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参照用 記事

インデックスをできるだけ使わない共変微分計算

共変微分の接続係数が絡んだ計算を、インデックス〈添字〉無しで出来ないか? -- 行列成分/テンソル成分を表すインデックスの使用は抑えることが出来ます。成分にバラさないで、まるのまま計算すればいいからです。

インデックスを使わないことと、基底を取らないことは同じではありません。接続係数〈接続形式〉に関して言えば、基底(正確には局所フレーム)を取らないわけにはいきません。なぜなら、接続係数は、基底を選んだときにはじめて現れる量で、「基底なしの接続係数」という概念が無意味だからです(「騙されるな、接続係数(クリストッフェル記号)の仕掛け」参照)。

この記事では、ふたつの互いに双対な共変微分を例にして、インデックスを(できるだけ)使わない方法を紹介します。インデックス無しの計算が楽かと言えば、準備まで含めた労力は少なくはありません。計算そのものも、単純とは限りません。インデックス無しのメリットは、俯瞰的な立場から概念的・構造的な理解が得られる点でしょう。

逆に言えば、概念的・構造的な理解がないとインデックス無し計算は進みません。その点、インデックスを使う計算では、ガチャガチャがんばっていると何かしらの結果が得られるのが良いところです。まー、一長一短、トレードオフですな。
\newcommand{\hyph}{\mbox{-}}
\newcommand{\incat}{\:\: \mbox{in}\:}
\newcommand{\where}{\:\:\: \mbox{where}\:}
\newcommand{\eqon}{\:\:\: \mbox{on}\:}
\newcommand{\bilin}{\:\: \mbox{bilin}\:}
\newcommand{\covder}{\:\: \mbox{covder}\:}
\newcommand{\abb}{\stackrel{abb}{:=}}
\newcommand{\dototimes}{\overset{\cdot}{\otimes}}
\newcommand{\otimesdot}{\underset{\otimes}{\cdot}}
\newcommand{\L}{\langle}
\newcommand{\R}{\rangle}
%\newcommand{\Mid}{\bullet}
\newcommand{\Mid}{\:\|\:}
\newcommand{\vvec}[1]{{#1}\!\!\downarrow}

目次:

状況設定

Mを(なめらかな)多様体、U⊆M は開集合とします。これから出てくるM上のベクトルバンドルは、すべてU上で自明化〈trivialize〉できるとします。自明化〈trivialization〉とは、次のようなバンドル同型射〈可逆射〉 u です。

  •  u:E|_U \to Triv(U, {\bf R}^r) \incat {\bf VectBdl}[U]

ここで、

  1. E|U は、M上のベクトルバンドルEのUへの制限
  2. ベクトルバンドルEの階数〈rank〉(ファイバー次元)は r 。整数 r は、多様体の次元とは無関係
  3. Triv(U, Rr) は、全空間が U×Rr で、バンドルの射影が直積の第一射影 π1:U×Rr→U であるベクトルバンドル
  4. VectBdl[U] は、U上のすべてのベクトルバンドルと、ベクトルバンドルのあいだの底空間を動かさない準同型写像からなる圏

u は、圏VectBdl[U]の射なので、次の図式が(多様体の圏Manのなかで)可換になります。

\require{AMScd}
\begin{CD}
E|_U @>u>>  U\times {\bf R}^r \\
@V{\pi}VV         @VV{\pi_1}V \\
U  @= U
\end{CD} \\
\mbox{commutative}\incat {\bf Man}

開集合U上のEのフレーム〈局所フレーム | フレーム場 | フレーミング〉とは、自明化〈局所自明化〉の逆写像のことです。自明化 u の逆であるEのフレームを e とします。

  •  e := u^{-1} : Triv(U, {\bf R}^r)  \to E|_U \incat {\bf VectBdl}[U]

ところで、「騙されるな、接続係数(クリストッフェル記号)の仕掛け」では次のように書いています。定義が違う!

加群の基底に1から始まる番号を付けたものをフレーム〈frame〉といいます。

これはなぜかというと、以下のような集合達を、次々と1:1対応させる同型の系列があるからです。ここから先では、自明バンドル Triv(U, X) を XU と書きます(そのほうが見やすいので)。

  1.  {\bf VectBdl}[U]( {{\bf R}^r}_U, E|_U)
  2.  \Gamma_U( hom( {{\bf R}^r}_U, E|_U))
  3.  \Gamma_U( hom({\bf R}_U, (E|_U)^{[r]})  )
  4.  \Gamma_U( (E|_U)^{[r]}  )
  5.  (\Gamma_U( E|_U ) )^r

ここで、hom(-, -) はベクトルバンドルの内部ホム、(E|U)[r] は、ベクトルバンドルE|Uの、U上のファイバー積 ×U に関するr乗のことです。e∈VectBdl[U](RrU, E|U) なので、箇条書きを上から下に降りる同型の列にeを乗せれば、eは加群の直積 (ΓU(E|U))r に入るとみなせます。つまり、eは加群元のタプル(長さr)ともみなせ、線形同型射を表現していたのでタプルのr個の要素達は線形独立で生成的 -- つまり加群 ΓU(E|U) = ΓM(U, E) の基底です。

Eとは別に、もうひとつM上のベクトルバンドルE'があり、(E', E, <-|->) は双対ペアであるとします。これは、ベクトルバンドルの双線形写像〈ペアリング〉

  •  \L \hyph \mid \hyph \R : E' \times_M E \to {\bf R}_M  (ファイバーごとに双線形)

があり*1、ファイバーごとにベクトル空間の双対ペア (E'p, Ep, <-|->p) (p∈M)を定義していることです。

開集合U上で考えれば、Φ(U)-加群の双線形写像 ΓU(E'|U)×ΓU(E|U)→Φ(U) があり、非退化条件を満たすことです。Φ(U)は、U上のなめらかな関数の可換環でした(「騙されるな、接続係数(クリストッフェル記号)の仕掛け」参照)。Φ(U)-加群の双線形写像〈ペアリング〉も同じ記号 <-|-> で表します(オーバーロード)。

  •  \langle\hyph \mid \hyph\rangle : \Gamma_U(E'|_U) \times \Gamma_U(E|_U) \to \Phi(U) \bilin \incat \Phi(U)\hyph{\bf Mod}

Φ(U)-加群の圏のなかで双線形写像であることを  \bilin \incat \Phi(U)\hyph{\bf Mod} で示すことにします*2

その他の記号の約束

使う記号/記法は、ほぼ「騙されるな、接続係数(クリストッフェル記号)の仕掛け」に従います。記述の簡略化のために次の略記を導入します。 \abb は、左辺が右辺の略記〈abbreviation〉であることを示します。

  1.  \Phi \abb \Phi_M(U) = \Phi(U) = C^\infty(U)
  2.  \Omega \abb \Omega_M(U) = \Gamma_M(U, T^\ast M) = \Gamma_U(T^\ast M|_U)
  3.  \Sigma \abb \Gamma_M(U, E) = \Gamma_U(E|_U)
  4.  \Sigma' \abb \Gamma_M(U, E') = \Gamma_U(E'|_U)

Σが総和記号と紛らわしいので気をつけてください。Ω, Σ, Σ’ はいずれもΦ-加群です。

∇がベクトルバンドルEの共変微分のとき、∇の、開集合Uへの制限は次のように書きます。

  •  \nabla^U : \Gamma_M(U, E) \to \Gamma_M(U, E) \otimes_{\Phi(U)} \Omega_M(U)

略記を使えば:

  •  \nabla^U : \Sigma \to \Sigma \otimes_{\Phi} \Omega

このとき、∇の右肩のUも省略します。

  •  \nabla \abb \nabla^U

テンソル積は、Φ = Φ(U) に関して取るので、\otimes_\Phi を単に \otimes と書きます。すると、

  •  \nabla : \Sigma \to \Sigma \otimes \Omega

もうひとつの共変微分∇'は、

  •  \nabla' : \Sigma' \to \Omega \otimes \Sigma'

テンソル積の順序が変わっているのは、ペアリングと相性がいいようにです。小手先の工夫なので、深い意味はありません。

双線形写像のときと同じく、∇や∇'が共変微分〈covariant derivative〉であることを示すために次の記法を使います。

  • ∇:Σ→Σ\otimesΩ covder in Φ-Mod
  • ∇':Σ’→Ω\otimesΣ’ covder in Φ-Mod

共変微分はΦ-加群のあいだの写像ですが、Φ-線形写像ではないので注意してください。

加群の元 s とスカラー可換環の元)ξ との乗法は併置 ξs, sξ で書きますが、紛らわしいときは掛け算記号(ドット)を明示的に付けて  \xi\cdot s, s\cdot \xi とします。

関数 A の適用〈引数渡し〉は原則 A(x) ですが、混乱の危険がなければ併置 Ax も使います。

行列の記法

成分〈要素 | 項目 | 係数〉が集合Sの元で、m行n列の行列の全体を Mat[S](n, m) と書きます(n, mの順序に注意)。Mat[S](n, m) を  S[{}^m_n] とも書きます。さらに、混乱の恐れがなければ、

  •  S^n \abb S[{}^n_1] = Mat[S](1, n)
  •  S_n \abb S[{}^1_n] = Mat[S](n, 1)

ほとんどの場合、直積としてのn乗  S^n  S[{}^n_1] = Mat[S](1, n) を同一視しても問題ないでしょう。

Sn の要素を成分表示するときは、縦並び上付き添字にします。

  •  x = \begin{bmatrix}x^1 \\ x^2 \\ \vdots \\ x^n \end{bmatrix} \in S^n

Sn の要素を成分表示するときは、横並び下付き添字にします。

  •  x = \begin{bmatrix}x_1 & x_2 & \cdots & x_n \end{bmatrix} \in S_n

縦並びと横並びを区別するために、次のような注釈的飾り記号(矢印)を付けるといいかも知れません。

  • 縦並び  \vvec{x} \in S_n
  • 横並び  \vec{x} \in S^n

いいとは思うけど、系統的に使う気はないので、分かりにくいと思ったときだけ飾り記号を付けます(気まぐれ)。

Sが単なる集合ではなくて適切な演算を備えているときは行列の掛け算ができます。行列の掛け算は掛け算記号(ドットなど)で表します。掛け算記号の省略はしません(省略はだいぶ危険なので)。

以上の説明でだいたい間に合うと思いますが、諸々の記号/記法は次の記事にまとめてあります。

双対な共変微分

ふたつの共変微分 ∇:Σ→Σ\otimesΩ covder 、∇':Σ’→Ω\otimesΣ’ covder が双対〈dual〉であるとは、次の等式が成立することです。

  •  d \L t \mid s \R = \L \nabla' t \mid s \R +  \L t  \mid \nabla s \R \eqon \Omega

出現する要素の型を見てみると:

  1. t ∈Σ’
  2. s ∈Σ
  3. < t | s> ∈Φ
  4. d< t | s> ∈Ω
  5. ∇t ∈Ω\otimesΣ’
  6. ∇s ∈Σ\otimesΩ

となると、右辺に出てくる <-|-> は、最初に導入した <-|->:Σ’×Σ→Φ とは違うことが分かります。区別して書くことにします。

  • <-|->' : Σ’×(Σ\otimesΩ)→Ω bilin in Φ-Mod
  • <-|->'' : (Ω\otimesΣ’)×Σ→Ω bilin in Φ-Mod

それぞれ、

  • <t|s\otimesω>' := <t|s>ω
  • \otimest|s>'' := ω<t|s>

この記法を使うと、最初に書いた等式は:

  •  d \L t \mid s \R = \L \nabla' t \mid s \R'' +  \L t  \mid \nabla s \R' \eqon \Omega

ちょっと煩雑になりますが、こう書いたほうが混乱は少なくなります。慣れれば、こういう区別は不要ですし、区別しないほうが見た目はスッキリします。

これから、ふたつの共変微分 ∇, ∇' が双対になるための条件を調べていきます。計算の準備が色々と必要です。

フレーム(または自明化)が決める自明微分

eがベクトルバンドルEのU上のフレーム e:RrU→E|U だとすると、先に述べたことから、eは加群Σの基底要素を番号順に並べたものとみなせます。記号'e'をオーバーロード(多義的使用)して:

  • e ∈Σr

並べる方向と添字の約束から、

  •  e = \vec{e} = \begin{bmatrix} e_1 & e_2 & \cdots & e_r \end{bmatrix} \in \Sigma_r

一方、関数の縦タプル σ∈Φr は次のように書けます。

  •  \sigma = \vvec{\sigma} = \begin{bmatrix} \sigma^1 \\ \sigma^2 \\ \vdots \\ \sigma^r \end{bmatrix} \in \Phi^r

e と σ の行列積は次のようになります。


\:\:\:\:e\cdot\sigma = \vec{e}\cdot \vvec{\sigma} \\
= \begin{bmatrix} e_1 & e_2 & \cdots & e_r \end{bmatrix}\cdot \begin{bmatrix} \sigma^1 \\ \sigma^2 \\ \vdots \\ \sigma^r \end{bmatrix} \\
= e_1\cdot \sigma^1 + e_2\cdot \sigma^2 + \cdots e_r\cdot \sigma^r \in \Sigma

最後の行のドットは、Φ-加群Σの元への右スカラー乗法です。

以上の記法を使うと、任意の元 s∈Σ は、適当な σ∈Φr により s = e・σ と書けます。この場合、関数〈スカラー〉はドットの右側に来ます。

さて、フレーム(自明化の逆) e から決まる右自明共変微分を次のように定義します*3

  •  ({}^e RD)(s) = ({}^e RD)(e\cdot \sigma) := e \dototimes d\sigma

右辺の dσ は単に関数のタプルを微分したもので、

  •  d\sigma = d(\vvec{\sigma}) = d\begin{bmatrix} \sigma^1 \\ \sigma^2 \\ \vdots \\ \sigma^r \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} d\sigma^1 \\ d\sigma^2 \\ \vdots \\ d\sigma^r \end{bmatrix} \in \Omega^r

記号 \dototimesテンソル積をベースにした行列積のことで、次のように定義されます。


\:\:\:\: e \dototimes \alpha = \vec{e} \dototimes \vvec{\alpha} \\
= \begin{bmatrix} e_1 & e_2 & \cdots & e_r \end{bmatrix} \dototimes \begin{bmatrix} \alpha^1 \\ \alpha^2 \\ \vdots \\ \alpha^r \end{bmatrix} \\
:= e_1 \otimes \alpha^1 + e_2 \otimes \alpha^2 + \cdots + e_r \otimes \alpha^r
\in \Sigma \otimes \Omega

演算 \dototimes のプロファイル(域と余域)は、

  •  (\vec{\hyph} \dototimes \vvec{\hyph}) : \Sigma_r \times \Omega^r \to \Sigma\otimes \Omega \bilin \incat \Phi\hyph{\bf Mod}

RD は "right derivative" のつもりです。右側にあるスカラータプルにだけ作用する微分作用素です。別な言い方をすると、フレーム e を構成するセクション達を微分したらゼロになります*4

  •  ({}^e RD)(e_i) = 0 \in \Sigma\otimes \Omega \:\:\:\mbox{for}\:\: i = 1,2,\cdots, r

ライプニッツ法則を考慮すれば、「右側にだけ作用 ⇔ フレームの微分はゼロ」です。

自明化 u:E|URrU を選ぶとフレーム e = u-1 : RrU→E|U が決まり。フレーム e が決まるとその右自明微分 eRD : Σ→Σ\otimesΩ が決まります。

  • eRD : Σ→Σ\otimesΩ covder in Φ-Mod

一般の共変微分 ∇:Σ→Σ\otimesΩ covder に対して、eRD との差をとることにより、∇の、eに対する右接続形式〈right connection form〉を定義できます。

  •  {}^e RC(\nabla) := \nabla - {}^e RD
  •  \nabla = {}^e RD +  {}^e RC(\nabla)

ここでの「右」にさほどの意味はありません。双対的な状況において、ペアのどちらであるかを区別するために「左右」を使っています。

接続形式は共変微分と同じプロファイル(域と余域)を持つ作用素 Σ→Σ\otimesΩ です。“形式”と呼ばれるのは、以下のような集合達を、次々と1:1対応させる同型の系列があるからです。

  1.  \Phi\hyph{\bf Mod}(\Sigma, \Sigma\otimes \Omega)
  2.  \Phi\hyph{\bf Mod}(\Phi \otimes \Sigma, \Sigma\otimes \Omega)
  3.  \Phi\hyph{\bf Mod}(\Phi, \underline{hom}(\Sigma, \Sigma\otimes \Omega))
  4.  \underline{hom}(\Sigma, \Sigma\otimes \Omega)
  5.  \Sigma^\ast \otimes (\Sigma\otimes \Omega)
  6.  (\Sigma^\ast \otimes \Sigma) \otimes \Omega
  7.  \underline{end}(\Sigma) \otimes \Omega

下線が付いた hom, end は、Φ-加群の圏における内部ホム/内部エンドです。eRC(∇)∈Φ-Mod(Σ, Σ\otimesΩ) なので、箇条書きを上から下に降りる同型の列に eRC(∇) を乗せれば、eRC(∇) は end(Σ)(ベクトルバンドルなら end(E|U))に値を持つ1次微分形式とみなせます。

なお、ふたつの共変微分の差がΦ-線形写像になり、共変微分の空間が、Φ-加群を差分加法群〈difference additive group〉とするアフィン構造を持つことは、次の記事に書いています。

双対的な自明微分

Φ-加群Σの双対相方〈dual partner〉であるΣ’上の共変微分 ∇':Σ’→Ω\otimesΣ’ covder に関しても、前節と同様な議論をします。同様なので、さっさと済ませます。

fはベクトルバンドル E' のU上のフレームですが、f:(Rr)U→E'|U とします。前節との違いは、実数を横に並べた  {\bf R}_r = {\bf R}[{}^1_r] = Mat[{\bf R}](r, 1) を使っていることです。これは、右と左を入れ替えたときに辻褄が合うようにです。このタイプのフレームをコフレーム〈coframe〉と呼ぶことがあります。

  • f∈Σ’r

とみなします。関数の横タプル τ∈Φr と f との行列積は次のようになります。


\:\:\:\:  \tau\cdot f = \vec{\tau} \cdot \vvec{f} \\
= \begin{bmatrix} \tau_1 & \tau_2 & \cdots & \tau_r \end{bmatrix}\cdot \begin{bmatrix} f^1 \\ f^2 \\ \vdots \\ f^r \end{bmatrix} \\
= \tau_1\cdot f^1 + \tau_2\cdot f^2 + \cdots + \tau_r\cdot f^r
\in \Sigma'

任意の元 t∈Σ’ は、適当な τ∈Φr により t = τ・f と書けます。この場合、関数〈スカラー〉横タプルはドットの左側に来ます。

f から決まる左自明共変微分を次のように定義します。

  •  (^f LD)(t) = (^f LD)(\tau\cdot f) := d\tau \dototimes f

ここでの演算  \dototimes のプロファイルは:

  •  (\vec{\hyph} \dototimes \vvec{\hyph}) : \Omega_r \times \Sigma'^r \to \Omega \otimes \Sigma' \bilin \incat \Phi\hyph{\bf Mod}

同じ記号' \dototimes 'がオーバーロードされてますが、行列積の演算子記号はだいたいにおいてオーバーロードされるものです。これで、左自明共変微分が定義されました。

  •  {}^f LD : \Sigma' \to \Omega\otimes \Sigma' \covder \incat \Phi\hyph{\bf Mod}

一般の共変微分 ∇':Σ’→Ω\otimesΣ’ covder に対して、fLD との差をとることにより、∇'の、fに対する左接続形式〈left connection form〉を定義できます。

  •  {}^f LC(\nabla') := \nabla' - {}^f LD
  •  \nabla' = {}^f LD +  {}^f LC(\nabla')

繰り返しますが、左右の区別は便宜的なもので、本質ではありません。

相反フレーム

前々節のフレーム e:RrU→E|U (あるいは e∈Σr)と、前節のフレーム〈コフレーム〉 f:(Rr)U→E'|U (あるいは f∈Σ’r)は特に関係性を想定していません。しかし、勝手に取ってきた e と f だと、計算がめんどくさくなり、いいことがありません。都合の良い e と f のペアを選びましょう。

都合の良い e と f のペアとは、次の等式を満たすものです。

  •  \L f^j \mid e_i \R = \delta^j_i \:\:\:\mbox{for}\:\: i, j = 1,2,\cdots, r

右辺はクロネッカーのデルタです。この条件を満たす e と f は、互いに相反フレーム〈reciprocal frame〉だと言います。「双対フレーム」と呼ぶことが多いですが、「双対」の通常の意味・用法とだいぶ食い違うので「相反」を使います。

相反フレームである条件を行列の形で書くなら:


\begin{bmatrix}
\L f^1 \mid e_1 \R & \ldots & \L f^1 \mid e_r \R \\
\vdots             & \ddots & \vdots \\
\L f^r \mid e_1 \R & \ldots & \L f^r \mid e_r \R \\
\end{bmatrix}
=
\begin{bmatrix}
1 &      \ldots & 0 \\
\vdots & \ddots & \vdots \\
0 &      \ldots & 1 \\
\end{bmatrix}
\eqon \Phi[{}^r_r]

さて、スカラー \L\hyph \mid \hyph \R をベースにした行列積 \L\hyph \Mid \hyph \R を次のように定義しましょう。


\:\:\:\: \L f \Mid e \R = \L \vvec{f} \Mid \vec{e} \R \\
=
\L
\begin{bmatrix}
f^1    \\ f^2 \\
\vdots \\ f^r
\end{bmatrix}
\Mid
\begin{bmatrix}
e_1 & e_2 & \ldots & e_r
\end{bmatrix}
\R \\
:=
\begin{bmatrix}
\L f^1 \mid e_1 \R & \ldots & \L f^1 \mid e_r \R \\
\vdots             & \ddots & \vdots \\
\L f^r \mid e_1 \R & \ldots & \L f^r \mid e_r \R \\
\end{bmatrix}
\in \Phi[{}^r_r]

演算  \L \hyph \Mid \hyph \R のプロファイルは:

  •  \L \vvec{\hyph} \Mid \vec{\hyph} \R  : \Sigma'^r \times \Sigma_r \to \Phi[{}^r_r] \bilin \incat \Phi\hyph{\bf Mod}

今定義した  \L \hyph \Mid \hyph \R を使って相反フレームの条件を書くならば:

  •  \L f \Mid e \R = \L \vvec{f} \Mid \vec{e} \R = I_r \eqon \Phi[{}^r_r]

ここで、 I_r は r×r の単位行列です。

行列計算

接続形式の計算では、番号付き基底であるフレームを選択しているので、インデックスを一切使わないわけにはいきません。ですが、インデックスの使用を行列計算の内部に閉じ込めることはできます。この節で、行列の計算法則を幾つか準備します。([追記]この節の説明は抽象度が低く見通しが悪いので、別な記事でもう少し一般的に述べるつもりです。[/追記]

最初に、各型ごとに使う変数名を決めておきます。

型(集合/加群 変数名 矢印付き 備考
Σ s  s = \vec{e}\cdot \vvec{\sigma} 加群の元
Σ’ t  t = \vec{\tau} \cdot \vvec{f} 双対加群の元
Σr e \vec{e} フレーム
Φr σ \vvec{\sigma} フレームによる縦表示
Σ’r f  \vvec{f} コフレーム
Φr τ  \vec{\tau} コフレームによる横表示
Ωr α  \vvec{\alpha} 微分形式の縦タプル
Ωr β  \vec{\beta} 微分形式の横タプル
\otimesΩ)r ω  \vec{\omega} Σ値微分形式の横タプル
\otimesΣ’)r ρ  \vvec{\rho} Σ’値微分形式の縦タプル

こういう対応を決める方法は、規模が大きくなると破綻します(覚えきれない!)。型と名前の対応を決める代わりに、添字を型注釈として用いる方法があります。それについては次の記事を参照してください。

 \L \hyph \Mid \hyph \R 以外に、 \L\hyph \mid \hyph \R', \L\hyph \mid \hyph \R'' をベースにした行列積も定義しておきます。

行列積 プロファイル ベースにする演算 備考
 \L \vvec{\hyph} \Mid \vec{\hyph} \R  \Sigma'^r \times \Sigma_r \to \Phi[{}^r_r]  \L \hyph \mid \hyph \R 左右ともセクション
 \L \vvec{\hyph} \Mid \vec{\hyph} \R'  \Sigma'^r \times (\Sigma\otimes\Omega)_r  \to \Omega[{}^r_r]  \L\hyph \mid \hyph \R' 右が微分形式
 \L \vvec{\hyph} \Mid \vec{\hyph} \R'' (\Omega\otimes\Sigma')^r \times \Sigma_r \to \Omega[{}^r_r]  \L\hyph \mid \hyph \R'' 左が微分形式

これらの行列積の定義は以下のとおりです。


\:\:\:\: \L f \Mid \omega \R' = \L \vvec{f} \Mid \vec{\omega} \R' \\
=
\L
\begin{bmatrix}
f^1    \\ f^2 \\
\vdots \\ f^r
\end{bmatrix}
\Mid
\begin{bmatrix}
\omega^1 & \omega^2 & \ldots & \omega^r
\end{bmatrix}
\R' \\
:=
\begin{bmatrix}
\L f^1 \mid \omega^1 \R' & \ldots & \L f^1 \mid \omega^r \R' \\
\vdots             & \ddots & \vdots \\
\L f^r \mid \omega^1 \R' & \ldots & \L f^r \mid \omega^r \R' \\
\end{bmatrix}


\:\:\:\: \L \rho \Mid e  \R'' = \L \vvec{\rho} \Mid \vec{e}  \R'' \\
=
\L
\begin{bmatrix}
\rho^1    \\ \rho^2 \\
\vdots \\ \rho^r
\end{bmatrix}
\Mid
\begin{bmatrix}
e_1 & e_2 & \ldots & e_r
\end{bmatrix}
\R'' \\
:=
\begin{bmatrix}
\L \rho^1 \mid e_1 \R'' & \ldots & \L \rho^1 \mid e_r \R'' \\
\vdots             & \ddots & \vdots \\
\L \rho^r \mid e_1 \R'' & \ldots & \L \rho^r \mid e_r \R'' \\
\end{bmatrix}

様々な行列積のあいだには、結合法則が成立します。

  1.  \L \vec{\tau}\cdot \vvec{f} \mid s \R = \vec{\tau}\cdot \L \vvec{f} \Mid s \R
  2.  \L t \mid \vec{e}\cdot \vvec{\sigma} \R =  \L t \Mid \vec{e} \R \cdot \vvec{\sigma}
  3.  \L \vvec{f} \Mid (\vec{e} \dototimes \vvec{\alpha}) \R' = \L \vvec{f} \Mid \vec{e} \R \cdot \vvec{\alpha}
  4.  \L (\vec{\beta} \dototimes \vvec{f}) \Mid \vec{e} \R'' = \vec{\beta} \cdot \L \vvec{f} \Mid \vec{e} \R

結合法則に見えませんか?  \L \hyph \mid \hyph \R, \L \hyph \mid \hyph \R', \L \hyph \mid \hyph \R'', \L \hyph \Mid \hyph \R, \L\hyph \Mid \hyph \R', \L\hyph \Mid \hyph \R'' は似たりよったりなので、すべて \diamond で書くことにして、 \cdot,\; \otimesdot も同じ記号(ドット)で書くことにすると次のようになります。

  1.  (\tau \cdot f) \diamond s = \tau \cdot (f \diamond s)
  2.  \tau \diamond (e \cdot \sigma) = (\tau \diamond e) \cdot \sigma
  3.  f \diamond (e \cdot \alpha) = (f \diamond e) \cdot \alpha
  4.  (\beta \cdot f) \diamond e = \beta \cdot (f \diamond e)

結合法則でしょ。これらの証明は、定義に従って“インデックス計算”をしてください。

ここでの行列計算の話は、演算子記号をたくさん導入したりしてアドホックな印象があるでしょうが、もっと一般的かつ系統的に定式化できます。演算子記号が爆発することもありません。が、複圏/多圏の概念が必要になり、それなりに面倒です。

双対な接続の条件

計算の道具が揃ったので、∇:Σ→Σ\otimesΩ covder と ∇':Σ’→Ω\otimesΣ’ covder が双対な接続である条件を、相反フレームに対する接続形式により記述しましょう。e∈Σr, f∈Σ’r を相反フレームとします。接続形式を次のように置きます。

  • A := eRC(∇) : Σ→Σ\otimesΩ in Φ-Mod
  • B := fLC(∇') : Σ’→Ω\otimesΣ’ in Φ-Mod

したがって、

  • ∇ = eRD + A : Σ→Σ\otimesΩ covder in Φ-Mod
  • ∇' = fLD + B : Σ’→Ω\otimesΣ’ covder in Φ-Mod

∇と∇'が互いに双対である条件は以下でした。

  •  d \L t \mid s \R = \L \nabla' t \mid s \R'' +  \L t  \mid \nabla s \R' \eqon \Omega

この等式の左辺と右辺を別々に計算してみます。まずは左辺を。


\:\:\:\; d\L t \mid s \R \\
= d\L \tau\cdot f \mid e \cdot \sigma \R \\
= d( \tau \cdot \L f \Mid e \R \cdot \sigma ) \\
= d( \tau \cdot I_r \cdot \sigma ) \\
= d( \tau \cdot \sigma ) \\
= d\tau \cdot \sigma + \tau \cdot d\sigma

最後のライプニッツ法則は、関数タプルの行列積に関するライプニッツ法則です。その証明は難しくはありません。

次に右辺を計算します。 Ae = A(\vec{e}), Bf = B(\vvec{f}) は、線形写像 A, B の引数と値をタプルに拡張して考えます。


\:\:\:\; \L \nabla' t \mid s \R'' +  \L t  \mid \nabla s \R' \\
%
= \L ({}^f LD + B)(\tau\cdot {f}) \mid {e}\cdot \sigma \R'' +
\L \tau \cdot {f}  \mid ({}^e RD + A) ({e}\cdot\sigma) \R' \\
%
= \L ({}^f LD)(\tau\cdot {f}) \mid {e}\cdot \sigma \R'' +
\L B(\tau\cdot {f}) \mid {e}\cdot \sigma \R'' + \\
\:\:\:\;  \L \tau \cdot {f}  \mid ({}^e RD) ({e}\cdot\sigma) \R' +
\L \tau \cdot {f}  \mid A({e}\cdot\sigma) \R' \\
%
= \L d\tau\dototimes {f} \mid {e}\cdot \sigma \R'' +
\L \tau\cdot B{f} \mid {e}\cdot \sigma \R'' + \\
\:\:\:\;  \L \tau \cdot {f}  \mid {e} \dototimes d\sigma \R' +
\L \tau \cdot {f}  \mid A{e} \cdot\sigma \R' \\
%
= d\tau\cdot \L {f} \Mid {e} \R \cdot \sigma  +
 \tau\cdot \L B{f} \Mid {e}  \R'' \cdot \sigma + \\
\:\:\:\;  \tau \cdot \L {f} \Mid {e}  \R \cdot d\sigma +
\tau \cdot \L {f}  \Mid A{e}  \R' \cdot\sigma \\
%
= d\tau\cdot \sigma  +
 \tau\cdot \L B{f} \Mid {e}  \R'' \cdot \sigma + \\
\:\:\:\;  \tau \cdot  d\sigma +
\tau \cdot \L {f}  \Mid A{e}  \R' \cdot\sigma \\

並び方向を示す矢印付きだと分かりやすいかな? かえって鬱陶しいかも。


\:\:\:\; \L \nabla' t \mid s \R'' +  \L t  \mid \nabla s \R' \\
%
= \L ({}^f LD + B)(\vec{\tau}\cdot \vvec{f}) \mid \vec{e}\cdot \vvec{\sigma} \R'' +
\L \vec{\tau} \cdot \vvec{f}  \mid ({}^e RD + A) (\vec{e}\cdot\vvec{\sigma}) \R' \\
%
= \L ({}^f LD)(\vec{\tau}\cdot \vvec{f}) \mid \vec{e}\cdot \vvec{\sigma} \R'' +
\L B(\vec{\tau}\cdot \vvec{f}) \mid \vec{e}\cdot \vvec{\sigma} \R'' + \\
\:\:\:\;  \L \vec{\tau} \cdot \vvec{f}  \mid ({}^e RD) (\vec{e}\cdot\vvec{\sigma}) \R' +
\L \vec{\tau} \cdot \vvec{f}  \mid A(\vec{e}\cdot\vvec{\sigma}) \R' \\
%
= \L d\vec{\tau}\dototimes \vvec{f} \mid \vec{e}\cdot \vvec{\sigma} \R'' +
\L \vec{\tau}\cdot B\vvec{f} \mid \vec{e}\cdot \vvec{\sigma} \R'' + \\
\:\:\:\;  \L \vec{\tau} \cdot \vvec{f}  \mid \vec{e} \dototimes d\vvec{\sigma} \R' +
\L \vec{\tau} \cdot \vvec{f}  \mid A\vec{e} \cdot\vvec{\sigma} \R' \\
%
= d\vec{\tau}\cdot \L \vvec{f} \Mid \vec{e} \R \cdot \vvec{\sigma}  +
 \vec{\tau}\cdot \L B\vvec{f} \Mid \vec{e}  \R'' \cdot \vvec{\sigma} + \\
\:\:\:\;  \vec{\tau} \cdot \L \vvec{f} \Mid \vec{e}  \R \cdot d\vvec{\sigma} +
\vec{\tau} \cdot \L \vvec{f}  \Mid A\vec{e}  \R' \cdot\vvec{\sigma} \\
%
= d\vec{\tau}\cdot \vvec{\sigma}  +
 \vec{\tau}\cdot \L B\vvec{f} \Mid \vec{e}  \R'' \cdot \vvec{\sigma} + \\
\:\:\:\;  \vec{\tau} \cdot  d\vvec{\sigma} +
\vec{\tau} \cdot \L \vvec{f}  \Mid A\vec{e}  \R' \cdot\vvec{\sigma} \\

以上の計算から、∇と∇'が互いに双対である条件は次のようになります。


\:\:\:\;\tau\cdot \L Bf \Mid e  \R'' \cdot \sigma + \tau \cdot \L f  \Mid Ae  \R' \cdot\sigma = 0
\eqon Ω[{}^r_r]

これは、行列に関する方程式です。任意の τ, σ に対してこの等式が成立する必要があるので、要求される方程式は:


\:\:\:\; \L Bf \Mid e  \R''     = - \L f  \Mid Ae  \R'\:\: \mbox{on}\: Ω[{}^r_r]

これは、微分形式を成分とする r×r 行列の等式です。ここから、(必要なら)露骨な〈explicit〉成分表示を得ることもできます。が、今回はしません。いつか、インデックスをバキバキ使った計算を扱うときの例題に残しておきます。

*1:ベクトルバンドルの双線形写像は、ベクトルバンドル準同型写像ではありません。ファイバーごとに線形写像にはならないからです。次の脚注も参照。

*2:実際には、加群の圏のなかに双線形写像は存在しません。双線形写像の居場所は別に設定する必要があります。それについては、「テンソル積の作り方」参照。

*3:騙されるな、接続係数(クリストッフェル記号)の仕掛け」では、標準共変微分と呼んだものです。左右の区別は双対性を扱うための便宜的なものです。

*4:物理的に言えば、フレームとは観測者が使う参照系なので、「参照系は静止している」と仮定した微分操作が自明微分です。