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参照用 記事

モノイドと圏はやっぱり似ているね

昨日のエントリーへのHNさんのコメントに触発されたことがあります。とはいっても、新しいことを思いついたのではなくて、少し頭の中を整理しただけのことですが。

モノイドの再定式化

(M, ・, 1) がモノイドだってことを言い換えてみましょう。m:M×M→M と u:{0}→M を m(x, y) = x・y、u(0) = 1 と定義すると、集合圏で射 m:M×M→M, u:1→M (1 = {0} は、集合圏の終対象かつ直積単位)があって、結合律と単位律に相当する可換図式が成立していることになります。

[結合律]
  M×M×M - m×id → M×M
    |                |
  id×m               m
    ↓                ↓
   M×M  ----- m --→ M

[左単位律]
  1×M - u×id →M×M
   |             |
   |             m
   ↓             ↓
   M ============ M

[右単位律]
  M×1 - id×u →M×M
   |             |
   |             m
   ↓             ↓
   M ============ M

つまり、射の可換図式でモノイド構造は定義できるってことです。

モノイド圏内のモノイド

普通のモノイド=集合圏内のモノイド構造の定義で使っているものとして、圏の概念(対象、射、恒等、結合)以外に、直積×と単元集合1があります。直積と、直積単位としての単元集合を、モノイド積(monoidal product)とモノイド単位(monoidal unit)に一般化すれば、任意のモノイド圏内でモノイドが定義できます。

この話は「圏、関手、モナドはどうしたら分かるの?」の最後のほうでもしています。Kをなんらかのスカラー体として、K-ベクトル空間の圏VectKテンソル積を一緒に考えるとモノイド圏(モノイド単位はスカラー体)です。この圏のなかのモノイドは、普通“代数”(algebra)と呼ばれます。「代数」って呼び名はアンマリだと僕は思うのですが、すごく一般的なのでしょうがありません。HNさんも付記していたように、日本語では多元環という言葉もあるのですが、使用例は減っていて絶滅危惧語じゃないでしょうか(「多元環」保存会を作るべきかも)。

Aが代数(多元環)だということをハッキリ述べると、AはK-ベクトル空間で、m:A(×)A→A、u:K→A という線形写像があり、これらがモノイドのときと同じ可換図式(等式系でも同じ)を満たすことです。ただし、「直積⇒テンソル積、単元集合⇒スカラー体」の置き換えをします。m:A(×)A→A が線形だということは、集合レベルの直積A×A上で双線形ということなので、掛け算の普通の性質を見たし、Aは掛け算付きベクトル空間となります。行列環が“代数=ベクトル空間の圏内のモノイド”の典型例です。

もうひとつの興味深い例は、圏Cの自己関手と自然変換の圏 CC を、関手の結合を非対称なモノイド積とする厳密モノイド圏と考えた場合のモノイドです。これはモナドになります(モナドはモノイドなのです)。このことは「自己関手の圏とモナド」で書いています(中途半端に^^;)。

余代数と双代数

圏では、矢印の向きをひっくり返せば双対概念を定義できるので、モノイドの双対としてコモノイド(余モノイド)を定義できます。特に、K-ベクトル空間の圏では、代数の双対で余代数です。代数/余代数には、別な定義/別な用法もありますが、ここで言っているのは、代数における代数/余代数です -- って、意味不明じゃ! えーと、主に計算科学で多用される代数/余代数じゃなくて、代数学でよく出てくる代数/余代数ってことです。

余代数は、余乗法(余積)Δ:A→A(×)A と 余単位 ε:A→K を持ち、余結合律と余単位律を満たすような代数系です(なんか、ヨ、ヨ、ヨ、だわねー)。[追記]この段落の残りの部分はウソ:[/追記]有向グラフがあると、辺集合から作った自由ベクトル空間に、辺hに対してその分解 h = e;f 全体に渡る総和をΔ(h)として余乗法を定義できます。余単位は、形式的線形結合の係数を合計した値です。この構成を有向完全グラフに対して行った例が、HNさんが言及なさっていたものです。

[追記]
上の段落は、勢いと予測で書いたものだったので、後から少し計算してみました。有向グラフに対して作るベクトル空間は、辺から自由生成というよりは、道(辺をいくつかつないだもの)から自由生成と考えたほうがいいようです。ベクトル空間としてはどっちでも同じになってしまいますが、(←これはウソ)後の扱いが異なります。

道αがあるとき、α = α12 のような道の分解に対して、テンソル積α1(×)α2を作って、すべての分解に渡って足したものがΔ(α)です。この定義で、道の3分解と2分解の関係を考えると、余結合律は自然に成立します。

が、余単位律を確認できませんでした。余単位の定義が間違っているのかとも思いましたが、A→K の線形写像となると係数(成分)の和以外にありそうもないですよね。どっかで僕が見落としか勘違いをしている気配ですが、どうもわかりませーん。

[追記の追記]わかった、やっぱり勘違いしてました。修正は「グラフから作る道の余代数」に書きました。[/追記の追記]
[/追記]

ひとつのベクトル空間Aに、代数構造 m, u と余代数構造 Δ, εが一緒に載っていて、余乗法Δが代数射になっている(あるいは乗法が余代数射になっている)とき、その構造を双代数と呼びます。先の有向グラフの例で、双対空間には代数の構造が入る(これもHNさんご指摘)ので、適当に内積を入れて、もとの空間と双対空間を同一視すれば、双代数になるはずです(いま、確認してないけど)。ホップ代数はもうちょい構造が付け加わったもので、群の表現論とかで出てくるみたいですが、僕は知りません。

双代数はそれほど珍しいものじゃなくて、正規表現圏論的に解釈してみたら、双代数に出会った経験があります。代数(モノイド)か余代数(コモノイド)しか見えてない状況でも、相方を探すと双代数になっていることがあるんじゃないでしょうか。

余圏と双…ウッ!

集合(または類)Uをひとつ固定して、U←C→U というスパンを考えると、これはUを頂点集合とする有向グラフになります。U←C→U と U←D→U に対して、C→U←D の部分からファイバー積 C×UD を作るとまた有向グラフになるので、その他諸々をうまく定義すれば、Uを頂点集合とするグラフの全体は、ファイバー積をモノイド積とするモノイド圏になります。実は、この圏におけるモノイド (C, c:C×UC→C, u:U→C) が圏に他なりません。圏を定義するのに、外側の圏を使っているのがインチキっぽいですが、あんまり気にしないでください。

有向グラフの圏のなかで、双対的にコモノイドを考えたら、圏の双対概念“余圏”ってことになりますね。同じ台の上に、圏構造と余圏構造が載っていて協調していれば、それは双圏 … いやっ、双圏(bicategory)は全然別な意味があるから使えないなー。なんでしょ?

まーともかく、代数/余代数/双代数のような概念のアナロジーを追いかけることができるので、群やモノイドで使えた手法の一部はそのまま、あるいは多少の変形で使えるかもしれません。もっとも、そんな安易なことしてみて面白いかどうかは、また別問題ですがね。