たけを(bonotake)さんが続きの考察をしているようです。どうも、我々にマヌケな勘違いもあったようですが、それはともかく、この盛り上がり方は、量子ファイナンス工学以来ですね。これらの事例から(って、サンプル数少なすぎ)、次の法則が導かれます。
量子は盛り上がる。
素人から見ると、ワケわかんないところがかえってミステリアスで魅力的だし、いろいろ勝手なこと言うにはもってこいの話題*1。とはいえ、真面目な動機もあるんで、昨日の続きで、クック&パヴロヴィックにある絵を紹介します。
左から順に、1, 2, 3, 4, 5 と番号を付けるとします。
色の意味
赤が量子データ(量子状態)と量子チャンネル、黒が古典データと古典チャンネルです。
1番目(左端)の絵
比較的、実験装置に忠実な絵。Copyと書いてある黒い箱は測定した古典データ(2個のビット)をコピーする操作です。複製したデータの一方はアリス自身が見て、もう一方をボブに送ります。ボブ側では、Correctionて書いてある「古典データと量子データから量子データを作る」装置の入力として古典データが使われ消費されます。Correctionのヒルベルト空間的な表現は、00, 01, 10, 11でインデックス付けられたユニタリ行列の集合 {U00, U01, U10, U11} で、その中身は単位行列とパウリ行列3つ*2です。U(x, ψ) = Uxψ という感じ。
逆さまのAが書き込んである菱形はスカラーです。単にノルムの調整(正規化)に使われるだけなので気にしなくてもいいです。この図では菱形ですが、テンパリー/リーブ代数ではループ(輪っこ)として描いていたヤツですね。
1番目から2番目へ
ダガーコンパクト閉圏で許されるスライディングって変形をしてます*3。Correctionの随伴(共役)がMeasurementと組み合わさります。
このテの変形は、現実の実験装置を組み替えるわけではなくて、「こうなっていても、入出力は変わらないよね」という意味です。紙上での計算と推論です。しかしもちろん、実際の装置を作り直しても同じ入出力になるはずです。実験による証明がないと、計算は合理化できませんから。
2番目から3番目、4番目へ
ここらへんでは、Copy, Correction, Measurementがすべてユニタリであることが効いてきます。上向きと下向き、つまり随伴の対がうまくキャンセルしあって真っ直ぐな線(id写像)に変形されます。
4番目から5番目へ
赤い線に注目すると、アレですよ、アレ! ジグザグなロープを引っ張るとマッスグになるという変形。黒で示される古典情報は新規生成された(無から湧いた)のと同じことになります。
最終的には、量子状態はアリスからボブに移り、測定結果である古典情報が新たに生まれてアリス側に残ります(アリスが最初から測定結果を見ないか、忘れてしまえば黒の矢印はありませんが)。スカラーは不滅で空間とも無関係なので、最初にあったスカラー(正規化の乗数)は最後もそのままです。スカラーの場合は、時間・空間的にどこにあるかはどうでもいいことです。
古典的と量子的
こうして見ると、古典情報はいくらでもコピーできるし、破棄(忘却)も自由ですが、量子状態はコピーも破棄もできないことが本質的であることが分かります。古典計算が、忘却により環境を破壊しながら進む計算であるのに対して、量子計算が、環境リソースを消費しない計算(可逆計算)であることも、なんとなくは感得できます。
*1:あんまり勝手なことを言うのもまずいけどね→ http://d.hatena.ne.jp/m-hiyama/20060607/1149670210
*2:[追記]必ずしもパウリ行列である必要はなくて、実成分の行列が使われるほうが多いようです。X軸とY軸の取り替え、X軸に対する鏡映、時計回り90度回転の3つとか。[/追記]
*3:スライディングは、トレース付き圏ならOKな操作です。