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参照用 記事

斜め射と斜め圏

亜群をベースとする圏類似構造: コステロの事例」において次のように書きました。

ケビン・コステロが定義した“グラフの圏”は、実際には圏になってません。しかし、ほとんど圏と同様に扱えますし、役に立ちます。

コステロの半グラフ圏から二重関手意味論へ」では、コステロが“圏”と呼んでいるものを二重圏として定義しています。

ですが、コステロ以外の人も“圏”扱いしています。どうやら、「ほとんど圏だから、圏のように扱っても問題なかろう」ということらしいです。そこで、この「ほとんど圏」をもう一度考えてみます。$`\newcommand{\Qdr}[4]{ #1 {\overset{#2}{ \underset{#3}{\Box} }} #4 }
\newcommand{\In}{\text{ in }}
\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}
`$


二重圏 $`D`$ において2本の縦射と2本の横射が構成する次の図式を($`\cat{D}`$ 内の)四辺形〈quadrilateral〉と呼ぶことにします。「四角形」ではなくて「四辺形」なのは、内部が無いことを強調しています。同じ矢印記号で描いてますが、$`\alpha, \beta`$ は横射〈プロ射〉です。

$`\require{AMScd}
\quad \begin{CD}
A @>{\alpha}>> B \\
@V{f}VV @VV{g}V\\
C @>{\beta}>> D
\end{CD}\\
\quad \In \cat{D}
`$

四辺形をテキストでは $`f {\overset{\alpha}{ \underset{\beta}{\Box} }} g`$ と書くことにします。四辺形が与えられたとき、その四辺形を境界とする2-射〈二重射〉の集合を次のように書きます。

$`\quad \cat{D}(\Qdr{f}{\alpha}{\beta}{g})`$

$`\cat{D}`$ のどんな四辺形に対しても、上記の2-射の集合が空集合か単元集合であるとき、二重圏 $`\cat{D}`$ はやせている〈thin〉といいます。圏に対する“やせている”の二重圏バージョンです。

横射と縦射のペアで対象〈0-射〉を共有するものをコーナー〈corner〉と呼びます。次のように書けばそれはコーナーを意味します。

$`\quad { {} {\overset{\alpha}{ \underset{}{\urcorner} }} g }, \; { f {\overset{}{ \underset{\beta}{\llcorner} }} {} }`$

やせた二重圏 $`\cat{D}`$ において、コーナーに対して、それを含む四辺形と内部を埋める2-射(あれば一意的)を、コーナーの対角補完〈diagonal completion〉と呼びましょう。任意のコーナーに対角補完があるなら、二重圏 $`\cat{D}`$ は対角補完を持つ〈has diagonal completions〉といいます。

コステロやその他の人々が使っている「ほとんど圏」は次のような二重圏です。

  1. 縦射はすべて可逆である(縦射の圏〈対象の圏〉は亜群)。
  2. やせている。
  3. 対角補完を持つ。

このような二重圏のなかのコーナー $`{ {} {\overset{\alpha}{ \underset{}{\urcorner} }} g }`$ または $`{ f {\overset{}{ \underset{\beta}{\llcorner} }} {} }`$ を斜め射〈slanting morphism〉とも呼びます(単なる別名)。二重圏の対象〈対象の圏の対象〉と斜め射から圏を構成できます(構成法は明らかでしょう)。この圏(普通の圏)を、二重圏の斜め圏〈slanting category〉と呼ぶことにします。以下では、「二重圏」は斜め圏を持つ二重圏のことです。

二重圏の斜め圏は通常の圏ですが、もとの二重圏の可逆縦射があるので、縦射で繋がっている対象をしばしば同一視します。例えば、通常の圏と考えて2つの射が結合可能でなくても、余域と域が縦射で繋がっていれば結合してもいい、といったルーズな運用をします。ルーズなところが気持ち悪かったり戸惑ったりしますが、背後に二重圏があると思えば、変なことをしているわけではありません。

というわけで、“半グラフの圏”と言った場合、実際には特殊な二重圏から作られる斜め圏を意味しています。ほとんど圏なので圏扱いしてしまう、という事情です。

斜め圏は、背後の二重圏と実質的には同じものです。斜め圏と背後の二重圏を同一視して次のような言い方もします。

  • 斜め圏の横射プロ射〉は、二重圏の横射〈プロ射〉
  • 斜め圏の同型射は、二重圏の縦射
  • 斜め圏のは、二重圏の斜め射

二重圏の縦射の亜群が $`\cat{G}`$ のとき、その二重圏の斜め圏を$`\cat{G}`$上の斜め圏〈slanting category over $`G`$〉と呼ぶことにします。