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参照用 記事

原子射と末端射

2012年に「デジタルなモノイド」という記事を書きました。モノイド $`M`$ に「原子的な要素」という概念があり、$`M`$ が原子的な要素で生成されているとき、$`M`$ はデジタルっぽいよね、という話です。「原子的なもので生成されている」ということを、モノイドから圏や2-圏に一般化してみます。

原子的は、それ以上分解できないことですが、それ以上進めない/戻れない対象・射を表す形容詞として末端的〈extremal〉を使います。末端的な対象・射もこの記事で導入します。$`\newcommand{\mrm}[1]{ \mathrm{#1} }
\newcommand{\In}{\text{ in }}
\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}
`$

内容:

動機

ボリソフ/マニンの半グラフの圏、コステロの半グラフの圏などは、具体的・組み合わせ的に構成された圏です。カローラ、バラ〈rose | 薔薇〉、植物(連結な半グラフ)、カローラ林などの概念も具体的・組み合わせ的なものです。これらの概念を公理的に定義しようとすると、原子生成系/モノイド原子生成系(後述)や相対末端対象/相対余末端対象などの概念が必要になります。

組み合わせ的に生成されて組み合わせ的な記述が可能な対象物の公理化、という点ではデジタルなモノイドと共通しています。

圏の原子射

圏 $`\cat{C}`$ の恒等射ではない射 $`f`$ の、任意の因子分解〈factorization〉 $`f = f_1;f_2`$ に対して、常に次のどちらかが成立するとき、$`f`$ は原子的〈atomic〉だといいます。

  1. $`f_1 = f`$ かつ $`f_2 = \mrm{id}_{\mrm{cod}(f)}`$
  2. $`f_1 = \mrm{id}_{\mrm{dom}(f)}`$ かつ $`f_2 = f`$

原子的な $`f`$ を原子射〈atomic morphism〉と呼びます。

恒等射を原子射に入れてないので、原子射をまったく持たない圏もあります。離散圏は原子射を持ちません。有向グラフから生成された自由圏〈パスの圏〉において、もとのグラフの辺は自由圏内では原子射になります。

圏 $`\cat{C}`$ の原子射の集合 $`A \subseteq \mrm{Mor}(\cat{C})`$ があって、任意の恒等射でない射が、$`A`$ に属する射の結合で書けるとき、$`\cat{C}`$ は原子分解〈atom factorization〉を持ちます。あるいは、原子生成系〈atomic generator〉を持つ圏です。そのような圏 $`\cat{C}`$ では、対象の集合と原子射の集合からどんな射でも構成・表現できるので、$`\cat{C}`$ は扱いやすい圏だと言えます。

2-圏の原子射

$`\cat{K}`$ を、厳密とは限らない2-圏とします。横結合(1-射も2-射も)の演算子記号は $`*`$ とします。

2-圏 $`\cat{K}`$ の恒等2-射ではない2-射 $`\alpha`$ が縦原子的〈vertically atomic〉であることは、2-射が2-圏のホム圏において原子的であることです。

2-圏 $`\cat{K}`$ の恒等1-射と同型ではない1-射 $`f`$ が横原子的〈horizontally atomic〉であるとは、任意の(横方向の)因子分解〈factorization〉 $`f \cong f_1 * f_2`$ に対して、常に次のどちらかが成立することです。

  1. $`f_1 \cong f`$ かつ $`f_2 \cong \mrm{id}_{\mrm{cod}(f)}`$
  2. $`f_1 \cong \mrm{id}_{\mrm{dom}(f)}`$ かつ $`f_2 \cong f`$

別な言い方をすると、分解した因子のうち $`f_1`$ か $`f_2`$ のどちらかひとつだけが $`f`$ に同型となることです。

モノイド圏の原子射と原子対象

$`\cat{M}`$ を、厳密とは限らないモノイド圏とします。モノイド積(0-射も1-射も)の演算子記号は $`\otimes`$ とします。単位対象は $`I`$ とします。

モノイド圏 $`\cat{M}`$ の恒等射ではない射 $`f`$ が原子的〈atomic〉であることは、射がモノイド圏の台圏において原子的であることです。

モノイド圏 $`\cat{M}`$ の単位対象と同型ではない対象 $`A`$ がモノイド原子的〈monoidally atomic〉であるとは、任意の(モノイド積の)因子分解〈factorization〉 $`A \cong A_1 \otimes A_2`$ に対して、常に次のどちらかが成立することです。

  1. $`A_1 \cong A`$ かつ $`A_2 \cong I`$
  2. $`A_1 \cong I`$ かつ $`A_2 \cong A`$

別な言い方をすると、分解した因子のうち $`A_1`$ か $`A_2`$ のどちらかひとつだけが $`A`$ に同型となることです。

モノイド圏 $`M`$ が、モノイド原子的な対象の集合 $`A \subseteq \mrm{Obj}(\cat{M})`$ と原子的な射の集合 $`F\subseteq \mrm{Mor}(\cat{M})`$ を持ち、任意の単位対象に同型でない対象が、$`A`$ に属する対象のモノイド積と同型になり、任意の恒等射でない射が、$`F`$ に属する射の結合とモノイド積の組み合わせで書けるとき、$`\cat{M}`$ はモノイド原子分解〈monoidal atom factorization〉を持ちます。あるいは、モノイド原子生成系〈monoidal atomic generator〉を持つモノイド圏です。

末端対象と末端射

圏 $`\cat{C}`$ の対象 $`X`$ が、$`X`$ から出る射が同型射〈可逆射〉に限るとき末端射〈extremal object〉と呼ぶことにします。任意の対象から末端対象への射は末端射〈extremal morphism〉と呼びます。

双対的に、圏 $`\cat{C}`$ の対象 $`Y`$ が、$`Y`$ に入る射が同型射〈可逆射〉に限るとき余末端射〈coextremal object〉と呼ぶことにします。余末端対象から任意の対象への射は余末端射〈coextremal morphism〉と呼びます。

$`\cat{D}`$ が、圏 $`\cat{C}`$ の広い部分圏〈{wide | broad} subcategory〉だとします。$`\cat{C}`$ の対象($`\cat{D}`$ の対象でもある)が、$`\cat{D}`$ 内で末端的/余末端的なとき、$`\cat{D}`$ に関して相対末端対象〈relatively extremal object〉/相対余末端対象〈relatively coextremal object〉と呼ぶことにします。部分圏 $`\cat{D}`$ を明示して $`\cat{D}`$-末端対象$`\cat{D}`$-余末端対象ともいいます。