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参照用 記事

ベクトル空間上の複素密度 3: 反対主等質集合と反傾主等質集合

昨日の記事の最後で:

密度に対する重要な単項演算として、密度pの双対 p \mapsto p* があります。p*が定義される主等質集合は、もとの主等質集合とは反変的な関係にある主等質集合になります。ここの話はけっこうややこしいので、次回に述べます。

この話をします。

昨日から、区切りが悪くても書いた分だけ投稿するスタイルに変えました。

書いた分だけ投稿するスタイルだと、重複が増えて、試行錯誤・紆余曲折がそのまま見えちゃったりしますが、まー、そもそもブログはそういうもんだからいいとします。

あと、寄り道しがちになると思います。これも、「ブログはそういうもんだからいいとします」。

内容:

主等質集合の圏

左主等質集合と右主等質集合はキチンと区別しますが、主に左主等質集合について話します。右主等質集合でも同様です。また、この記事の話は、主等質集合に限らずに、モノイド作用/群作用を持つ集合に通用することが多いのですが、イチイチその事に言及はしません。

ベクトル空間上の複素密度 1/2」で主等質集合の圏の定義はしています。左右の区別をしてなかったので、その点を修正して引用すると:

左主等質集合の圏をLeftPHSとします。この圏の射 f:(G, X)→(G, Y) in LeftPHS は、写像 f:X→Y で、左G-作用を保存するものです。G ≠ H のときの LeftPHS((G, X), (H, Y)) は空集合とします。これはだいぶ雑な定義ですが、今はこの定義でも十分です。

より一般的な定義にも触れておきます。一般的な定義は、後で使うかも知れないし、単なる寄り道な話かも知れません。([追記]寄り道ではなくて、これは使います。[/追記]

群Gが集合Xに左から作用している構造を (G\curvearrowrightX) と書くと約束しました。作用を表す中置演算子記号は';'です。が、明示的に作用の写像を書きたいときは、α:G\curvearrowrightX という記法も採用します。これは、「α:G×X→X は群作用」と同じ意味です。

群Gを固定して、Gが左作用する主等質集合の圏を LeftPHS[G] とします。この圏の射 (G\curvearrowrightX)→(G\curvearrowrightY) は、写像 f:X→Y で、左作用を保存するものです。つまり:

  • For g∈G, x∈X, f(g;x) = g;f(x) on Y

群の準同型 φ:G→H に対して、関手 φ#:LeftPHS[H]→LeftPHS[G] を定義できます。どう定義するかというと; (α:H\curvearrowrightX) in LeftPHS[H] に対して、LeftPHS[G] の対象を次のように作ります。

  • φ#( (α:H\curvearrowrightX) in LeftPHS[H] ) := ( (α':G\curvearrowrightX) in LeftPHS[G] )
  • For g∈G, x∈X, α'(g, x) := α(φ(g), x)

また、射 f:(α:H\curvearrowrightX)→(β:H\curvearrowrightY) in LeftPHS[H] に対して、LeftPHS[G] の射を次のように作ります。

  • φ#( f:(α:H\curvearrowrightY)→(β:H\curvearrowrightY) in LeftPHS[H] ) := ( f’:(α':G\curvearrowrightY)→(β':G\curvearrowrightY) in LeftPHS[G] )
  • For x∈X, f’(x) := f(x) on Y

ゴチャゴチャ書いてありますが、写像としては、f と φ#(f) = f’ は同じです。この定義により、φ:G→H から誘導される φ#:LeftPHS[H]→LeftPHS[G] が関手になることはルーティーンに確認できます。φ# は、引き戻し関手〈pullback functor〉です*1

LeftPHS[φ] := φ# と置くと、LeftPHS[-]:GrpCAT は、インデックス付き圏〈indexed category〉になります。インデックス付き圏があれば、グロタンディーク構成〈Grothendieck construction〉ができます。インデックス付き圏のグロタンディーク構成については、次の記事とそこから参照されている記事を(必要なら)読んでみてください。

グロタンディーク構成の例は、検索結果を眺めてください。

さて、一般的な左主等質集合の圏 GenLeftPHS は、インデックス付き圏 LeftPHS[-]:GrpCAT からグロタンディーク構成を施して構成できます。積分記号を使って書くのなら:

  •  {\bf GenLeftPHS} := {\displaystyle \int_{\bf Grp}} {\bf LeftPHS}[\mbox{-}] = {\displaystyle \int_{x \:\mbox{in}\: {\bf Grp}}} {\bf LeftPHS}[x]

以前の記事におけるLeftPHSの定義は:

  •  {\bf LeftPHS} := {\displaystyle \int_{Id{\bf Grp}}} {\bf LeftPHS}[\mbox{-}] = {\displaystyle \int_{x \:\mbox{in}\: Id{\bf Grp}}} {\bf LeftPHS}[x]

ここで、IdGrp は次のように定義される圏です。

  • 対象: Obj(IdGrp) = |IdGrp| = |Grp|
  • ホムセット: IdGrp(G, G) := {idG}
  • ホムセット: G ≠ H ならば、IdGrp(G, H) := ∅

ベース圏〈インデキシング圏〉をIdGrpに制限したグロタンディーク構成を使ったこの定義は、「ベクトル空間上の複素密度 1/2」における「だいぶ雑な定義」と同じです。ベース圏を変えれば、グロタンディーク構成で出来上がる圏(平坦化圏)も違ってきます。

反対主等質集合と反傾主等質集合

この節で使う形容詞「反対〈oppositel〉」「反傾〈contragredient*2〉」は、しばしば「双対〈dual〉」で代用されます。「双対」の使用があまりにも多く、なんでもかんでも「双対」にするとワケが分からなくなるし、「双対」がふさわしくないとき(例:双対基底)もあります。言葉が増えてしまうのですが、「双対」で済ませるのはやめて、「反対」「反傾」を使います。

モノイドや群は、特殊な圏(単対象の圏)と考えることができるので、反対圏〈opposite category〉と同じ記法 (-)op で反対モノイド〈opposite monoid〉/反対群〈opposite group〉を表します。群Gの反対群はGopです。

(α:G\curvearrowrightX) in LeftPHS のとき、(α':X\curvearrowleftGop) を次のように定義できます。

  • For x∈X, g∈Gop, α'(x, g) := α(g, x)

台集合としては、Gop = G ですが、二項演算の順序が左右逆になります。このことにより、左G-作用が右Gop-作用に変わります。

今定義した右主等質集合 (α':X\curvearrowleftGop) を、もとの左主等質集合 (α:G\curvearrowrightX) の反対主等質集合〈opposite principal homogeneous set〉と呼びます。反対主等質集合の群は、もとの群の反対群です。

対応 (α:G\curvearrowrightX)  \mapsto (α':X\curvearrowleftGop) は、LeftPHSRightPHS という関手に拡張できます。これは、可逆な関手であり、左主等質集合の圏と右主等質集合の圏のあいだの1:1対応 LeftPHS←→RightPHS を与えます。

もうひとつ別な対応 LeftPHS←→RightPHS を定義します。(α:G\curvearrowrightX) in LeftPHS のとき、(α'':X\curvearrowleftG) を次のように定義します。

  • For x∈X, g∈G, α''(x, g) := α(g-1, x)

右主等質集合 (α'':X\curvearrowleftG) を、もとの左主等質集合 (α:G\curvearrowrightX) の反傾主等質集合〈contragredient principal homogeneous set〉*3と呼びます。反傾主等質集合の群は、もとの群と同じです。

対応 (α:G\curvearrowrightX)  \mapsto (α'':X\curvearrowleftG) も、LeftPHSRightPHS という関手に拡張でき、左主等質集合の圏と右主等質集合の圏のあいだの1:1対応 LeftPHS←→RightPHS を与えます。

次の記法を使うことにします。

  • (G\curvearrowrightX)op := ( (G\curvearrowrightX) の反対主等質集合 )
  • (G\curvearrowrightX)cog := ( (G\curvearrowrightX) の反傾主等質集合 )

反変準同型写像と反傾準同型写像

圏の場合、圏Cの反対圏Copから圏Dへの関手を反変関手と呼びます。同様に考えて、左主等質集合 (G\curvearrowrightX) の反対主等質集合 (G\curvearrowrightX)op(これは右主等質集合)から右主等質集合 (Y\curvearrowleftH) への準同型写像を、(主等質集合のあいだの)反変準同型写像〈contravariant homomorphism〉と呼ぶことにします。既に定義している通常の準同型写像が反変ではないことを強調したいなら共変準同型写像〈covariant homomorphism〉としましょう。

さらに、反傾主等質集合を使って同様な定義ができます。左主等質集合 (G\curvearrowrightX) の反傾主等質集合 (G\curvearrowrightX)cog(これは右主等質集合)から右主等質集合 (Y\curvearrowleftH) への準同型写像を、(主等質集合のあいだの)反傾準同型写像〈contragredient homomorphism〉と呼ぶことにします。

反変準同型写像と反傾準同型写像を使えば、左主等質集合と右主等質集合にまたがった射を考えることができます。

それから

このテの話をしているのは、ベクトル空間Vのフレーム集合 Frame(V) と、双対空間V*のフレーム集合 Frame(V*) の関係をハッキリさせるためです。これら2つのフレーム集合は、互いに相反〈reciprocal〉の関係にあるのです。次はそのあたりに話を進める予定です。

*1:引き戻し関手は様々な文脈で登場します。今話題にしているφ#は、主等質集合の文脈における引き戻し関手です。

*2:"contragradient" のミススペルかと思ったのですが、'a'じゃなくて'e'のようです。

*3:「反傾」は、群の線形表現における「反傾表現〈contragredient representation〉」から借用した形容詞です。