このブログの更新は Twitterアカウント @m_hiyama で通知されます。
Follow @m_hiyama

メールでのご連絡は hiyama{at}chimaira{dot}org まで。

はじめてのメールはスパムと判定されることがあります。最初は、信頼されているドメインから差し障りのない文面を送っていただけると、スパムと判定されにくいと思います。

参照用 記事

「コミュニケーションの多次元化」という革命に立ち会っているのだと思う

先週の記事Globularを紹介しました。日本語を食わせるとお腹を壊して死んだりします。でも、けっこう使えるし十分に面白い

僕がなぜ絵算やGlobularに興味を持つのか、と言うと; これが計算や証明、そしてコミュニケーションに革命を起こすものだと感じるからです。革命とはいってもゆるやかに進行し、30年、50年あるいは100年たったら随分と様変わりしたね、という感じでしょうが。

多次元の言語

文字はもともとは絵で、今でも四角形に収まる図形です。構成要素である基本図形を組み合わせて何かを表現するという点においては、テキストもストリング図(下に例)も変わりはありません。違うのは、ストリング図(や3次元内の曲面を使うサーフェイス図)が、本質的に2次元以上の空間を必要とすることです。

[*1]
[*2]
[*3]

テキストだって2次元に配置されますが、あれは折り返しているだけ*4。音声読み上げでテキストを時間方向に展開できるのは、実質的に1次元しか使ってないからです。ストリング図では、上下方向も左右方向も意味を持ちます。サーフェイス図なら奥行き方向も使います。

抽象化した文字形状をグリフ(glyph)と呼びますが*5、ストリング図でもグリフ相当の基本図形はあります。その基本図形を上下左右に並べるのですが、必ずしも碁盤目に並べる必要はありません。その様子は、「絵算の威力をお見せしよう」の説明に使った次の図からうかがえるでしょう。

ストリング図におけるグリフの並べ方にはルールがあります。2次元配置のルールですから、2次元の文法と言っていいでしょう。さらに、文法に則〈のっと〉った配置を変形する“書き換えるルール”が計算や証明の根拠になります。つまりは、ストリング図は2次元の言語なのです。サーフェイス図なら3次元の言語です。

次元のギャップを乗り越える

絵算ベースの証明支援系 Globular」の最後で、僕は次のように言いました。

Globularは、我々のコミュニケーション形態に対する試練のように思えます。

Globularは、まだ未熟ながらも、純粋に2次元言語用のツールです*6。1次元テキスト表現とは決別した世界のソフトウェアです。「1次元→2次元」は不連続的な進化ですから、試練となるのです。我々は2次元言語でコミュニケートした経験を持たないので、戸惑ってしまうのは当然です。

先鋭的な絵図主義者であるボブ・クックが率いるQuantum Groupは、2次元(以上の多次元)言語でしゃべりはじめたさきがけの集団なのかも知れません。もちろん、多次元言語の試みは様々あったわけで、どこの誰が起源かを特定はできませんけどね。

さて、1次元コミュニケーションの場合を振り返ってみると、文字という手法だけでは不十分で、紙と活字という道具が発明されてコミュニケーションの革命が起きました。情報と知識が空間を超えて広く伝搬し、時間を超えて保存することも出来るようになったわけです。

現在においては、伝搬や保存の媒体は紙よりもデジタルデータです。そして、読み書きの道具はソフトウェアとなります。技術的な制約から、とりあえずの多次元言語は2次元の絵ですが、人工現実技術により再現される3D空間内の体験(時間方向含む)が、読み書きシステムがレンダリングすべき対象でしょう。映画『マトリックス』のように、仮想世界における体験の交換・共有が対話や教育の手段となるのです。

多次元のグリフ、多次元の文法、多次元のオーサリングとレンダリング; これらが洗練されて普及するのは未来の話ですが、ストリング図とGlobularにその兆候を感じ取ることが出来ます。次元のギャップの試練を、少しだけでも乗り越えたいな、と思ったりします。

*1:画像は http://www.pps.univ-paris-diderot.fr/~mellies/gallery_files/parametric-monad-associativity-proof.jpg より

*2:画像は http://ncategory.files.wordpress.com/2010/03/hopfmonadsurfacediagram.png より

*3:画像は https://golem.ph.utexas.edu/category/2010/04/01/extranat-nurbs.jpg より

*4:横書きのテキストに、縦読みや斜め読みを仕込んだりすることはありますが。

*5:グリフを厳密に定義するのは難しいです。R2内にある区分的に滑らかな境界線で囲まれたコンパクト領域達に、なんらかの変換群で同値関係を入れた同値類あたりが妥協できる定義かと思いますが、様々な異論が出るでしょう。

*6:3次元以上も扱えますが、2次元に射影したり、2次元断面で輪切りにします。