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参照用 記事

テンソル:定義とか周辺の話とかナニやら

奇遇ですね。

テンソルってなんかよくわかんね」

僕も比較的最近、「テンソルってなんなんだよ」と考える機会がありました。

テンソルってなんなんだよ」と最初に考えたのはもう二十数年も前になるのではないでしょうか。それ以来、たまに思い起こすことがあります。

昔(二十から三十年ほど前です)は、微分幾何や物理工学系の本も含めて勘定すれば、テンソルの本はけっこうたくさんあったように思います。が、最近は何故かあんまり見かけませんね(僕の気のせいでしょうか?)。まーとにかく、当時はテンソルの教科書は複数あって見比べることも出来たのですが、どれを読んでもサッパリまったく理解できませんでした。

これは黒魔術か?

それらの本におけるテンソルの定義は次のようなものでした。

  • i1, ..., in、j1, ..., jmを適当な範囲を動く添字(番号)だとして、添字付けられた数(スカラー)の組 ai1, ..., inj1, ..., jmテンソルと呼ぶ。

(↑HTMLでうまくレンダリングできるかな?)添字に添字が付いているし、上付き添字は累乗と紛らわしいし、「いったいなんなんだよ?! これはっ(怒)」という気分でした。

すぐさま、総和記号を省略するルール(アインシュタイン規約)が導入され、魔術じみた(と僕には思える)添字計算で、不気味な等式が羅列されます。

最初は数の組と言っておきながら、いつのまにか ai1, ..., inj1, ..., jmは実は座標x1, ..., xkの関数だってことになって、ai1, ..., inj1, ..., jm(x1, ..., xk)という量を微分したり積分したり。あげくに、座標変換に対してこう変換しないとテンソルじゃないとか言い出すし。(エーッ、数の組がテンソルじゃなかったのー?)

物理工学的バックグラウンドがあるなら、“慣性テンソル”とか“ひずみテンソル”とかの具体的/現象的イメージを持てるのでしょうが、「行列の化け物みたいなもの」程度の理解だと、フラストレーションがたまるばっかり。

ネルソンの本

このフラストレーションから幾分は抜け出せたのは、ネルソン(Edward Nelson)の"Tensor Analysis"という本のおかげです。このエントリーを書くために検索したら、"Tensor Analysis"は現在ダウンロード可能になってました(http://www.math.princeton.edu/~nelson/books/ta.pdf;スキャン漏れで欠落しているページがありますが)。

ネルソンの本は、スカラーテンソルにモダンな*1定義を与え、古典的な記法を(少しトリッキーな方法で)合理化してました。ネルソン本は僕には難物でしたが、クリアに書いてあるのでフラストレーションの原因にはなりませんでした。黒魔術に思えた計算も、背後にある実体との対応が取れるようになって、少しは(ほんの少し)追いかけられるようになったのです。

背後の実体とは何か

テンソル計算は、黒魔術でも何でもなく、実際は機械的な計算なので(もちろん、コンピュータで出来ます)我慢して慣れれば何とかなります。あとは、具体的/現象的なイメージとつながれば、テンソル計算を使いこなせるのでしょう。

でも、僕のようにこらえ性がなくて、物理工学的背景を何も持ってないと、別な方法でイメージを作るしかないですね。好みや傾向の問題もありますが、僕にとっては、テンソル代数とテンソル解析が一緒(ゴッチャ)になっているのが辛かったので、複線形代数とファイバーバンドルの議論に分けてみて、やっとスッキリしました。

それと、古典的なテンソル計算/テンソル解析だと、外積代数や微分形式をまったく出さず、その代替物(疑ベクトルとか)で押し通すので、ここらも(人によっては)気持ち悪く感じる原因です。

遠回りかも知れませんが、スッキリさせたいなら、次のような順序で学ぶのがいいような気がします(単なる主観だけど)。

  1. 多様体の基礎的なこと
  2. 双対空間とテンソル積/外積を含む複線形代数
  3. 接バンドルとその双対(余接バンドル)、それらのテンソル積/外積
  4. ベクトル場と微分形式
  5. 一般のファイバーバンドルと切断面(セクション)の微積分(接続とか共変微分

テンソル圏、ヒエログリフブレイド、結び目

表現論とか数理物理で、テンソル圏という概念が登場するようになりました。まだ、用語・定義に揺らぎがあるんですが、複線形代数圏論的な定式化をさらに抽象化したようなものです。

テンソル圏まで抽象化されると、古典的テンソル計算との直接的な関係は見えにくくなりますが、それでも「テンソル」と呼ぶのは正統のような気がします。実際、古典的テンソル計算がテンソル圏の実例を提供したりしますし。

一方、テンソル計算を単なる機械的な操作とみなして、それを絵で表現すると、ペンローズやカウフマンの世界に入り込むのですが、ジョイアルとストリート(Joyal A. and Street R. "The geometry of tensor calculus I" 1991)やカウフマン自身は、絵(ヒエログリフ)を結び目の議論に関係付けています。

テンソル圏も、なぜかブレイディングを通じて結び目の理論に“からまったり”します。これはいったい何なんでしょう? 表層しか見えない僕には内的必然性が全然わかりません。いやー、不思議だなー、と思うだけ。

(とはいえ、簡単なお絵描きだけで分かる断片的事実もあるので、紹介したいなーとしばしば思いながらもなかなか進まないのぉ。)

テンソルってなんなんだよ

比較的最近「テンソルってなんなんだよ」と考えたのは、石原繁先生(1922年生まれ!)の『テンソル』って本(復刻版なのかな?)を見つけたからです。

テンソル―科学技術のために

テンソル―科学技術のために

(少なくとも僕の印象では)古典的なテンソル計算の本をめっきり見なくなったので、「おおー、珍しい」とか思って買い込んでしまいました。僕がかつてフラストレーションをつのらせたスタイルで書いてあって「いやー、これこれ、これだよ」と眺めていたわけ。そんな古典的お約束の導入部分はともかくとして、後半の応用は僕が毛嫌いして挫折した物理工学的な話なので、一日5分くらいずつ読んでみようかとか思ってます。

件の幸せ本もいいのかも知れない。

*1:ネルソンの本は1967年の講義録がベースになっているので40年も前の本です。でも、19世紀スタイルではなくて20世紀スタイルで書かれている点でモダンだったのです。