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参照用 記事

集合の操作と基数の性質

集合論で許されるありとあらゆる集合の集まりを $`\mathbb{V}`$ と書くことにします。$`\mathbb{V}`$ は集合ではないし、その外を考えることは許されないので、集合達の絶対的大宇宙と言えます。$`\mathbb{V}`$ は集合ではないので、集合のように扱うことは出来ませんが、集合に対する記法を流用するのはかまわないでしょう。以下、そのような記法を使います。$`\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1}}
\newcommand{\Imp}{\Rightarrow}`$

$`A \subseteq \mathbb{V}`$ のとき、$`A`$ はクラス〈class | 類〉と呼びます。クラスが集合になるとは限りませんが、集合はクラスです。なぜなら、次が成立するからです。

$`\quad x\in \mathbb{V} \Imp x \subset \mathbb{V}`$

集合ではないクラスを真のクラス〈proper class〉と呼びます。

集合論における基数〈cardinal {number}?〉は集合です。集合が基数であるかどうかは形式的に定義された命題で判断できるので、“すべての基数からなるクラス”は意味を持ちます。次のように書いていいでしょう。

$`\quad \mrm{Card} := \{x\in \mathbb{V}\mid x \text{ は基数}\}`$

任意の集合にその基数を割り当てることができるので、次のような“関数”が定義できます。

$`\quad \mrm{card}: \mathbb{V} \to \mrm{Card} \subset \mathbb{V}`$

この関数 $`\mrm{card}`$ は $`\mathbb{V}`$ の外にあるのではないか? 確かに、$`\mrm{card}`$ は $`\mathbb{V}`$ 内の存在物ではないですね。でも、このような“関数”も許すとします。

基数 $`\alpha \in \mrm{Card}`$ に対して、次のようなクラス*1を考えます(基数の大小は比較可能です)。

$`\quad \mathbb{V}_{\lt \alpha} := \{x \in \mathbb{V} \mid \mrm{card}(x) \lt \alpha \}`$

クラス $`\mathbb{V}_{\lt \alpha}`$ からはみ出ないで、どのような集合演算が出来るかで、基数 $`\alpha`$ の性質を記述できる場合があります。次のような集合演算を考えましょう。

  • 後者〈successor〉: $`\mrm{Succ}(x) = x^+ := x\cup \{x\}`$
  • ベキ集合〈power set〉: $`\mrm{Pow}(x) := \{y\in \mathbb{V}\mid y \subseteq x \}`$

$`\alpha,\, \alpha \ne 0`$ が極限基数〈limit cardinal〉であることは次のように書けます。

$`\quad x \in \mathbb{V}_{\lt \alpha} \Imp \mrm{Succ}(x) \in \mathbb{V}_{\lt \alpha}`$

$`\alpha,\, \alpha \ne 0`$ が強極限基数〈strong limit cardinal〉であることは次のように書けます。

$`\quad x \in \mathbb{V}_{\lt \alpha} \Imp \mrm{Pow}(x) \in \mathbb{V}_{\lt \alpha}`$

集合 $`I`$ に対して、$`I \to \mathbb{V}`$ という“関数”を認めるとします。この形の関数はインデックス付き集合族〈indexed family of sets〉、あるいは単に集合族〈family of sets〉と呼びます。集合族 $`F:I\to \mathbb{V}`$ に対して、その合併は定義可能です。

$`\quad \bigcup(F) = \bigcup_I F = \bigcup_{i\in I}F(i) \in \mathbb{V}`$

基数 $`\alpha`$ に対する $`\mathbb{V}_{\lt \alpha}`$ が、集合族の合併に関して閉じているとき、$`\alpha`$ を正則基数〈regular cardinal〉と呼びます。集合族の合併に関して閉じているとは:

$`\text{For }F : I \to \mathbb{V}\\
\quad (I \in \mathbb{V}_{\lt \alpha} \land \forall i\in I. F(i) \in \mathbb{V}_{\lt \alpha})
\Imp \bigcup(F) \in \mathbb{V}_{\lt \alpha}
`$

$`0`$ を正則基数に入れるかどうかは、目的と好みによりけりです。

基数 $`\alpha`$ が弱到達不能基数〈weakly inaccessible cardinal〉だとは、それが極限基数〈弱極限基数〉かつ正則基数であることです。つまり、$`\mathbb{V}_{\lt \alpha}`$ は、後者と集合族の合併の操作に関して閉じています。

基数 $`\alpha`$ が強到達不能基数〈strongly inaccessible cardinal〉だとは、それが強極限基数かつ正則基数であることです。つまり、$`\mathbb{V}_{\lt \alpha}`$ は、ベキ集合と集合族の合併の操作に関して閉じています。単に到達不能基数〈inaccessible cardinal〉と言ったら、それは強到達不能基数のことです。

到達不能基数に対する $`\mathbb{V}_{\lt \alpha}`$ では、ベキ集合を作ること、集合族の合併を作ることが自由にできるので、普通に集合を扱うとき必要な操作は揃っていることになります。$`\mathbb{V}`$ の代わりに $`\mathbb{V}_{\lt \alpha}`$ を使っても特に不自由はないのです。

*1:このクラスは集合になりますが。