スケマティック系〈schematic system〉は、絵図的手法を支える素材、道具、機器〈マシナリー〉一式を含んだシステムです。スケマティック系のハッキリとした定義はまだないです。が、スケマティック系を表す変数には筆記体 $`\mathscr{S}, \mathscr{T}`$ (これは S, T)などを使うと先走って約束しておきます。
スケマティック系の構成素、あるいはスケマティック系から一定の手順で構成できるものは、右肩に $`\mathscr{S}, \mathscr{T}`$ などを付けて表すことにします。例えば、スケマティック系 $`\mathscr{S}`$ のワイヤリング複圏〈ワイヤリング・オペラッド〉なら $`\mathcal{WM}^\mathscr{S}`$ と書きます。WM は Wiring Multicategory からです。
「スケマティック系のために: 雑多な予備知識」から:
サンセリフ体の名前は、スケマティック系の個有名として使うことにします。詳細はともかくとして、$`\mathsf{Kis13}`$ は、存在するだろうと期待される固有なスケマティック系の名前です。
「回路代数とグラフ置換モナド」で紹介したダンクソ/ハラーチェバ/ロバーツォンの論文も、ひとつのスケマティック系を定義するはずです。
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この論文で定義されるはずのスケマティック系は $`\mathsf{DHR20}`$ と名付けます。
上記引用では、論文の略称をスケマティック系の固有名とするネーミングルールですが、このルールは考え直します。
スケマティック系 $`\mathsf{DHR20}`$ の語源である論文は次です。
- [DHR20]
- Title: Circuit algebras are wheeled props
- Authors: Zsuzsanna Dancso, Iva Halacheva, Marcy Robertson
- Submitted: 21 Sep 2020
- Pages: 29p
- URL: https://arxiv.org/abs/2009.09738
しかし、回路代数が定義されている論文はより以前のものです。
- [BD14], [BD17]
- Title: Finite Type Invariants of w-Knotted Objects II: Tangles, Foams and the Kashiwara-Vergne Problem
- Authors: Dror Bar-Natan, Zsuzsanna Dancso
- Submitted: 8 May 2014 (v1), 3 Oct 2014 (v3)
- Pages: 57p
- URL: https://arxiv.org/abs/1405.1955
ArXiv投稿は2014年ですが、ジャーナル出版は2017年です。オフィシャルな引用は [BD17] とすべきでしょう。14か17かも迷いますが、BD はバエズ/ドーラン〈Baez-Dolan〉と同じ略称、紛らわしい。
というような諸般の事情で、論文の略称はやめて、次のような名前にします。
- $`\mathsf{BarDanCA}`$ : Dror Bar-Natan, Zsuzsanna Dancso; Circuit Algebra
同様なネーミングルールで:
- $`\mathsf{KisATS}`$ : Aleks Kissinger; Abstract Tensor System
- $`\mathsf{JonPA }`$ : Vaughan F. R. Jones; Planar Algebra
回路代数〈circuit algebra〉という言葉は、$`\mathsf{BarDanCA}`$ で定義される圏類似代数系に限らず、スケマティック系から関手意味論により定義される圏類似代数系一般を指すことにします。特に、バーナタン/ダンクソの回路代数の圏は次のように書けます。
$`\newcommand{mrm}[1]{\mathrm{#1}}\newcommand{msf}[1]{\mathsf{#1}}\newcommand{cat}[1]{\mathcal{#1}}\newcommand{\hyp}{\text{-} }
\quad \mrm{CircAlg}^\msf{BarDanCA}(\cat{V}) :=
{\bf MultiCAT}(\cat{WM}^\msf{BarDanCA}, \mrm{Multi}(\cat{V}))
`$
これは、次の一般的公式の変数 $`\mathscr{S}`$ に $`\msf{BarDanCA}`$ を代入したものです。
$`\quad \mrm{CircAlg}^\mathscr{S}(\cat{V}) :=
{\bf MultiCAT}(\cat{WM}^\mathscr{S}, \mrm{Multi}(\cat{V}))
`$
ここで、
- $`\cat{V}`$ は、特定のドクトリン(2-圏)に所属するモノイド圏。この場合は、 $`\cat{V}`$ は対称モノイド圏。
- $`{\bf MultiCAT}`$ は、小さいとは限らない複圏〈オペラッド〉達の2-圏。$`{\bf MultiCAT}(\hyp, \hyp)`$ はそのホム圏。
- $`\cat{WM}^\mathscr{S}`$ は、スケマティック系 $`\mathscr{S}`$ のワイヤリング複圏。
- $`\mrm{Multi}(\cat{V})`$ は、モノイド圏 $`\cat{V}`$ から標準的に作られた複圏。
バーナタン/ダンクソが実際に扱っているのは、$`K`$-線形な場合なので、$`\cat{V}`$ がベクトル空間達の対称モノイド圏(モノイド積はテンソル積)と置きます。
$`\quad \mrm{LinCircAlg}_K^\msf{BarDanCA} :=
\mrm{CircAlg}^\msf{BarDanCA}({\bf Vect}_K) \\
\quad :=
{\bf MultiCAT}(\cat{WM}^\msf{BarDanCA}, \mrm{Multi}({\bf Vect}_K) )
`$
一方、$`\msf{KisATS}`$ では、直積をモノイド積とする集合圏でモデルを定義しているので、次が $`\msf{KisATS}`$ の標準的な回路代数です。
$`\quad \mrm{SetCircAlg}^\msf{KisATS} :=
\mrm{CircAlg}^\msf{KisATS}({\bf Set}) \\
\quad :=
{\bf MultiCAT}(\cat{WM}^\msf{KisATS}, \mrm{Multi}({\bf Set}) )
`$