昨日と一昨日話題にしたカルタン微分計算系〈Cartan calculus〉ですが、これはとても良いですね。知名度と人気はあまりないらしく、まとまった資料もないのですが、多様体上の微分計算を整理する枠組みとしてすごく便利です。
3つのオペレータ d, L, i に関する6つの等式(うち5つ4つは交換子で書ける)にまとめられているのが素晴らしい。
[追記 date="2022-01-12"]幾何学徒さんのコメントにより、3番目のマジック公式をブラケットからブレイスに訂正しました。ブレイスは交換した積の足し算です。[/追記]
それぞれの公式が、どのオペレータ達を関係付けているかを表にまとめると:
d | L | i | |
---|---|---|---|
d | 公式 1 | 公式 2, 公式 3 | 公式 3 |
L | - | 公式 4 | 公式 3, 公式 5 |
i | - | - | 公式 6 |
“公式3=マジック公式”は、3つのオペレータのあいだの関係を示しています。
公式を番号で識別するのは辛いので、名前を付けておきましょう。
- 外微分の平方零性〈nilquadraticy | square-zero property〉
- 外微分とリー微分の交換可能性
- カルタンのマジック公式
- リー微分のリー準同型性(X LX がリー代数の準同型になっていること)
- リー微分と内微分の交換関係
- 内微分の交代性〈反対称性〉(iXiY の X, Y を入れ替えると符号が変わること)
d, L, i はどれも、階付きベクトル空間〈graded vector space〉Ωの自己準同型写像です。オペレータの次数も付けて書けば:
- dk:Ωk→Ωk+1 (1次のオペレータ)
- Lk:Ωk→Ωk (0次のオペレータ)
- ik:Ωk→Ωk-1 (-1次のオペレータ)
リー微分Lの0階部分 L0:Ω0→Ω0 は、Dとか∂とも書かれ、L0X は、DX, ∂X あるいは単に X とも書かれます。このリー微分の0階部分が偏微分〈方向微分〉と呼ばれる微分演算になります。偏微分を別扱いしてもいい(そのほうが分かりやすい気もする)ですが、リー微分の一部に吸収したほうがスッキリします。
カルタン微分計算系の3つのオペレータと6つの等式をキチンと記述するには、その下部構造や周辺構造を考える必要があります。6つの等式以外に、ライプニッツ律〈ライプニッツの法則〉、ヤコビ律〈ヤコビの恒等式〉、シュバレー/アイレンベルク微分(の定義)、Ωのグラスマン代数構造なども考慮する必要があります。カルタン微分計算系は、それら、関連する諸々の事柄を整理してまとめ上げるテンプレート〈様式 | 書式〉を提供します。
通常の微分計算を、カルタン微分計算系をテンプレートにして整理できれば、微分計算の拡張や変形を考えることもできるでしょう。
[追記 date="当日"]
3つのオペレータ d, L, i と6つの公式との関係を絵に描きました。
[/追記]