今回は、僕の雑感のようなものです。若干茫漠とした短い話ですが、抽象的オプティックの世界を俯瞰してみます。
内容:
オプティックとは何か?
オプティックは、ソフトウェアの理論・技法としても有望そうだし、応用を離れて圏論プロパーの話題としても興味深いし、要するにおもしろそうだよね。
ところで、あらためてオプティック〈an optic〉とは何か? というと、「オプティックの圏〈category of optics〉の射」としか言いようがないですね。では、オプティックの圏とは何か? というと、オプティック構成〈optic construction〉で作られた圏だということになります。
一般に、圏論的構成法〈categorical construction〉とは、何かの素材を渡されて圏を作り出すメカニズム・手順のことです。渡す素材が圏のときは、圏論的構成法の正体は“圏の圏”から“圏の圏”への関手になります。“圏の圏”とそのあいだの関手をフォントを変えて、
と書くことにすると、圏 に対する が、構成法 で構成された圏〈constructed category〉となります。
では、どんな構成法がオプティック構成なのでしょうか? -- それに答えないと結局「オプティックとは何か?」に答えてないことになります。そこで登場するのがテレオロジー圏〈teleological category〉です。テレオロジー圏が「オプティック構成とは何か?」の答えになるでしょう。
テレオロジー圏の圏 がうまく定義できれば、次のプロファイルを持つ構成法がオプティック構成だと言えます。
現在知られている例をみると、オプティック構成 は自由生成関手で、随伴パートナーとなる忘却関手 を持ちます。つまり、次のような随伴系〈adjunction | adjoint system〉があります。
オプティックがこの随伴系で規定されるなら、これをオプティック随伴系〈optic adjunction〉と呼んでいいでしょう。となると、次なる問〈とい〉は、オプティック随伴系とは何か? どのように特徴付けられるのか? です。
オプティックの世界
「圏論的レンズ 4: テレオロジー圏」でも述べたように、テレオロジー圏はヘッジズ〈Jules Hedges〉により定義されました。この定義はドクトリン(「圏論的ドクトリンの安直な導入」参照)になるので、ヘッジズの定義に基づいたテレオロジー圏の圏 が確定します。
ライリー〈Mitchell Riley〉は実際に、厳密対称モノイド圏をベースにしてヘッジズのテレオロジー圏(わずかに定義を変更している)を使ってオプティック随伴系を構成しています。
ここで、 は実際に定義された関手です。 は確実にオプティック構成であり、 に対する は間違いなくオプティックの圏であり、その射はまごうことなきオプティックです。
しかし、テレオロジー圏の圏がこの世にひとつだけ在るわけでもないのです。例えば、ロマンによるテレオロジー圏の定義はヘッジズ/ライリーのものとは違います。ロマンが定義したテレオロジー圏の圏を としましょう。おそらく、次のオプティック随伴系が存在します。
ここで、 は、モノイド圏 上の左アクテゴリーの圏です。
他にも、テレオロジー圏の圏/オプティック随伴系は存在するでしょう。ヘッジズ/ライリーの定義とロマンの定義の中間的なものや、ロマンの定義をさらに拡張・一般化したものを考えることができます。
となると、テレオロジー圏の圏の圏、オプティック随伴系の圏を考える必要がありそうです。とはいえ、現時点でそこまでの抽象化は難しい気がします。幾つかのテレオロジー圏の圏/オプティック随伴系を実際に構成してその性質を調べるのが先でしょうね。