた別にあります。構文論内の意味論(構文論的意味論)については「型理論周辺、何で混乱するのか? // 構文論的意味論と意味論的意味論」を参照してください。

おわりに

最近の再考によって、スケマティック系はだいぶハッキリしてきました。亜群がいたるところに潜伏していることが分かりました。亜群の影響もちゃんと定式化するには、けっこうな大道具が必要です(「圏達の圏のなかのスパン達の二重圏(動機も)」参照)。

スケマティック系におけるリントンの定理(「リントンの定理」参照)が成立するメカニズムもだいたい見えてきました。リントンの定理が自動的に成立するようにスケマティック系の定義を整備することは可能でしょう。

もともとは、テンソル計算/テンソルネットワークの記述(「テンソルの可視化のための半グラフ 」参照)やシステムの記述(「半グラフからシステムの記述へ」参照)が目的だったのですが、リントンの定理が自動的に成立するなら、記述の体系としてたいへん都合がいいことになります。

リントンの定理はハッキリと確認したいな。

*1:絵図が相手なら、「書き換え」より「描き換え」だろうという話もありますが、絵図であっても「書き換え〈rewrite〉」とします。