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参照用 記事

コジュール接続の圏 その2

コジュール接続の圏」の続きを書きます。と言っても、ちょっと思いついたこと(一般射という概念)があるんで、それのメモみたいなもんです。

内容:

はじめに

コジュール接続の圏」では、ベクトルバンドルEに対して、E上の共変微分の集合 CovDer(E) をもとにして、グロタンディーク構成によってコジュール接続の圏 KoszConnection を構成しました。そのとき、次のように書きました。

もうひとつ別な方法でも KoszConnection を構成したいですね。

 {\bf KoszConnection} := {\displaystyle \int_{\to\:{\bf Man}}} {\bf KoszConn}[\mbox{-}]

もちろん、ふたつの定義の同値性を期待しています(あー疲れる)。

以前とは別な方法でコジュール接続の圏を構成します。ただし、過去記事の時点で想定していたEP射(embedding と projection のペア)以外に、より一般的な射も使います。多様体Mに対する圏 KoszConn[M] が一意に決まるわけではなく、射の選び方に幾つかの候補があります。

圏の記号 射の呼び名 ひとこと
KoszConniner[M] 慣性射〈inertial morphism〉 これだけでは不足
KoszConngen[M] 一般射〈generic morphism〉 一般的(過ぎるかも)
KoszConnEP[M] EP射〈EP morphism〉 以前の記事で想定していたのはこれ

これらの圏を定義・紹介していきます。

オーバーロードと省略のルール

出現する様々な概念・対象物に名前を付けていくと、文字・記号が足りなくなってしまうので、文字・記号のオーバーロード〈多義的使用〉と省略をします。

これから先の(この記事の)説明でだいたい足りると思いますが、用語・記法は次の記事にまとめてあります*1

主役であるコジュール接続は、X, Y などアルファベットの後ろの方の大文字で表します。コジュール接続を構成するベクトルバンドルをE、共変微分を∇とすると、X = (E, ∇) です。'X'とは別な文字'E'を消費しないように、

  • E = X
  • ∇ = X

とします。下線を引いたのは、underlying と underline をかけたダジャレです。この書き方を使うと:

  • X = (X, X∇)

ベクトルバンドルEの底空間は|E|と書き、E = (E, |E|, Eπ) とします。ここでは、ベクトルバンドル全体とその全空間を同じ記号でオーバーロード(記号の乱用)しています。コジュール接続Xが載る底空間は |X| と書けます。が、今日は底空間を固定するので、|X| = M とします。

コジュール接続Xに対して、そのベクトルバンドルXのセクション空間を、同じ記号Xで表します。つまり、コジュール接続とそのセクション空間に同じ記号をオーバーロードします。このオーバーロードけっこう使いやすいからです。

  • X = Γ(X) = ΓM(X)

底空間Mの開集合Uに対しては、

  • X(U) = Γ(U, X) = ΓM(U, X) = ΓM(X|U)

結局、M上の層 ΓM(-, X) を X = X(-) と書くことになります。

底空間M上の、微分形式の層を Ω(-) = ΩM(-) と書きます。共変微分作用素 X∇ の、開集合Uにおける局所表現は、

  • XU:X(U)→X(U)\otimesΩ(U)

セクションの記号'Γ'を使えば次のようです。

  • XU:Γ(U, X)→Γ(U, X)\otimesΓ(U, T*M)

テンソル\otimes は、可換環 Φ(U) = ΦM(U) = CM(U) に関するテンソル積です。

この記事内では、左肩への上付き添字を多用しています。それに違和感か興味をいだいた方は次の記事をどうぞ。

イントラベースとインターベース

ベクトルバンドルの射〈準同型写像〉」とだけ言っても意味が曖昧で困ることがあるので、次の2つの言葉を導入します。

  • イントラベース・バンドル射〈intrabase bundle morphism〉
  • インターベース・バンドル射〈interbase bundle morphism〉

E = (E, |E|, Eπ), F = (F, |F|, Fπ) をベクトルバンドルとして、f:E→F がイントラベース・バンドル射とは、|E| = |F| = M で次の図式が可換になることです。

\require{AMScd}
\newcommand{id}{\mbox{id}} %
\newcommand{\For}{\mbox{For}\:\:} %
%
\begin{CD}
 E     @>f>>    F \\
 @V{{}^E\pi}VV  @VV{{}^F\pi}V \\
 M   @=         M
\end{CD}

このような条件を付けないバンドル射はインターベース・バンドル射です。f:E→F の底写像(底空間のあいだの写像)を |f| とすると、インターベース・バンドル射では |f| = id とは限らない可換図式となります。


\begin{CD}
 E     @>f>>     F \\
 @V{{}^E\pi}VV   @VV{{}^F\pi}V \\
 |E|   @>{|f|}>> |F|
\end{CD}

注意すべきことは、|E| = |F| = M であっても、|f| = idM でないならイントラベース・バンドル射ではないことです。

M上のベクトルバンドルとイントラベース・バンドル射からなる圏は VectBdl[M]、任意のインターベース・バンドル射からなる圏は VectBundle です。すぐ上の注意は、「|E| = |F| = M であっても VectBundle(E, F) と VectBdl[M](E, F) は必ずしも一致しない」ということです。

コジュール接続のあいだの慣性射

多様体Mを固定して、圏 KoszConn[M] を定義します。□の場所には、iner, gen, EP のいずれかが入ります。これらの圏の対象は、|X| = M であるようなコジュール接続 X = (X, X∇) です。2つのコジュール接続 X, Y に対して、そのあいだの射を定義する必要があります。最初に特殊な射から定義します。

ベクトルバンドルのイントラベース射〈イントラベース・バンドル射〉 f:XY in VectBdl[M] が、コジュール接続のあいだの慣性射〈inertial morphism〉だとは、fから誘導される前送り f*:X→Y (X = ΓM(-, X), Y = ΓM(-, Y))が、次の図式を可換にすることです。


\begin{CD}
 X   @>{{}^X\nabla}>> X\otimes\Omega \\
 @V{f_\ast}VV           @VV{f_\ast\otimes \id_\Omega}V \\
 Y   @>{{}^Y\nabla}>> Y\otimes\Omega
\end{CD}

ここで、Ω = ΩM は、M上の微分形式の層でした。X, Y, Ω はいずれも層なので、Mの開集合U上で考えれば:


\begin{CD}
 X(U)             @>{{}^X\nabla^U}>> X(U) \otimes \Omega(U) \\
 @V{{f_\ast}^U}VV                    @VV{{f_\ast}^U \otimes \id_{\Omega(U)}}V \\
 Y(U)             @>{{}^Y\nabla^U}>> Y(U)\otimes\Omega(U)
\end{CD}

可換図式内に出てくる射が何種類かあるので注意してください。図の縦方向(たまたま縦なだけ)の射は、Φ-加群です。正確に言えば、Φ = ΦM(-) = CM(-) は可換環の層であり、Φ上の加群層の圏 Φ-Mod-Sh[M] の射です。横方向(たまたまね)の射は(Φ/R)-微分です -- これは、R-ベクトル空間の層の圏 R-Vect-Sh[M] の射であって、Φ-スカラー(Φ(U)の要素)との掛け算に関してはライプニッツ法則を満たす射です。(Φ/R)-微分射はΦ-加群射とは限りません。

多様体M上のコジュール接続と、そのあいだの慣性射の全体は圏をなすので、それを(M上の)コジュール接続とイントラベース慣性射の圏〈category of Koszul connections and intrabase inertial morphisms〉と呼び、 KoszConniner[M] と書くことにします。この圏は狭すぎて不十分なのですが、慣性射は単純で扱いやすい射だとは言えます。慣性射と名付けたのは、ある状況下では、物理の慣性系〈inertial frame of reference〉と関係するからです。

微分

前節で言及した微分〈{derivative | differential} morphism〉を念のため定義しておきましょう。多様体Mとその開集合Uに対して、標準的〈canonical〉な外微分は定まっています*2

  • For U∈Open(M),
    dUM(U)→ΩM(U)

X = (X, X∇) がコジュール接続だとは、X∇:X→X\otimesΩ in R-Vect-Sh[M] が、標準外微分 d に関してライプニッツ法則を満たすことでした。

  • For U∈Open(M), For a∈Φ(U), x∈X(U),
    (XU)(x・a) = (XU(x))・a + x\otimesda

ここで、'・'は右からのスカラー倍です。Φ(U)は可換環なので、スカラー倍は右も左も許すことにします。

このライプニッツ法則を満たすR-線形写像が、(Φ/R)-微分〈Φ/R-{derivative | differential} morphism〉です。

今定義した微分射は、X∇:X→X\otimesΩ という形でしたが、D:X→Y\otimesΩ という微分射も定義しましょう。f:X→Y in Φ-Mod-Sh[M] がΦ-加群射だとして、Dがfに沿った(Φ/R)-微分〈(Φ/R)-{derivative | differential} morphism along f〉とは、次の変形したライプニッツ法則を満たすことです。

  • D(x・a) = (Dx)・a + f(x)\otimesda on Y\otimesΩ

これは、層のあいだの射に関する等式なので、正確に書けば:

  • For U∈Open(M), For a∈Φ(U), x∈X(U),
    DU(x・a) = (DUx)・a + fU(x)\otimesdUa on Y(U)\otimesΩ(U)

通常の微分射は、恒等射に沿った微分射ということになります。

コジュール接続のあいだの一般射

X, Y は多様体M上のコジュール接続として、ベクトルバンドルのあいだのイントラベース射 f:XY in VectBdl[M] が慣性射にはならない場合を考えます。先程の図式が可換とは限らないので、次の等式は期待できません。

  •  ({}^Y\nabla)\circ f_\ast = (f_\ast \otimes \id_\Omega) \circ ({}^X\nabla) \:\: : X\to Y\otimes\Omega

等式は成立しないけれど、等式の左右の差がΦ-加群射 A:X→Y\otimesΩ in Φ-Mod-Sh[M] で与えられるとします。

  •  (f_\ast \otimes \id_\Omega) \circ ({}^X\nabla) - ({}^Y\nabla)\circ f_\ast = A  \:\: : X\to Y\otimes\Omega

同じことですが:

  •  ({}^Y\nabla)\circ f_\ast +  A = (f_\ast \otimes \id_\Omega) \circ ({}^X\nabla) \:\: : X\to Y\otimes\Omega

図式順記法なら:

  •  f_\ast;({}^Y\nabla) +  A =  ({}^X\nabla);(f_\ast \otimes \id_\Omega) \:\: : X\to Y\otimes\Omega

この状況を、次の図式で表しましょう(可換図式ではありません)。


\begin{CD}
 X   @=               {}  @>{{}^X\nabla}>> X\otimes\Omega \\
 @V{f_\ast}VV         @.{\nearrow + A}     @VV{f_\ast\otimes \id_\Omega}V \\
 Y   @>{{}^Y\nabla}>> {} @=                Y\otimes\Omega
\end{CD}

ベクトルバンドルのイントラベース射 f:XY in VectBdl[M] と、Φ-加群射 A:X→Y\otimesΩ in Φ-Mod-Sh[M] が上の条件を満たしているとき、(f, A) を、コジュール接続XからYへの一般射〈generic morphism〉と呼ぶことにします。

コジュール接続のあいだの一般射 (f, A):X→Y があると、R-線形射  ({}^Y\nabla)\circ f_\ast +  A \: : X\to Y\otimes\Omega は、Φ-加群射 f*:X→Y に沿った (Φ/R)-微分射になることは直接計算で示せます。

f:XY, g:YZ in VectBdl[M] で、A:X→Y\otimesΩ, B:Y→Z\otimesΩ in Φ-Mod-Sh[M] だとして、(f, A):X→Y, (g, B):Y→Z がコジュール接続のあいだの一般射だとします。f*\otimesidΩ を f*1 と書くことにします(g*1 も同様)。このとき、次の等式が成立しています。

  1.  \For x \in X, \: {}^Y\nabla(f_\ast x) + A x = f_\ast^1({}^X\nabla x)
  2.  \For y \in Y, \: {}^Z\nabla(g_\ast y) + B y = g_\ast^1({}^Y\nabla y)

y = f*x と代入して等式変形をすると、次の等式が得られます。

  •  {}^Z\nabla(g_\ast f_\ast x) + B f_\ast x + g_\ast^1 A x = g_\ast^1 f_\ast^1 ({}^X\nabla x)

これから、(f, A) と (g, B) の結合は次のように定義すればいいことが分かります。

  •  (g, B)\circ(f, A) \: := (g\circ f, B\circ f_\ast + g_\ast^1 \circ A)

今定義した結合と、idX := (idX, 0) により恒等射を定義すると、コジュール接続と一般射の全体は圏をなします。圏の結合律、単位律は直接計算で示せます。こうしてできた圏を(M上の)コジュール接続とイントラベース一般射の圏〈category of Koszul connections and intrabase generic morphisms〉と呼び、KoszConngen[M] と書きます。

[追記]一般射がどの程度に一般的であるかは、「コジュール接続の一般射は一般的だった」に書きました。[/追記]

さらなる略記

記述を簡潔にするために、さらに略記を導入します。

前節で (f, A) と書いていたコジュール接続のあいだの一般射を一文字 f で表します。一般射 f の構成素であるイントラバンドル射は f とします。こうすると、f:X→Y in KoszConngen[M] に対して f:XY in VectBdl[M] なので辻褄が合います。f* と書いていたΦ-加群射は f0 に変更して、f*1 は f1 に変更して、A は fA とします。

コジュール接続 X のセクション空間 ΓM(-, X) を X0 とも書き、X1 = X0\otimesΩ とします。一般的には、Xk := X0\otimesΩk ですが、今回は k = 0, 1 しか使いません。

結局、コジュール接続のあいだの一般射 f は、f = (f, fA) と書けて、一般射であるための条件は次の図式になります。


\begin{CD}
 X^0   @=               {}  @>{{}^X\nabla}>>  X^1 \\
 @V{f^0}VV              @.{\nearrow + \;{{}^f A}} @VV{f^1}V \\
 Y^0   @>{{}^Y\nabla}>> {} @=                 Y^1
\end{CD}

コジュール接続のあいだのEP射

コジュール接続 X, Y のあいだのEP射〈{EP | embedding-projection} morphism〉 f は、(fe, fp, fA) として定義されます。fe, fpベクトルバンドルのあいだのイントラベース射で、fe:XY, fp:YX 、かつ fp\circfe = idX を満たすとします。fA は、X0→Y1 というΦ-加群射です。f = (fe, fp, fA) がEP射である条件は、 (fe, fA) が一般射になることです。

コジュール接続とそのあいだのEP射の全体は圏をなすことは容易に確認できます。その圏を(M上の)コジュール接続とイントラベースEP射の圏〈category of Koszul connections and intrabase EP morphism〉と呼び、KoszConnEP[M] と書きます。

定義より、KoszConnEP[M] は KoszConngen[M] への忘却関手を持ちます。忘却関手は、fp を忘れて、(fe, fA) を残します。

EP射の場合は、fα := fA\circfp : Y0→Y1 と置いて、f = (fe, fp, fα) という表示も可能です。この fα は、EP射 f の接続形式〈connection form〉です。EP射 f が、ベクトルバンドルの自明化(同型射)のとき、fα は通常の接続形式〈接続係数〉になります。

そしてそれから

M上のベクトルバンドルの圏(射はイントラベース・バンドル射) VectBdl[M] は、テンソル積をモノイド積とする対称モノイド構造を持ちます。さらに、コンパクト閉構造も持ちます。KoszConngen[M] と KoszConnEP[M] にも同様な対称モノイド構造/コンパクト閉構造を定義したいですね。コジュール接続からベクトルバンドルへの忘却関手は、対称モノイド構造/コンパクト閉構造を保つ関手になるはずです。

今回は、底空間となる多様体Mを固定してますが、異なる底空間上のコジュール接続をつなぐインターベースな射も必要です。インターベースな射からなる圏の構成はグロタンディーク構成です。「コジュール接続の圏」で想定していた「別な構成法」は、CoszConnEP[-] からのグロタンディーク構成です。これが、CovDer[-] からのグロタンディーク構成と一致すればメデタイわけです。

構成の続きはまた気が向いたとき。

*1:手書きのときの書き方は「バンドルと層の記法 速記用」。

*2:開集合Uに対する dU の全体は、R-ベクトル空間層のあいだの射 d:Φ→Ω を形成します。