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主バンドルの基本的なこと (1/2)

次の記事で触れたマーシュの論説を、何人かでゆるゆると読んでいこうかと思ってます。

必要に応じて、他の資料も参照します。

なお、マーシュの2つの論説は、次の書籍のハイライト部分(9章と10章)を切り取ったものです*1

Mathematics for Physics: An Illustrated Handbook (Computational Mathematical and)

Mathematics for Physics: An Illustrated Handbook (Computational Mathematical and)

とりあえず、主バンドルに関して基本的な事項をメモしておきます。2回に分けます。この記事が1回目です。

内容:

はじめに

物理の言葉と微分幾何の言葉のあいだの翻訳には、次の対応表が使えます*2

物理 微分幾何
ゲージ場 ファイバーバンドル
ゲージ (ファイバーバンドルの)局所自明化
ゲージ群 (ファイバーバンドルの)構造群

この表から、ゲージ理論=ゲージ場の理論とは、ファイバーバンドルの理論だと分かります。ファイバーバンドルのなかで典型的で重要なものに、ベクトルバンドルと主バンドルがあります。ゲージ理論では、主バンドルを扱うことが多いようです(ベクトルバンドルも扱いますけどね)。

ここでは、主バンドルの記述方法について述べます。実例がないのが説明としては問題有りですが、定義の整理を目的にします。ベクトルバンドルのフレームバンドル(をご存知なら、それ)が主バンドルの例になります。ベクトルバンドルとしては、多様体の接バンドル、余接バンドル、埋め込みの法バンドルなど、そして、それらからテンソル積や外積で構成されるベクトルバンドルがあります。関連する絵は、マーシュの論説にたくさんあります。

概要

この節では、後で定義する用語(太字にしている)を遠慮なく使います。よく分からない言葉が出てきても気にしないか、飛ばすかして、必要に応じてまた読み返してください。

主バンドルの特徴は、バンドルの局所自明化*3とバンドルの局所セクションが1:1に対応することです。局所自明化はバンドルの局所座標なので、バンドルのチャートとも呼びます*4。つまり、主バンドルにおいては「バンドルのチャート←→バンドルの局所セクション」という1:1対応があります。

底空間の“良い”開被覆があれば、各開集合ごとにチャートを作れます。このようなチャートの集まりはバンドルのアトラスと呼びます。ファイバーバンドルの定義から、“良い”開被覆の存在は保証されるので、アトラスの存在も保証されます。主バンドルにおける「チャート←→局所セクション」の対応から、アトラス(=チャートの集まり)は局所セクションの集まりと対応します。

Gを構造群とする主バンドルの局所セクションの集まり〈族〉が与えられると、開集合の重なり部分でセクションの変換が生じます。これらの変換の集まり〈族〉は、(開被覆に載った)G係数1-コサイクルというものを定義します。

主バンドルのアトラスからG係数1-コサイクルを構成できますが、逆に、G係数1-コサイクルが与えられると、もとの主バンドルを再現できます。つまり、G係数1-コサイクルは、主バンドルの情報を(up-to-isoで)持っていることになります。

アトラスによる主バンドルの記述と、G係数1-コサイクルによる主バンドルの記述のあいだの対応を確立することが当面の目標です。

特定の空間上のファイバーバンドルの圏

最初に幾つかの記法を導入します。

なめらかな多様体となめらかな写像の圏を Man(∞) とします。右肩の (∞) は何回(何階)でも微分可能なことを示しますが、なめらかな多様体しか考えないので、Man = Man(∞) と略記します*5

一般に、圏Cの対象Xの自己同型射の集合を AutC(X) と書きますが、下付きを使わずに Aut_C(X) とも書き、混乱の恐れがなければ単に Aut(X) とします。

p:M→N in Man があり、pに注目している状況で、B⊆N に対する逆像 p-1(B) を、M|B と書くことにします。pを M|B に制限した写像は、p|B:M|B→B と書きます。これは便利な書き方ですが、f:M→N に対する通常の制限 f|A, A⊆M とは違うので混乱しないように注意してください。B = {y} のときは、p-1(y) = p-1({y}) = M|{y} = My と書きます。

さて、(E, B, F, π) がファイバーバンドル〈fiber bundle〉だとは、E, B, F はManの対象で、π:E→B はManの射であり*6、次を満たすことです。

  • [局所自明性] Bの任意の点xに対して、x∈U となるBの開集合Uと、同型 φ:E|U→U×F in Man が存在し、π|U = φ;π1 が成立する。ここで、π1:U×F→U は第一射影。

この条件を満たすには、次のようなことが必要なので、前もってファイバーバンドルの条件に入れておいてもいいです。

  1. π:E→B は全射
  2. x∈B に対して、π-1(x) は F と同型。

ファイバーバンドルを構成する各構成素は次のように呼びます。

  1. Eを、ファイバーバンドルの全空間〈{total | entrire} space〉と呼ぶ。
  2. Bを、ファイバーバンドルの底空間〈base space〉と呼ぶ。
  3. Fを、ファイバーバンドルの典型ファイバー〈{typical | standard} fiber〉と呼ぶ。
  4. πを、ファイバーバンドルの射影〈projection〉と呼ぶ。

π-1(x) = Ex を、x上のファイバー〈fiber | fibre〉といいます。底空間Bの各点ごとのファイバーを寄せ集めた〈束ねた〉空間が全空間Eになります。局所自明性から、Bの各点の周りの小さな範囲では E(の一部)は直積に見えます。

記号の乱用で、E = (E, B, F, π) のようにも書きます。ファイバーバンドル自体とその全空間をちゃんと区別したいなら ξ = (Eξ, Bξ, Fξ, πξ) のようにします。折衷案として、2つのファイバーバンドルを E = (E, B, F, π), E' = (E', B', F', π') のように書くこともあります。

底空間Bは固定して、2つのファイバーバンドル ξ = (Eξ, B, Fξ, πξ), η = (Eη, B, Fξ, πη) を考えます。ξからηへのファイバーバンドルの準同型写像〈homomorphism of fiber bundles〉は f:Eξ→Eη in Man であり、次を満たすものです。

  • f;πη = πξ

Bを固定したファイバーバンドルの全体とファイバーバンドルの準同型写像は圏をなすのは容易にわかります。この圏を Bld[B] とします。ホムセットは Bdl[B](ξ, η) のように書けます。自己同型射の集合は Aut_Bdl[B](ξ) ですね。

底空間を特定しないファイバーバンドルの圏

底空間を固定しないでファイバーバンドルの圏を定義します。E = (E, B, F, π) と E' = (E', B', F', π') を2つのファイバーバンドルとします。底空間が異なる(正確には、同じとは限らない)ファイバーバンドルのあいだの準同型写像〈homomorphism〉は次のように定義します。

  • φ:B→B', f:E→E' in Man の組 (φ, f) であって、f;π' = π;φ を満たすもの。

Eのファイバー Ex は、fにより、E'のファイバー E'φ(x) に写ります。これは、典型ファイバーの写像 F→F' を誘導します(一意ではないけど)。

任意の底空間(ただし、Manの対象)を持つファイバーバンドルを対象として、そのあいだの準同型写像を射とする圏を Bundle とします。そのホムセットは Bundle(ξ, η) です。φ:B→B' を固定して、(f, φ) と書けるような準同型写像の全体を Bundle(ξ, η)[φ] と書くことにします。すると:

  • Bdl[B](ξ, η) = Bundle(ξ, η)[idB]

Bdl[B] は、Bundle のなかに埋め込めます。

Bdl[-] をインデックス付き圏と考えて Bundle を構成する方法(グロタンディーク構成)もありますが、今は触れません。

バンドルチャートとバンドルアトラス

ファイバーバンドル (E, B, F, π) の定義には局所自明性が含まれます。局所自明性で述べられている同型 E|U→U×F を局所自明化〈local trivialization〉と呼びます。(E|U, U, F, π|U) はファイバーバンドルになり、(U×F, U, F, π1) もファイバーバンドルなので、局所自明化は、(E|U, U, F, π|U)→(U×F, U, F, π1) という形の、ファイバーバンドルのあいだの同型写像になります。

局所自明化 φ:E|U→U×F をバンドルチャート〈bundle chart〉とも呼びます。混乱の恐れがなければ、バンドルチャートを単にチャートとも呼びます。局所自明化〈バンドルチャート〉を持つような開集合Uを、局所自明化近傍〈local trivialization neighbourhood〉、バンドルチャート近傍〈bundle chart neighbourhood〉と呼びます。

Iを添字集合〈{index | indexing} set〉として、バンドルチャートの集まり (φα:E|Uα→Uα×F | α∈I) があり、(Uα | α∈I) が底空間Bを覆うとき、バンドルチャートの集まりをバンドルアトラス〈bundle atlas〉(あるいは単にアトラス)と呼びます。ファイバーバンドルは、必ずバンドルアトラスを持ちます。

バンドルアトラス、あるいは(被覆するとは限らない)バンドルチャートの族のあいだには、細分〈refinement | 詳細化〉という関係を定義できます。細分の話題はなかなかに面白いのですが、今日は割愛します。

ファイバーバンドルのセクション

ファイバーバンドルは、セクションを定義するためにあると言えます。多様体上の関数、ベクトル場、微分形式、テンソル場などはベクトルバンドル(ファイバーがベクトル空間であるファイバーバンドル)のセクションです。内積ベクトル空間がファイバーであるベクトル空間に対して、各点での単位球を取ると球バンドルになります。球バンドルのセクションは方向の場になります。

では、ファイバーバンドルのセクションを定義しましょう。(E, B, F, π) がファイバーバンドルのとき、s:B→E という写像が、s;π = idB を満たすとき大域セクション〈global section〉と呼びます。開集合 U⊆B に対して、s:U→E|U が s;π|U = idU を満たすなら、sを(U上で定義された)局所セクション〈local section〉と呼びます。局所セクションの定義域であるUは、局所自明化近傍である必要はありません。

ξ = (E, B, F, π) のとき、開集合 U⊆B 上で定義された局所セクションの集合を ΓB(U, ξ) と書きます。B自身もBの開集合なので、大域セクションの集合は ΓB(B, ξ) です。記号の乱用で E = ξ としているなら、ΓB(U, E) になります。層をご存知なら、ΓB(-, ξ) をB上の層にできることを確認してみてください。

α:E|Uα→Uα×F | α∈I) が ξ = (E, B, F, π) のバンドルアトラスのとき、大域セクション (s:B→E)∈ΓB(B, ξ) から、局所セクション (sα:Uα→E|Uα)∈ΓB(Uα, ξ) の集まりを構成できます。勝手な局所セクションの集まりから大域セクションを構成することはできません。どういう条件を付ければ大域セクションを構成できるかは、次回(2/2)話題にします。

多様体M上の微積分は、M上のベクトルバンドルξに対するセクションの層 ΓM(-, ξ) において行います。ΓM(U, ξ) は単なる集合ではなくて、それなりの構造を備えたベクトル空間や加群になります(そうでないと微積分ができないので)。


一般的なファイバーバンドルの話はしたので、次回(2/2)で主バンドルを定義します。

*1:そのことを僕は知りませんでした。Kさんに教えていただきました。

*2:ゲージポテンシャルやフィールドストレングスをゲージ場と呼ぶこともあります。そのときは、ファイバーバンドル(特に主バンドル)をゲージタイプと呼ぶようです。「場」については「微分幾何からゲージ理論へ // 「場」という言葉」を参照。

*3:構造群の群構造を忘れた空間を典型ファイバーにした場合。

*4:方向を区別するなら、チャートと反チャートの二種類があります。

*5:今回の話では、多様体の性質を特に使っていません。が、現実に使う場合は多様体であることが多いです。

*6:この定義は、Man内のファイバーバンドルの定義です。Man以外の圏でもファイバーバンドルは定義できます。