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参照用 記事

微分インフラとはカルタン微分計算系

シュバレー/アイレンベルク関手の話 // 微分インフラとシュバレー/アイレンベルク関手」に次のように書きました。

多様体上で微分計算をするときに必要な演算〈操作〉には何があるでしょうか。並べてみます。

  1. 関数の偏微分
  2. ベクトル場のリー微分
  3. 微分形式の外微分
  4. 微分形式の内微分

[...snip...]

上記の4種の微分操作〈導分〉達〈four derivation operators〉を備えたシステムを微分インフラ〈differential infrastructure〉と呼びましょう。「微分インフラ」は、厳密な定義を持つ言葉ではなくて、雰囲気な言葉ですが、上記4種の微分操作の存在は念頭に置きます。

モヤッとした概念に名前を付けたのですが、もっとハッキリした定義があるようです。Cartan calculus というものです(昨日知った)。

"calculus"を「微分計算系」と訳してカルタン微分計算系と呼ぶことにします。リー微分、外微分、内微分を持つような計算系であり、それらの微分達の相互関係が次の等式達で規定されています。

  1.  d\circ d = 0
  2.  d\circ L_X - L_X \circ d = 0
  3.  d\circ i_X - i_X \circ d = L_X
  4.  L_X \circ L_Y - L_Y \circ L_X = L_{[X, Y]}
  5.  L_X \circ i_Y - i_Y \circ L_X = i_{[X, Y]}
  6.  i_X \circ i_Y + i_Y \circ i_X = 0

nLab項目 Cartan calculus には次の形の等式が載っています。

  1.  [d, i_X ] = L_X (上記 3)
  2.  [L_X,  L_Y] = L_{[X, Y]} (上記 4)
  3.  [L_X,  i_Y] = i_{[X, Y]} (上記 5)
  4.  [i_X, i_Y] = 0 (上記 6)

等式の左辺で使われている括弧積は交換子積で、 [X, Y] := X\circ Y \pm Y\circ X と定義されて、プラスかマイナスかは X, Y の次数〈grade | degree〉で決まります。ただし、等式の右辺に出てくる括弧積はリー代数組み込みの括弧積です。

最初に挙げた6つの等式はすべてが独立(依存関係がない)ということではなくて、最終的にこれらが揃えばいい(カルタン微分計算系と呼ぶにふさわしい)ということでしょう。実際の例においては、幾つかの等式は自明になることがあります。キモとなる等式は  [d, i_X ] = L_X で、カルタンのマジック公式〈Cartan's magic formula〉と呼ばれています。他の等式もカルタン由来です。

モヤッとした概念“微分インフラ”を、カルタン微分計算系と定義すれば、構成素と構造、満たすべき性質(等式的な公理)がハッキリして、(オフィシャルに)議論の対象にできます。よかった、よかった。