3日前に書いた記事「ビッグサイト微分幾何と自然変換の上付き添字」で「ビッグサイト」という言葉を使ったのですが、この言葉の典拠はnLab項目です。
nLabには、他にラージサイト、スモールサイト、リトルサイトの項目もあります。
- https://ncatlab.org/nlab/show/large+site
- https://ncatlab.org/nlab/show/small+site
- https://ncatlab.org/nlab/show/little+site
しかし、形容詞ラージ/スモール/ビッグ/リトルは、すべてが大きさを分類しているわけではありません。ラージ/スモールは圏のサイズの分類なので、サイトに対してもその意味を変えずに使っています。ビッグ/リトルは、サイズとは全然別な話で、圏の対象Xを特定したときの“Xのサイト”の作り方の違いです。
これらの概念の違いをハッキリさせるために、単なるサイトとインデックス付きサイトを区別して説明します。
内容:
サイト
サイト〈site〉とは、被覆系を備えた圏のことです。圏C上の被覆系〈coverage〉についての詳細はnLabを見てください。だいたいの雰囲気はここで説明します。
適当な添字集合 I に対する、Cの射のインデックス族 {fi:Ui→U | i∈I} を考えます。これは、Uを余ボディ〈cobody〉とする多重余スパン〈multi-cospan | 複余スパン〉です。あるいは、離散圏とみた I からの関手 i Ui を余底面とする余錐です。Uは余錐の余頂点です。
無闇といっぱいある上記のごときインデックス族のなかで、被覆〈covering {family}? | cover〉と呼ばれるインデックス族が特定されているとします。被覆に対しては、Uを(共通の)ターゲット〈target〉と呼ぶようです -- 余ボディ、余頂点、台対象とかでも良さそうですけど。各 Ui→ U in C は被覆の成分〈component〉と呼びましょう。行列の成分、自然変換の成分と同じ用法です。
Cの対象Xに対して、Xをターゲットとする被覆の全体を Cov(X) とします。Cの対象に対する割り当て X Cov(X) が満たすべき性質(公理)は、nLab項目を見てください。Cが引き戻し〈pullback〉で閉じていれば簡単な記述になります。が、多様体の圏Manは引き戻しで閉じてません。
被覆系はグロタンディーク位相の一般化です。ただし、単なる圏/単なる被覆系だと一般的過ぎるので、圏と被覆系に条件を付けて使うことが多いです。
サイトSを次のように書きます。
- S = (CS, CovS)
CSは圏で、CovSはその上の被覆系です。
例によって記号の乱用で、
- C = (C, Cov)
とも書きます。
(C, Cov), (D, Cov) が2つのサイトとして、関手 F:C→D が被覆系に対して整合性〈協調性〉を持つなら、サイトの準同型、あるいはサイト射〈site morphism〉になります。そして、サイトとサイト射からなる圏Siteを形成します*1。
C = (C, Cov) がサイトのとき、反変関手 F:Cop→D が層である条件を記述できます。別な言い方をすると、サイトとは層の定義域〈始圏〉となれる圏です。
インデックス付きサイト
インデックス付きサイトの定義の前に、まずは典型例を挙げます。Topを位相空間の圏とします。X∈|Top| に対して、Open(X) をXの開集合の集合とします。部分集合の包含関係を射とみなして Open(X) は圏になります。f:U→V in Open(X) とは、U⊆V のことです。Open(X) の射の族 {fi:Ui→U | i∈} が被覆だとは、普通の意味で被覆になっていることだとします。以上の定義で、各Xごとに Open(X) はサイトになります。
φ:X→Y in Top が連続写像だとすると、φから、Open(Y)→Open(X) という逆向きの写像が誘導されます。この写像を Open(φ) または(略記として) φ* と書きます。φ* は圏としての構造も被覆系の構造も保存する(被覆を被覆に送る)ので、サイト射になります。
一般に、圏Cからサイトの圏Siteへの反変関手 S:C→Site をインデックス付きサイト〈indexed site〉と呼びます。Open:Top→Site はインデックス付きサイトの例です。
Topへの忘却関手Uを持つ圏Cでは、UとOpenを結合してインデックス付きサイトを構成できます。例えば、U:Man→Top を忘却関手として、M Open(U(M)) はMan上のインデックス付きサイトになります。
C上のインデックス付きサイト S = S[-] (別に意味はないが、習慣に従い角括弧)があるとき、|C| でインデックス付けられたD値の層の族 FX:S[X]op→D をインデックス付きD-層〈indexed D-sheaf〉と呼びます。インデックス付きD-層に、これ以上の条件はありません。
サイズ
サイト S = (C, Cov) があるとき、台の圏Cのサイズによって、サイトのサイズも分類します。
- Cが小さい〈{スモール | small}である〉とき、サイトSは小さい。
- Cが大きい〈{ラージ | large}である〉とき、サイトSは大きい。
- Cがやせている〈{シン | thin}である〉とき、サイトSはやせている。
- Cが太っている〈{ファット | fat}である〉とき、サイトSは太っている。
「太っている」は「やせている」の否定なので、少なくともひとつのホムセットは二元以上を持ちます。
インデックス付きサイト S:C→Site に関しては:
- すべてのS[X]が小さいとき、インデックス付きサイトS[-]は小さい。
- 少なくともひとつのS[X]が大きいとき、インデックス付きサイトS[-]は大きい〈小さくはない〉。
- すべてのS[X]がやせているとき、インデックス付きサイトS[-]はやせている。
- 少なくともひとつのS[X]が太っているとき、インデックス付きサイトS[-]は太っている〈やせてはいない〉。
層に関するサイズ形容詞は、層の定義域〈始圏〉のサイズをそのまま使います。サイトC上の層 F:Cop→D に関して:
- Cが小さいとき、層Fは小さい
- Cが大きいとき、層Fは大きい
- Cがやせているとき、層Fはやせている。
- Cが太っているとき、層Fは太っている。
インデックス付き層 FX:S[X]→D に関して:
- すべてのS[X]が小さいとき、インデックス付き層F(-)は小さい。
- 少なくともひとつのS[X]が大きいとき、インデックス付き層F(-)は大きい〈小さくはない〉。
- すべてのS[X]がやせているとき、インデックス付き層F(-)はやせている。
- 少なくともひとつのS[X]が太っているとき、インデックス付き層F(-)は太っている〈やせてはいない〉。
ビッグサイトとリトルサイト
Cがサイトのとき、対象A上のオーバー圏 C/A に自然に入るサイト構造(被覆系)をビッグサイト〈big site〉と呼びます(nLab項目参照)。
この意味の「ビッグ」はサイズとは関係ないので、小さいサイト〈スモールサイト〉Cに対してビッグサイト C/A を作ることもできます。なんか奇妙ですが、行きがかり上しょうがないですね。
ビッグサイトは、理論上は単純な形をしてますが、実際の計算に使うには便利ではありません。そこで、計算の手間が少ないリトルサイト〈little site〉を定義したくなります。しかし、一般的・抽象的にリトルサイトを定義するのはけっこう難しそうです(nLab項目参照)。
具体的なインデックス付きサイトとして、開集合(の集合)で定義されるインデックス付きサイトがリトルサイトであることは認めていいでしょう。サイズ的にも、小さくやせたインデックス付きサイトになります。このタイプのサイト(インデックス付きサイト)を開集合リトルサイト〈open-set little site〉と呼ぶことにします。
多様体の圏Manを考えましょう。大きなサイトであるMan上には、C∞(-) や Ω(-) のような大きな層〈large sheaf〉があります。オーバー圏 Man/M にビッグサイト構造を入れ、その上のビッグ層(インデックス付き層)を考えることができます。それとは別に、開集合リトルサイト Open(-) を定義でき、リトル層(インデックス付き層)も構成できます。
Man上の層は、通常は開集合リトルサイト(インデックス付きサイト)上のリトル層(インデックス付き層)として定義されます。しかし、大きな層〈ラージ層〉とビッグ層(インデックス付き層)も一緒に考えたほうが見通しが良くなりそうです。つまり、次の三種類の層をその相互関係を考慮すべきかと。
- 大きなサイトMan上の大きな層
- 大きなサイトManから誘導されるビッグサイト上のビッグ層(インデックス付き層)
- 開集合リトルサイト上のリトル層(インデックス付き層)
大きなサイト/層とビッグなサイト/層を積極的に使うことをモットーにした微分幾何がビッグサイト微分幾何です。モットー以上の内容は現状たいしてありませんが(苦笑)。
*1:実を言うと、Siteの作り方を僕はよく分かってないのですが、頑張れば作れるでしょう。