「量子と古典の物理と幾何@名古屋」を意識してますが、この記事の内容は一般論です。高次元の圏とは、n = 0, 1, 2, ..., ∞ に対するn-圏だと思われていますが、ほんとにそれでいいのかな? という話です。
次元ごとの圏の構成素
Cが何らかの意味でn次元の圏であるとき、Cを構成するi次元(0≦ i ≦n)のモノ(射、セル)の集合を、|C|i と書きます。この書き方は比較的最近使いはじめたものですが、なかなか便利です(古い記事ではこの記法を使ってません)。
n = 0 のとき、0次元の圏Cは単なる集合なので、
- |C|0 = C
n = 1 のとき、1次元の圏Cは通常の圏なので、
- |C|0 = Obj(C) = (Cの対象の集合)
- |C|1 = Mor(C) = (Cの射の集合)
この記法の背後には、n-圏の構成素(constituents)は次元を持ち、次元の値は0以上n以下の整数だという前提があります。しかし、次元の値が非負整数区間に入ると断言するのは早計でしょう。
二重圏における次元
二重圏(double category)に関しては以下の記事で扱っています。
二重圏も含めた高次圏における記号の使い方については、
Dが二重圏のとき、Dの構成素は次のようになります。
- |D|0 = (Dの対象の全体)
- |D|h1 = (Dの横1-射(horizontal 1-morphism)の全体)
- |D|v1 = (Dの縦1-射(vertical 1-morphism)の全体)
- |D|2 = (Dの2-射の全体)
Dの次元は2だと言っていいと思いますが、Dの構成素は3種類ではなくて4種類です。もし、種類を表す次元が非負整数なら、次元の値は{0, 1, 2, 3}のはずですが、実際は{0, h1, v1, 2}です。もちろん、この話は「次元」の定義に依存しますが、いまは「次元=射の分類基準」程度の意味で考えます。
この例から、次元は非負整数値とは限らない、と言えるでしょう。{0, h1, v1, 2} は次のようなダイヤモンド形の順序構造を持つと考えられます。
2 / \ h1 v1 \ / 0
一般的に、次元の集合は線形とは限らない順序集合となり、非負整数の次元は順序集合上の“高さ関数”として現れるように思えます。
{0, h1, v1, 2}に値を取る関数は、「次元」ではなく、例えば「グレード」と呼び、グレードの高さを従来通りの次元と呼ぶほうが混乱がないかも知れません。もしfが縦1-射(垂直1-射)ならば、
- grade(f) = v1
- dim(f) = height(grade(f)) = height(v1) = 1
次元も多様だ
特別に難しいことを考えなくても、現実のモデルを作ると、2次元/3次元の圏が出てきてしまうことは珍しくはありません。「続・2次元の圏のための記号法」でオートマトンのモデルに3次元の圏(三重圏)が出てくる、と書きました。次元は3ですが、射(セル)は8種類出てきます。前節の言葉を使うなら、グレードの値が8個、高さ関数の値が0から3です。
高次元の圏はほんとに多様です。次元(グレード)も単純な自然数だけではない多様性を持ちます。この多様性は難しさや煩雑さに繋がりますが、一方では、応用に対する選択の幅が広いことにもなります。多様性=複雑さは受け入れざるを得ないので、多様性を積極的に利用してやろう、と思ったほうが精神衛生上よいですね。