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参照用 記事

ベクトル空間の部分空間のジョイン・ミート・和

小ネタ。

$`V`$ をベクトル空間として、$`A, B`$ は $`V`$ の部分空間〈部分ベクトル空間〉だとします。そのとき、

$`\quad A + B = V \Leftrightarrow A \oplus B \cong V`$

という話をします。ここで、$`\oplus`$ はベクトル空間の直和です。$`+`$ は後で説明します。他に $`\lor, \land`$ という記号も使います。$`\oplus, +, \lor, \land`$ と色々な記号が出てくると面倒ですが、これらを同じ記号で表すのも分かりにくくてよろしくないんじゃないか、と思います。$`\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1}}
\newcommand{\In}{\text{ in } }
%\newcommand{\Imp}{ \Rightarrow }
\newcommand{\Iff}{\Leftrightarrow }
\newcommand{\hyp}{\text{-} }
\newcommand{\pto}{ \supseteq\!\to }
`$


$`V`$ の部分空間の全体の集合を $`\mrm{Subspace}(V)`$ とします。$`\mrm{Subspace}(V) \subseteq \mrm{Pow}(V)`$ なので($`\mrm{Pow}(\hyp)`$ はベキ集合)、$`\mrm{Pow}(V)`$ から受け継いだ包含順序で $`\mrm{Subspace}(V)`$ も順序集合になります。

$`A, B \in \mrm{Subspace}(V)`$ に対して、集合としての $`A\cup B`$ を含む最小の部分空間を $`A\lor B`$ と書くことにします。同様に、集合としての $`A\cap B`$ を含む最小の部分空間を $`A\land B`$ と書きます。実際は、$`A\land B = A\cap B`$ ですが、記法を揃える意味で $`\lor, \land`$ にします。$`A \lor B`$ も $`A \land B`$ も存在するので、次の写像が定義できたことになります。

$`\quad (\hyp \lor \hyp) : \mrm{Subspace}(V)\times \mrm{Subspace}(V) \to \mrm{Subspace}(V)\\
\quad (\hyp \land \hyp) : \mrm{Subspace}(V)\times \mrm{Subspace}(V) \to \mrm{Subspace}(V)
`$

$`A\land B = \{0\}`$ のときは、$`A \lor B`$ を $`A + B`$ と書くと約束します。$`A\land B \ne \{0\}`$ のときは $`A + B`$ は無意味・未定義だとするので、演算 $`+`$ は通常の写像ではなくて部分写像になります。このことを次のように書きます。

$`\quad (\hyp + \hyp) : \mrm{Subspace}(V)\times \mrm{Subspace}(V) \pto \mrm{Subspace}(V)
`$

$`+`$ は $`\lor`$ を制限したものなので、$`+`$ の定義域を $`D`$ とすると、次は可換図式になります。

$`\require{AMScd}
\quad \begin{CD}
D @>{(\hyp + \hyp)}>> \mrm{Subspace}(V)\\
@V{\subseteq}VV @| \\
\mrm{Subspace}(V)\times \mrm{Subspace}(V) @>{(\hyp \lor \hyp)}>> \mrm{Subspace}(V)
\end{CD}
`$

さて、一般に、ベクトル空間 $`X, Y`$ に対して、直和 $`X\oplus Y`$ が定義できます。$`X \oplus Y`$ は、集合としての直積 $`X \times Y`$ にベクトル空間の構造を入れたものです。$`A, B \in \mrm{Subspace}(V)`$ であるとき、$`A, B`$ がベクトル空間なのは間違いないので、一般論により $`A\oplus B`$ を作れます。その作り方から言って $`A\oplus B \in \mrm{Subspace}(V)`$ なんてことはありません

しかし、$`A\oplus B`$ から $`V`$ への規準的〈canonical〉な線形写像は存在します。その線形写像は包含写像(線形写像になる)のコペアとして与えられます。

$`\quad [i_A, i_B] : A \oplus B \to V\\
\text{where}\\
\quad i_A : A \to V \text{ inclusion}\\
\quad i_B : B \to V \text{ inclusion}
`$

コペア $` [i_A, i_B]`$ は圏論的な定義を持ちますが、具体的な表示を与えてしまうなら:

$`\quad [i_A, i_B]( (a, b)) = ( a + b \text{ in }V)
`$

次が言えます。($`\subseteq_\mrm{vect}`$ は部分空間としての包含。)

$`\quad \mrm{Img}([i_A, i_B]) = A\lor B \subseteq_\mrm{vect} V`$

もし、ベクトル空間として $`A\oplus B \cong V`$ ならば、同型は上記の規準的線形写像 $`[i_A, i_B]`$ で与えられると思ってかまいません。そして、ベクトル空間の圏内で $`A\oplus B \cong V`$ であることと、演算 $`+`$ を備えた順序集合 $`\mrm{Subspace}(V)`$ 内で $`A+B = V`$ であることは同値です。

この命題の実際の確認は省略しますが、$`+`$ の代わりに $`\oplus`$ をオーバーロード〈多義的使用〉して次のように書いたら分かりにくい(真意が伝わりにくい)とは言っておきます。

$`\quad A \oplus B = V \Leftrightarrow A \oplus B \cong V`$